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平成16年横審第44号
件名

油送船旭竜丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年9月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(安藤周二、西田克史、浜本 宏)

理事官
西林 眞

指定海難関係人
A社 業種名:造船業

損害
主機フランジ継手ボルト、船尾管軸封装置シールリング等の損傷

原因
造船業者の、中間軸とプロペラ軸とを連結するフランジ継手の継手ボルトの冷しばめ工程確認及び締付け不適切

主文

 本件機関損傷は、造船業者が、中間軸とプロペラ軸とを連結するフランジ継手の継手ボルトの冷しばめ工程確認及び締付けがいずれも適切でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月25日15時10分
 東京湾中ノ瀬
 (北緯35度24.0分東経139度44.5分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船旭竜丸
総トン数 3,590トン
全長 104.47メートル
機関の種類 過給機付2サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 3,900キロワット
回転数 毎分210

(2)設備及び性能等
ア 旭竜丸
 旭竜丸は、平成13年6月21日A社において進水した、国内諸港間の石油製品運搬業務に従事する船尾船橋型油送船で、船尾上甲板下の機関室に主機を装備し、主機の遠隔操縦装置を備えていた。
イ 主機
 主機は、同年3月にB社が製造した6L35MC型と呼称する自己逆転式ディーゼル機関で、燃料最大噴射量制限装置の付設により計画出力2,990キロワット同回転数毎分192(以下、回転数は毎分のものとする。)として登録されていた。また、主機は、遠隔操縦装置の自動制御機能によって危険回転数を含む回転数132ないし156の範囲が速やかに増速され、同範囲の過大なねじり振動の影響が回避されるようになっていた。
ウ 軸系
 軸系は、C社が設計してD製作所で製造された炭素鋼鍛鋼品製の長さ5,250ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径355ミリの中間軸及び長さ5,125ミリ外径360ミリのプロペラ軸、並びに中間軸受等から構成され、主機クランク軸と中間軸、同軸とプロペラ軸とがそれぞれ各軸端部のフランジ継手を介して連結されていた。
 ところで、中間軸とプロペラ軸とを連結するフランジ継手は、いずれも軸端と一体となった外径650ミリ、中間軸側及びプロペラ軸側の厚さ65ミリ及び70ミリのもので、直径545ミリのピッチ円上8箇所に内径48ミリのリーマ穴が設けられていて、リーマ部外径48ミリ全長210ミリねじの呼び径42ミリねじ部長さ39ミリの炭素鋼鍛鋼品製継手ボルト(以下「継手ボルト」という。)を冷しばめ工程による締め代(しめしろ)0.007ミリでプロペラ軸側からリーマ穴に挿入し、常温状態に復した後、中間軸側から二面幅65ミリ厚さ34ミリの鋳鋼品製六角ナットを嵌め(はめ)、所定の締付けトルク138キログラムメートルで締め付け、継手ボルト端部に割りピンを施すようになっていた。なお、継手ボルト及びフランジ継手のプロペラ軸側リーマ穴には、製造検査受検時、各挿入組合せを示す順番号が刻印されていた。
 また、プロペラ軸は、エアシール型の船尾管軸封装置が設けられていた。
エ 後進方法
 旭竜丸は、固定ピッチプロペラ後方にベクツイン舵と呼ばれる舵を備えており、離着岸時には主機を前進にかけたまま同舵の遠隔舵角操作による後進方法がとられ、錨泊時等に主機が後進にかけられていた。

