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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成16年函審第20号(第1)
平成16年函審第21号(第2)
件名

(第1)引船ともえ機関損傷事件
(第2)引船ともえ機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年8月31日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、古川隆一、野村昌志)

理事官
河本和夫

(第1)
 
受審人
A 職名:ともえ機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B社海務部 責任者:船舶部長C 業種名:曳船業
(第2)
 
指定海難関係人
D社 代表者:代表取締役社長E 業種名:機関製造業

損害
(第1)右舷コルトノズル付き旋回式プロペラの、垂直軸小歯車とプロペラ軸大歯車とに欠損、各軸受に摺動傷
(第2)左舷コルトノズル付き旋回式プロペラの、垂直軸小歯車とプロペラ軸大歯車に欠損、各軸受に摺動傷

原因
(第1)コルトノズル付き旋回式プロペラの開放点検不十分、船舶所有者の保船管理部門の、プロペラ翼曲損時の同プロペラに対する配慮不十分
(第2)コルトノズル付き旋回式プロペラの垂直軸の下部軸受がスミアリングを起こしたこと

主文

 (第1)
 本件機関損傷は、水中浮遊物と接触してコルトノズル付き旋回式プロペラのプロペラ翼全数が曲損した際、同プロペラの開放点検が不十分であったことによって発生したものである。
 船舶所有者の保船管理部門が、プロペラ翼曲損時のコルトノズル付き旋回式プロペラに対する配慮が十分でなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 (第2)
 本件機関損傷は、コルトノズル付き旋回式プロペラの垂直軸の下部軸受がスミアリングを起こし、軌道面が異常摩耗して軸心が偏移したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 (第1)
 平成15年4月16日12時00分
 北海道茂津多岬北西方沖合
 (第2)
 平成15年7月27日03時30分
 北海道室蘭港外
 
2 船舶の要目
船種船名 引船ともえ
総トン数 166トン
全長 32.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,353キロワット
回転数 毎分750

3 事実の経過
 ともえは、平成9年9月に進水し、専ら函館港において出入港船舶や造船所の出入渠船舶の離着岸支援業務に当たるかたわら、台船などの非自航船舶の曳航業務にも従事する鋼製引船で、2機2軸を有し、推進装置として、F社が製造したZP-21型ニイガタZペラと称するコルトノズル付き旋回式プロペラ(以下「Zペラ」という。)を各軸に備えていた。
 Zペラは、上部ギヤケーシング、旋回筒及びコルトノズル一体の下部ギヤケーシングで構成され、上部ギヤケーシングには、小歯車を備えた入力軸と大歯車を備えた第1垂直軸とが、下部ギヤケーシングには、小歯車を備えた第2垂直軸と大歯車を備えたプロペラ軸とがそれぞれ納められており、これら大、小各歯車には、ニッケルクロムモリブデン鋼製の傘歯車が用いられていた。そして、第1垂直軸と第2垂直軸とが旋回筒内のギヤカップリングで連結し、主機の動力が入力軸、第1垂直軸及び第2垂直軸を順に経てプロペラ軸に伝えられる仕組みとなっていた。また、コルトノズルは、旋回歯車によって旋回筒が回されることにより、第2垂直軸に対して360度旋回できる構造となっていた。
 第2垂直軸の小歯車(以下「垂直軸小歯車」という。)は、17個の歯を有する、歯先円の径358.70ミリメートル(以下「ミリ」という。)歯幅120.00ミリ歯たけ29.79ミリのもので、軸と一体製となっており、長さ1,368ミリの軸部を含めその全長が約1.5メートルあり、軸の上部が円すいコロ軸受及びスラストコロ軸受で、下部が円筒コロ軸受(以下「垂直軸下部軸受」という。)でそれぞれ支えられていた。
 Zペラの潤滑油系統は、入力軸駆動の直結潤滑油ポンプによりギヤケースから吸引された潤滑油が、油こし器、油冷却器を経て各部に注油されるようになっており、油こし器には目詰まり表示器が付いていて、目詰まりすると指針が色別区分の赤色範囲を表示するとともに、自動的にバイパス回路が開通するようになっていた。また、コルトノズルの旋回機構は、電動式油圧ポンプから油圧モータに送り込まれる作動油によって制御される仕組みとなっていた。
 (第1)
 指定海難関係人B社海務部(以下「B海務部」という。)は、同社所有の引船4隻の配船、保船及び乗組員配乗などの各業務を所掌し、同社船舶部長Cが海務部の最高責任者として、函館港内の造船所に常駐させているドックマスターアシスタント2人とともにこれらの業務をこなし、ともえのZペラについては、右舷Zペラを定期検査工事時に、左舷Zペラを中間検査工事時にそれぞれ開放することにし、平成12年11月に左舷Zペラの開放検査を行っていた。
 A受審人は、昭和63年12月B社に入社し、平成13年4月ともえの機関長として乗り組み、翌14年10月定期検査工事に派遣され、メーカー技師とともに右舷Zペラの開放検査に立会い、各部に異状のないことを確かめてそのまま復旧し、約1,000リットルの潤滑油全量を新替えした。
 ともえは、平成14年10月31日引船業務に従事し、北海道弁慶岬沖合を航行中、船尾部に水中浮遊物が接触して衝撃を受け、その際、右舷Zペラの垂直軸小歯車が過大応力を受けて微細な亀裂を生じたが、両舷主機をいったん停止後の再始動において、大した振動も異音の発生もなかったことから、その後も引船業務を続けていたところ、約1週間後、両舷主機の燃料ポンプのラック目盛りや両舷のZペラの推力にいずれも右舷機が少な目となるアンバランスを生じていることが分かり、翌11月15日潜水調査が行われた結果、右舷Zペラのプロペラ翼に曲損を生じていることが判明した。
 同月18日C船舶部長は、ともえを上架してA受審人とともに右舷Zペラの損傷状況を調査したところ、同ペラが水中浮遊物と接触してプロペラ翼4枚全数が曲損しているのを認めたが、F社にプロペラ翼曲損状況を説明してZペラ開放点検の要否を問い合わせるなど、プロペラ翼曲損時のZペラに対する配慮を十分に行わなかった。
 一方、A受審人は、ケーシング内部の動力伝達機構の歯車が過大応力を受けているおそれがあったが、保船管理責任者のC船舶部長に任せておけば大丈夫と思い、Zペラの開放点検を行うことなく、プロペラ翼の曲がり直しの修理を行ったのみであったため、垂直軸小歯車に亀裂を生じていることに気付かないまま修理を終えた。
 こうして、ともえは、A受審人ほか5人が乗り組み、船首2.45メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、翌15年4月16日08時00分北海道岩内港を発し、両舷主機をいずれも回転数毎分650にかけ浮きドックを曳航して室蘭港に向けて航行中、右舷Zペラの垂直軸小歯車の亀裂が進行して歯が破断し、金属紛が発生し始め、12時00分茂津多岬灯台から真方位275度2.0海里の地点において、油こし器が目詰まりした。
 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 折からA受審人は、機関室見回り中、油こし器の目詰まり表示器が赤色を示しているのを認め、直ちに右舷主機を止めて油こし器を開放したところ、エレメントに多量の金属粉が付着しているのを発見し、エレメントを新替え後、様子を見守りながら運転を続けたが、再び同表示器が赤色を示したので運転を断念した。
 ともえは、左舷主機のみで室蘭港まで航行を続けたのち函館港に戻り、右舷Zペラがメーカーに陸送されて開放調査が行われた結果、垂直軸小歯車とプロペラ軸大歯車に欠損を生じていたほか、各軸受にも金属粉の噛み込みによる摺動傷を生じていることが判明し、損傷部品がいずれも新替えされた。
 本件後、C船舶部長は、Zペラの各歯車の異常摩耗を早期に発見できるよう、乗組員に対し、半年から1年ごとに行っていた油こし器の開放点検の間隔を1週間ごとに短縮するよう指導した。
 (第2)
 指定海難関係人D社(以下「D」という。)は、平成15年2月に設立され、会社更生法に基づきF社の原動機部門の事業を引き継いだ。
 Dは、Zペラの製作に当たり、各軸受については、使用環境や荷重計算に基づいて軸受型式をあらかじめ選んでおき、これを軸受メーカーに検証させて問題のないことを確認したうえ最終選定する手順をとっていた。
 ところで、ともえのZペラの垂直軸下部軸受は、外輪外径420ミリ内輪内径200ミリ幅138ミリの円筒コロ軸受(呼び番号N2340C3)で、外輪と内輪との間に重量1.3キログラムのコロ16個が保持器で囲われていたが、軸受が水平置きの場合、軽負荷状態ではコロが外周に向かう方向の負荷を受けにくいことから、ごみなどの障害物があるとコロが正常に自転せずに滑りを生じ、軌道面が微小に焼き付くいわゆるスミアリングを起こすことがあった。
 Dは、これまでともえと同型Zペラを598機製作して299隻に納入していたほか、他機種を含め総数約2,300隻に納入していたが、軸受のスミアリングによる損傷事例がなく、軸受メーカーの検証を受けていたことから、スミアリングの発生を予測することが困難な状況であった。
 ともえは、平成15年5月19日右舷Zペラの修理を完工し、引き続き離着岸支援業務や曳航業務に復帰しているうち、左舷Zペラの垂直軸下部軸受がごみを噛んだかしてスミアリングを起こし、軌道面が異常摩耗して軸心が偏移し、各歯車が片当たりし始めた。
 こうして、ともえは、船長ほか5人が乗り組み、船首2.34メートル船尾3.45メートルの喫水をもって、7月26日08時30分八戸港を発し、浮きドックを曳航して室蘭港に向かい、翌27日早朝室蘭港外に達し入港準備のため主機を回転数毎分400にかけて曳航索の長さを調整中、左舷Zペラの垂直軸小歯車の歯が破断して、プロペラ軸大歯車が欠損片を噛み込み、03時30分室蘭港南外防波堤灯台から真方位237度1.7海里の地点において、左舷主機が突然停止した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 ともえは、右舷機のみで入港後、左舷Zペラの潜水調査が行われたが異状なく、次いで主機クラッチを脱としてZペラのターニングが行われたところ、重くて回らないことが分かったのでZペラ内部に異状が発生したものと判断され、右舷機のみで函館港に戻り、左舷Zペラがメーカーに陸送されて開放調査が行われた結果、垂直軸小歯車とプロペラ軸大歯車とに欠損を生じていたほか、各軸受にも金属粉の噛み込みによる摺動傷を生じていることが判明し、損傷部品がいずれも新替えされた。
 本件後、Dは、軽負荷状態でも垂直軸下部軸受のコロの回転を得やすくするため、同軸受の型式を自動調心コロ軸受に変更した。 

(原因)
 (第1)
 本件機関損傷は、水中浮遊物と接触してZペラのプロペラ翼4枚全数が曲損した際、Zペラの開放点検が不十分で、過大応力を受けた垂直軸小歯車に亀裂を生じたまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 船舶所有者の保船管理部門が、プロペラ翼曲損時のZペラに対する配慮が十分でなかったことは、本件発生の原因となる。
 (第2)
 本件機関損傷は、Zペラの垂直軸下部軸受がスミアリングを起こし、軌道面が異常摩耗して軸心が偏移し、各歯車が片当たりしたことによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 (第1)
 A受審人は、水中浮遊物と接触してZペラのプロペラ翼4枚全数が曲損しているのを認めた場合、ケーシング内部の動力伝達機構の歯車が過大応力を受けているおそれがあったから、Zペラの開放点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、保船管理責任者に任せておけば大丈夫と思い、Zペラの開放点検を十分に行わなかった職務上の過失により、垂直軸小歯車に微細な亀裂を生じていることに気付かないまま運転を続けて同歯車の破断を招き、プロペラ軸大歯車に欠損を、各軸受に摺動傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 函館ポートサービス海務部が、水中浮遊物と接触してZペラのプロペラ翼4枚全数が曲損した際、Zペラのメーカーにプロペラ翼の曲損状況を説明してZペラ開放点検の要否を問い合わせるなど、プロペラ翼曲損時のZペラに対する配慮を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B海務部に対しては、本件後、乗組員に対し、Zペラ各歯車の異常摩耗の早期発見に努めるよう指導している点に微し勧告しない。
 (第2)
 Dの所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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