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平成16年長審第20号
件名

貨物船第八蛭子丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年7月15日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
花原敏朗

受審人
A 職名:第八蛭子丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機過給機の排気入口囲い下側排気通路底部の冷却水壁に浸食、排気入口箇所に破孔

原因
主機過給機の保守管理不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機過給機の保守管理が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月19日14時40分
 熊本県横島瀬戸
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八蛭子丸
総トン数 198.87トン
登録長 46.21メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 507キロワット(計画出力)
回転数 毎分390(計画回転数)

3 事実の経過
 第八蛭子丸(以下「蛭子丸」という。)は、昭和57年9月に進水した鋼製貨物船で、平成3年6月にBが購入し、同人が船長として、また、同人の長男であるA受審人が機関長として2人で乗り組み、九州から瀬戸内海周辺にかけての諸港間で鋼材の輸送に従事し、合いドックを含め毎年10月ごろ入渠して船体及び機関の整備を行っていた。
 主機は、C社が昭和57年に製造したL26B(G)SH型と称する連続最大出力551キロワット同回転数毎分400の海水直接冷却機関で、燃料制限装置を付設して計画出力まで出力制限され、A重油を燃料として月間平均250時間ばかり運転されていた。
 主機の過給機(以下「過給機」という。)は、D社製のVTR200型と称する排気ガスタービン式で、その本体が排気入口囲い、タービン車室及びブロワ車室に3分割されたケーシング内に納められ、各ケーシングのうち排気ガスの通路となる排気入口囲い及びタービン車室には冷却水ジャケットを設け、主機冷却水系統から分岐した海水を通すようになっており、各冷却水ジャケットに過給機保護亜鉛(以下「保護亜鉛」という。)が2個ずつ取り付けられていた。
 保護亜鉛は、片側にねじを切った直径20ミリメートル長さ34ミリメートルの亜鉛棒で、鋳鉄製プラグの内側に設けたねじ穴にねじ込み、同プラグを保護亜鉛取付ふたのプラグ穴に装着して取り付けられ、主機休止中に同亜鉛の点検や取替えが簡単にできるようになっていて、新替時などに消耗状況から適正な取替間隔を判断し、消滅して防食効果がなくなる前に新替する必要があった。
 ところで、過給機の冷却水壁は、排気側からの腐食と冷却水側からの浸食により経年衰耗するので、過冷却しないよう冷却水温度を適正に保って排気側の硫酸腐食を防ぐとともに、保護亜鉛を適正な間隔で新替して衰耗速度をできるだけ抑えたうえ、運航中に破孔が生じて主機の正常運転が不能となることのないよう、入渠時等に衰耗状態を点検して使用限度に達しそうなときは事前にケーシングごと取り替えるなどの保守管理を行う必要があり、取扱説明書には、6箇月ごとに肉厚を計測して3ミリメートル以下の箇所を発見したときは当該ケーシングを新替するよう記載されていた。
 A受審人は、機関の運転管理にあたり、過給機については、2年ごとの検査工事の際に整備業者に依頼して軸受新替等の開放整備を行い、平素は定期的に軸受室の潤滑油を新替し、また、海水温度が低いときは温度調整弁を使用してできるだけ冷却水温度を下げ過ぎないよう注意していたが、保護亜鉛は新替時にはいつもほぼ消滅していたにもかかわらず、1年ごとの入渠時に新替するだけで新替間隔を短縮せず、また、各ケーシングの使用来歴が不明であったが、開放整備は整備業者に任せておけば大丈夫と思い、冷却水壁の肉厚を計測するよう指示していなかった。
 過給機は、平成13年10月に第1種中間検査のため入渠した際、整備業者の手によって開放整備され、翌年10月に合いドックで入渠した際、A受審人が保護亜鉛を新替したが、いずれの場合も冷却水壁の肉厚が点検されなかったので、排気入口囲いの下側排気通路底部が海水側からの浸食で取替限度まで衰耗していることが見過ごされ、保護亜鉛は新替後3ないし4箇月でほぼ消滅して防食効果がなくなり、そのまま運転を続けると同冷却水壁に破孔が生じるおそれがある状態となった。
 こうして、蛭子丸は、A受審人が船長と2人で乗り組み、鋼材を積み込む目的で、船首1.0メートル船尾2.8メートルの喫水をもって同15年8月19日14時00分船籍港の係留地を発し、山口県小野田港に向けて主機の回転数を毎分340として航行中、前示冷却水壁の浸食が進行して破孔が生じ、冷却海水が排気ガス側に侵入し、14時40分横島灯台から真方位000度350メートルの横島瀬戸中央付近において、煙突からの排気ガス色が白変した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、居室の掃除をしていたとき船外を見て白煙に気付き、機関室に降りて主機を減速したのち過給機周辺を点検し、排気入口囲いの底部に設けたガス抜きキャップから海水が滴下していることを発見し、主機の運転が不能となったものと判断して船長に報告した。
 蛭子丸は、航路筋から離れて投錨したうえ主機を停止し、来援した作業船に曳航されて係留地に引き返し、整備業者の手によって主機及び過給機を点検した結果、主機に損傷はなかったが、過給機の排気入口囲い下側排気通路底部の冷却水壁が海水側からすり鉢状に浸食され、排気入口から10センチメートルばかりの箇所に破孔が生じていることが判明し、同ケーシングが中古品と取り替えられ、しばらく運航されたのち定期検査前の同年9月に海外に売船された。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理にあたり、過給機ケーシングについて、保護亜鉛の新替や冷却水壁の肉厚点検など保守管理が不十分で、排気入口囲いの同壁海水側が浸食されるまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理にあたる場合、ケーシングの冷却水壁に破孔が生じて過給機が損傷すると、主機の正常運転が不能となって自力航行に影響するから、運航中に過給機が損傷することのないよう、保護亜鉛を適正に新替したうえ入渠の際に同壁の肉厚を点検するなど、過給機ケーシングの保守管理を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、過給機の整備は整備業者に任せておけば大丈夫と思い、過給機ケーシングの保守管理を十分に行わなかった職務上の過失により、長期間同肉厚点検が行われず、排気入口囲いの冷却水壁が著しく衰耗していることに気付かないまま運転が続けられる事態を招き、航行中に同冷却水壁に破孔を生じさせ、自力航行不能と判断するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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