3 事実の経過
 A社は、昭和63年以降、旭竜丸建造時まで78隻の軸系の中間軸とプロペラ軸とを連結する際、フランジ継手の継手ボルトのリーマ穴挿入に冷しばめ工程を実施しており、平素、継手ボルトをドライアイスとアルコールとともに容器に入れて4時間ばかり冷却し、リーマ締め代を得て順番号のリーマ穴に挿入した後、冷態における仮締めから常温状態に復すまで24時間と設定していたが、作業者個人の手帳に作業内容等を記録させただけで工事チェックリストを使用するなどの同工程確認を行わず、同状態の所定の締付けトルクを把握しないまま、打撃スパナとハンマーによるたたき締めと呼ばれる方法の締付けを行っていたものの、引き渡した後、緩みによる不具合には至らなかったことから、継手ボルトの締付け点検実施を船側に周知していなかった。
 旭竜丸は、平成13年5月29日A社の船台において主機、中間軸及びプロペラ軸等が搭載され、進水後に軸系の心出し、主機クランク軸と中間軸との連結工事、8月27日から翌28日にかけて中間軸とプロペラ軸との連結工事がそれぞれ行われた。
 しかし、A社は、8月27日13時から平素のとおり継手ボルトの冷しばめ工程を実施する際、工事チェックリストを使用するなどの同工程確認を適切に行わなかったうえ、常温状態でトルクレンチを使用するなど所定の締付けを適切に行わず、継手ボルト全数が締付け不足のまま、これに割りピンを施し、越えて10月19日に引き渡した後、継手ボルトの締付け点検実施を旭竜丸側に周知しなかった。
 就航後、旭竜丸は、月間400時間ばかり主機の運転を続けているうち、継手ボルト全数のリーマ穴及びフランジ継手各接触面にそれぞれフレッチングによる摩耗が発生したことから、リーマ締め代が失われ、通常のトルク変動で同継手接触面のせん断力を繰り返し受けて曲げ応力により材料が疲労し、リーマ穴接触面を起点として生じた亀裂が進展する状況となった。
 こうして、旭竜丸は、11人が乗り組み、ガソリン及び灯油5,300キロリットルを載せ、船首尾とも6.00メートルの等喫水をもって、同15年9月25日14時00分京浜港川崎区を発し、名古屋港へ向かう途中、燃料油を補給することとし、東京湾中ノ瀬海域に錨泊するため、15時08分主機を停止し、15時09分後進にかけたところ、15時10分横浜本牧防波堤灯台から真方位135度3.65海里の地点において、継手ボルト全数が亀裂箇所で破断した。
 当時、天候は曇で、風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 旭竜丸は、主機を停止してそのまま投錨したものの航行不能に陥り、救助を要請して来援した引船により京浜港横浜区の造船所に曳航された後、精査の結果、継手ボルトのほか、プロペラ軸の移動による船尾管軸封装置シールリング等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。
 また、本件後、A社は、工事チェックリストを作成のうえ使用して継手ボルトの冷しばめ工程確認を適切に行うとともに、常温状態でトルクレンチを使用して所定の締付けを適切に行い、締付け点検実施を船側に周知するなどの改善措置をとった。

(本件発生に至る事由)
1 A社が継手ボルトの冷しばめ工程確認を適切に行わなかったこと
2 A社が継手ボルトの締付けを適切に行わなかったこと
3 A社が継手ボルトの締付け点検実施を旭竜丸側に周知しなかったこと

(原因の考察)
 本件は、継手ボルト全数が締付け不足のまま、リーマ穴及びフランジ継手各接触面にそれぞれフレッチングによる摩耗が発生したことから、リーマ穴接触面を起点として生じた亀裂が進展し、破断に至ったものである。
 A社、継手ボルトの冷しばめ工程を実施する際、工事チェックリストを使用するなどの同工程確認及び常温状態でトルクレンチを使用するなど所定の締付けをいずれも適切に行っていたなら、継手ボルト全数が締付け不足にはならなかったと認められるから、これをいずれも適切に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、A社が、継手ボルトの締付け点検実施を旭竜丸側に周知しなかったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件発生時まで緩みによる不具合の連絡を受けていなかったから、原因とするまでもない。 

(海難の原因)
 機関損傷は、造船業者が、継手ボルトの冷しばめ工程確認及び締付けがいずれも不適切で、継手ボルト全数が締付け不足のまま、引き渡した後、リーマ穴及びフランジ継手各接触面にそれぞれフレッチングによる摩耗が発生したことから、通常のトルク変動で同継手接触面のせん断力を繰り返し受けて曲げ応力により材料が疲労し、リーマ穴接触面を起点として生じた亀裂が進展したことによって発生したものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 勧告
 A社が、継手ボルトの冷しばめ工程を実施する際、同工程確認及び締付けをいずれも適切に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 A社に対しては、本件後、工事チェックリストによる継手ボルトの冷しばめ工程確認及び常温状態でトルクレンチによる所定の締付けを行うなどの改善措置をとった点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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