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平成16年神審第55号
件名

モーターボート日吉丸のり養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成16年9月10日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:日吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
日吉丸・・・プロペラに絡網して航行不能
養殖施設・・・のり網5枚に損傷

原因
針路の選定不適切

裁決主文

 本件のり養殖施設損傷は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月28日06時30分
 播磨灘上島灯台南南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 モーターボート日吉丸
総トン数 2.90トン
全長 9.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 69キロワット

3 事実の経過
 日吉丸は、FRP製モーターボートで、平成15年8月一級小型船舶操縦士(5トン限定)・特殊小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、知人2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.40メートル船尾0.81メートルの喫水をもって、平成15年12月28日05時50分兵庫県東播磨港港奥の係留地を発し、南方沖合約6海里の播磨灘鹿ノ瀬に設置されたのり養殖施設(以下「養殖施設」という。)北縁の釣り場に向かった。
 ところで、鹿ノ瀬一帯には、上島灯台からそれぞれ、157度(真方位、以下同じ。)4.8海里、125度7.2海里、133度8.7海里、172度7.2海里及び173度6.0海里の5地点で囲まれる五角形をした海域に養殖施設が設けられ、外縁部には黄色の閃光を発する標識灯が、約300メートルの間隔で取り付けられ、養殖施設内には多数ののり網が設置されていた。
 A受審人は、平素から養殖施設付近で釣りを楽しみ、標識灯及びのり網の存在をよく知っており、当日は同施設北西端の標識灯(以下「5番標識灯」という。)を目標に接近し、同灯を確認した後、標識灯の外側を通って約600メートル東方の標識灯(以下「3番標識灯」という。)に向かい、同灯に係留索をとって釣りをすることとした。
 06時03分A受審人は、上島灯台から075度4.3海里の地点で、針路を5番標識灯に向首する202度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 06時26分半A受審人は、5番標識灯の東方至近で、上島灯台から157度4.8海里の地点に差し掛かったとき、針路を180度とし、極微速力の2.0ノットに減速して同標識灯の番号を確認していたところ、同乗者が、同標識灯に係留索をとろうとしたので、船首に赴いて同人にキャビンに戻るよう指示するうち、5番標識灯の内側に入り込んだ。
 06時29分A受審人は、上島灯台から157.3度4.9海里の地点において、養殖施設内に入り込んだことを知ったので、同施設から離れるために右に回頭して速力を6.0ノットに増速し、同時29分半わずか過ぎ上島灯台から158度4.9海里の地点において、5番標識灯からの離れ具合を見て養殖施設の北西端を替わしていけるものと思い、同施設に乗り入れることのないよう、同標識灯の外側を迂回する針路とするなど、針路の選定を適切に行わないで、3番標識灯に向く073度に転針し、10.0ノットの速力で進行したところ、のり網の西面付近に向首するようになった。
 A受審人は、のり網に向首していることに気付かないで、3番標識灯に向けて進行中、06時30分日吉丸は、上島灯台から157度4.9海里の地点において、同針路、同速力のまま、のり網に乗り入れて船体が停止した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、日出は07時06分であった。
 養殖施設に乗り入れた結果、養殖施設ののり網5枚に損傷を生じ、新替えされた。一方、日吉丸は、プロペラに絡網して航行不能となり、養殖施設所有者の船により引き出されたのち、巡視艇によって発航地に曳航された。 

(原因)
 本件のり養殖施設損傷は、夜間、播磨灘上島灯台南南東方沖合において、養殖施設北西端の5番標識灯の外側を通って同標識灯の東方に位置する3番標識灯に向かおうとしたが、5番標識灯の内側に入り込み、改めて3番標識灯に向かう際、針路の選定が不適切で、養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、播磨灘上島灯台南南東方沖合において、養殖施設北西端の5番標識灯を確認したのち、標識灯の外側を通って同標識灯の東方に位置する3番標識灯に向かおうとしたが、5番標識灯の内側に入り込んだのち、3番標識灯に向かう場合、養殖施設に乗り入れることのないよう、5番標識灯の外側を迂回するなど、針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同標識灯からの離れ具合を見て養殖施設の北西端を替わしていけるものと思い、針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、右に回頭して3番標識灯に向けて転針し、養殖施設に向首進行して同施設への乗り入れを招き、養殖施設ののり網5枚に損傷を生じさせるとともに自船を絡網させ、航行不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。





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