日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成16年門審第31号
件名

漁船第十八親和丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年8月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(寺戸和夫、織戸孝治、上田英夫)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第十八親和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機の全シリンダの主軸受及びクランクピン軸受の軸受メタルが焼損、クランク軸に損傷

原因
主機の開放整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の開放整備が不十分で、燃焼ガスがブローバイするようになって潤滑油が汚損し、機関内部の潤滑が不良となったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月23日07時00分
 宮崎県宮崎港南防波堤付近
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八親和丸
総トン数 19トン
登録長 19.25メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分1,350

3 事実の経過
 第十八親和丸(以下「親和丸」という。)は、平成元年7月に進水したFRP製漁船で、平成6年9月Bが中古で購入したのち、中型まき網漁業船団の附属運搬船として操業に従事しており、主機として、中古購入時に換装されたC社製のS6R2F-MTK-2型と称するディーゼル機関を備えていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室下部の潤滑油が機関直結の潤滑油ポンプで吸引加圧され、出口側複式こし器及び潤滑油冷却器を経て、機関内部と過給機の各軸受の潤滑及びピストンの冷却用それぞれに供給され、潤滑及び冷却機能を果たしたのちはクランク室に戻るもので、同室のオイルミストは、操舵室後方の煙突横に設けられたミスト抜き管から大気に放出されていた。
 また、同系統の油圧は、潤滑油冷却器の出口側にある圧力調整弁によって4.2キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に維持され、出口側複式こし器が著しく閉塞して同油圧が2.5キロに低下したときには、同こし器のバイパス弁が開弁となるように、また何かの不具合が生じて、同油圧が1.5キロに低下すれば警報装置が作動するようになっており、同装置は、平素から発停時いつも正常に作動していた。
 平成15年6月に一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新したA受審人は、親和丸に購入時から甲板員として、平成11年5月からは船長として乗り組み、月間5日間ほどの月夜間の休漁を除いて、周年宮崎県沖合を漁場として夕刻出港しては翌朝入港して水揚げを行う運航を繰り返し、その間主機を出港から入港まで継続して運転していたので、主機の月間運転時間は約300時間となっていた。
 主機の潤滑油は、取扱説明書において、運転時間500時間ごとに新替すると同時に、こし器のフィルタも交換するよう推奨されており、これに従ってA受審人は、2箇月毎に潤滑油のほとんどと出口側複式こし器及びバイパスこし器の両フィルタを新替し、この間約20リットルの同油消費量に見合う量を補給していた。
 ところで主機は、平成8年潤滑油の消費量が増加したことから、全シリンダのピストンを抽出してピストンリング及びオイルリングを新替したが、その後は2ないし3年に一度排気色が悪化したり回転数が整定しないときに、業者に依頼して燃料噴射弁の整備を行うのみで、ピストンの抽出も含めて吸排気弁や過給機などの定期的な開放整備を一度も行わないまま運転を続けていた。
 親和丸は、主機の潤滑油が定期的に新替されていたが、機関の構造上、旧油の一定量がクランク室に残ることとなって新替の効果も徐々に薄まり、加えて平成8年以降長期にわたって機関の開放整備を行っていなかったことから、ピストンリングの摩耗が進行したことや張力が低下したことによって、燃焼ガスのブローバイが生じ始め、潤滑油の汚損が更に進行するようになり、平成14年6月ごろから、甲板上操舵室後方の煙突横にあるミスト抜き管から放出されるオイルミストの量が増加し、それとともに潤滑油の色が黒く変色するようになった。
 このころA受審人は、オイルミストの増加や潤滑油が黒く変色していることに気付いていたが、2箇月毎に潤滑油を新替しているので潤滑油の汚損はそれほど進行していないだろうと思い、ピストンの抽出や各軸受メタルを新替えするなどして、主機の開放整備を行わないまま機関の運転を続けたので、主機は、潤滑油の汚損がますます進行するようになり、主軸受やクランクピン軸受などの軸受メタルの経年劣化も進行し始めた。
 親和丸は、平成15年6月22日17時30分A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.40メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、操業の目的で船団の僚船とともに宮崎港を発し、同日19時00分同港沖合の漁場に至って魚群の探索に従事したのち、翌23日04時30分漁獲物16トンを積み込み、同日06時00分宮崎港に向けて帰航を開始した。
 親和丸は、主機を回転数毎分1,300の全速力にかけ、10.0ノットの速力で進行し、宮崎港南防波堤の沖合に至ったとき、主機潤滑油の汚損及び機関内部軸受メタルの劣化がそれぞれ更に進行し、07時00分宮崎港南防波堤仮設灯台から真方位098度815メートルの地点において、主機が、主軸受メタル及びクランクピン軸受メタルの著しい焼損により異音を生じ始めた。
 当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
 操舵室で当直にあたっていたA受審人は、機関室からの異音に気付いて主機の回転数を毎分500に減速したところ、警報のないまま機関が自停し、その後ターニングもできない状況となったことから僚船に曳航を要請した。
 親和丸は、宮崎港に引き付けられ、詳細な点検の結果、主機は、潤滑油こし器に大量の金属粉が付着し、全シリンダの主軸受及びクランクピン軸受の軸受メタルが激しく焼損し、クランク軸にも損傷があったことなどから、修理を断念して換装の措置がとられた。

(原因の考察)
 本件は、燃焼ガスのブローバイが進行して潤滑油の汚損が急速に悪化し、一方機関内部の各軸受メタルも経年の劣化が進行していたところ、軸受部の潤滑が不良となって発生したもので、その原因について考察する。
 既に認定したように、本件によって生じた主軸受メタル及びクランクピン軸受メタルの損傷は著しく、推力軸受メタルも含めて全メタルとも光沢が失われている。
 また、これらのメタルは、平成6年以降継続して使用されており、この間の主機運転時間は約20,000時間に達し、ピストンの抽出も平成8年以降実施されていないことを併せ考えると、各軸受メタルは長期間の使用によって経年劣化が、またピストンリングは摩耗や張力低下がそれぞれ進行していたことは明らかであり、主機は、ブローバイ、潤滑油の汚損、軸受メタルの経年劣化という悪循環に陥っていた。
 従って、機関の定期的な開放整備が十分に行われていなかったことは、本件発生の原因となる。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転及び保守管理にあたり、オイルミストの増加と潤滑油の汚損が明らかとなった際、機関の開放整備が不十分で、燃焼ガスのブローバイが進行したまま運転が続けられ、漁場から帰航中、潤滑油の汚損が更に進行し、機関内部の潤滑が著しく不良となったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転及び保守管理にあたり、運転中クランク室からミスト抜き管を通して排出されるオイルミストの量が増加するとともに、潤滑油の色も黒く変色するようになったのを認めた場合、長期間主機を開放整備していなかったから、燃焼ガスのブローバイによって潤滑油の汚損劣化が急速に悪化することのないよう、速やかに業者に依頼するなどして、ピストンの抽出や各軸受メタルの新替など、機関の開放整備を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、主機について、2箇月に一度は潤滑油を新替しているので大丈夫だろうと思い、機関の開放整備を行わなかった職務上の過失により、そのまま運転を続け、ピストンリングの気密性能が低下して燃焼ガスのブローバイを誘起し、潤滑油の汚損及び性状劣化が急速に進行したことにより、機関内部の潤滑が著しく不良となる事態を招き、漁場から帰航中、全シリンダの主軸受及びクランクピン軸受の両軸受メタルが焼損し、クランク軸も損傷するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION