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平成16年横審第31号
件名

漁船子宝丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年8月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(安藤周二、中谷啓二、浜本 宏)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:子宝丸機関長 海技免許:六級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機の空気冷却器、全シリンダのピストン及びシリンダライナが損傷、調速機等が発錆

原因
主機の空気冷却器のからの給気ドレン排出に対する点検不十分及び異常箇所の調査不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の空気冷却器からの給気ドレン排出に対する点検が不十分で、同冷却器の冷却管群が著しく腐食したばかりか、排気が黒色化する状況における異常箇所の調査が不十分で、腐食による破孔から漏洩した冷却海水が燃焼室に浸入したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月25日06時00分
 千葉県犬吠埼東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船子宝丸
総トン数 19トン
全長 18.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 470キロワット
回転数 毎分1,940

3 事実の経過
 子宝丸は、平成11年2月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてB社が製造したS6B5-MTKL型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 主機は、架構左舷側に過給機及び架構船尾側に空気冷却器が付設されていて、過給機のブロワによって加圧された給気が空気冷却器で冷却された後、架構右舷側の給気マニホルドを経て各シリンダの燃焼室に送り込まれていた。
 ところで、主機の空気冷却器は、多管フィン式冷却管群3個を有する冷却面積17平方メートルのもので、給気マニホルドの船尾側下部に直径8.5ミリメートル(以下、「ミリ」という。)の給気ドレン排出穴が開けられ、同穴に接続された銅製給気ドレン管(以下「ドレン管」という。)の先端が機関室床上に導かれており、給気中に含まれる水分の凝縮によるドレンがドレン管から常時排出され、底部にはドレンが滞留しない構造になっていた。
 主機の冷却海水系統は、船底の船体付弁から海水こし器を介して直結駆動回転式の冷却海水ポンプに吸引された冷却海水が、空気冷却器、清水冷却器を順に経て船外に排出されており、空気冷却器の冷却海水側に保護亜鉛が取り付けられていた。
 また、主機は、クランク室底部にシステム潤滑油系統の容量70リットルの油受が設けられ、クランクピン軸受等から流出する潤滑油の一部がクランクアームの回転により跳ね掛けられてピストンとシリンダライナとの摺動面(しゅうどうめん)に注油されており、取扱説明書には、排気が黒色化する状況の対策について、インジケータ弁や排気温度計が装備されていなかったことから、販売店と連絡を取るなどして、その状況の起因となる燃料及び給気各系統の異常箇所の調査を行うことが記載されていた。
 子宝丸は、宮崎県川南漁港あるいは千葉県銚子港を基地とし、周年にわたり九州南方沖合から三陸東方沖合方面の漁場に出漁して1航海25日間程度の操業を繰り返していた。
 A受審人は、子宝丸の新造当初から機関長として乗り組み、主機の運転保守にあたり、平素、空気冷却器の保護亜鉛を適宜に取り替えており、航行中には排気の黒色化の有無を確かめていたところ、いつしかドレン管が給気中の塩分等で詰まってドレンが滞留し始め、同冷却器底部の冷却管群がドレンに浸って徐々に腐食するようになったが、同冷却器からの給気ドレン排出に対する点検を十分に行わないまま、ドレン管の詰まりに気付かなかった。
 子宝丸は、同14年6月15日川南漁港に入港した後、乗組員の都合により停泊を続け、主機が停止されているうちに空気冷却器底部の冷却管群の腐食が著しく進行する状況のまま、7月29日出漁した。
 A受審人は、出漁中に主機の空気冷却器底部の冷却管群が腐食による破孔を生じ、漏洩した冷却海水がドレン管の詰まりによって排出されないまま、少しずつ給気とともに全シリンダの燃焼室に送り込まれて燃焼が阻害され、排気が黒色化する状況を認めたが、この程度の黒色化は支障ないものと思い、8月28日銚子港に入港したとき、販売店と連絡を取るなどして異常箇所の調査を十分に行わなかったので、同破孔に気付かず、そのまま放置した。
 こうして、子宝丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、船首1.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、9月1日08時00分銚子港を発し、同月5日千葉県犬吠埼東方沖合の漁場に至り、操業を開始した後、まぐろ8トンを漁獲し、水揚げの目的で、同月21日夜漁場を発進して同港に向け、主機の回転数毎分1,400(以下、回転数は毎分のものを示す。)にかけて航行中、空気冷却器底部の冷却管群の前示破孔が拡大して漏洩した冷却海水が全シリンダの燃焼室に浸入し、燃焼が著しく阻害されて排気の黒色化が激しくなり、回転数1,000に減速したとき、同月25日06時00分北緯37度02分東経151度58分の地点において、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油膜が途切れてかき傷が発生し、主機が自停した。
 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、主機の始動を試みたものの果たせないまま、その旨を船長に報告した。
 子宝丸は、付近を航行中の僚船に救助を要請し、同船等により銚子港に曳航された後、主機が精査された結果、空気冷却器、全シリンダのピストン及びシリンダライナの前示損傷のほか、潤滑油に混入した海水による調速機等の発錆が判明し、各損傷部品等が取り替えられた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の空気冷却器からの給気ドレン排出に対する点検が不十分で、ドレン管が詰まってドレンが滞留し、同冷却器底部の冷却管群が著しく腐食したばかりか、排気が黒色化する状況における異常箇所の調査が不十分で、腐食による破孔が放置され、同破孔から漏洩した冷却海水が燃焼室に浸入し、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油膜が途切れたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、出漁中に主機の排気が黒色化する状況を認めた場合、その状況の起因となる異常箇所を放置しないよう、入港したとき販売店と連絡を取るなどして、異常箇所の調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の黒色化は支障ないものと思い、異常箇所の調査を十分に行わなかった職務上の過失により、空気冷却器底部の冷却管群の腐食による破孔に気付かず、同破孔から漏洩した冷却海水が燃焼室に浸入し、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油膜が途切れる事態を招き、ピストン及びシリンダライナ等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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