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平成16年那審第8号
件名

漁船祐徳丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年7月8日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉崎忠志、小須田 敏、加藤昌平)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:祐徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機の全シリンダのピストン及びシリンダライナの損傷、4番シリンダの連接棒及び架構などの損傷並びに冷却海水ポンプのインペラ羽根の切損など

原因
主機の冷却海水の船外排出状況の点検不十分、主機冷却清水温度上昇警報装置作動時の主機操作不適切

主文

 本件機関損傷は、主機冷却海水の船外排出状況の点検が十分でなかったことと、主機冷却清水温度上昇警報装置が作動した際の主機操作が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月30日09時30分
 沖縄県尖閣諸島南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船祐徳丸
総トン数 3.2トン
登録長 9.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 213キロワット
回転数 毎分2,700

3 事実の経過
 祐徳丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、平成10年1月に換装した、B社製のFM6TA16型と称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の発停スイッチ、回転計、冷却清水温度計及び潤滑油圧力計並びに冷却清水温度上昇などの主機警報装置を組み込んだ主機遠隔操縦盤を備え、同室から主機の発停を含む増減速操作及び逆転減速機の前後進切換え操作ができるようになっていた。
 主機の冷却清水系統は、直結の冷却清水ポンプにより加圧された冷却清水が、潤滑油冷却器、船首方から順番号が付された各シリンダのシリンダジャケット及びシリンダヘッド並びに排気マニホルドを順に冷却して温度調整弁に至り、同弁にて清水冷却器を内蔵した清水タンク入口側と同ポンプ吸入側にそれぞれ分流して循環するようになっており、同弁に至る冷却清水の温度が摂氏98度以上に上昇すると、操舵室にある主機冷却清水温度上昇警報装置が作動し、警報ランプが点灯するとともに警報ブザーが吹鳴するようになっていた。
 一方、主機の冷却海水系統は、機関室船底の右舷側前部にある海水吸入弁から直結の冷却海水ポンプにより吸引、加圧された冷却海水が、空気冷却器及び清水冷却器を冷却したのち主機排気管に入って排気ガスと混合し、船尾排出口から船外に排出される系統及び逆転減速機用潤滑油冷却器を通り、機関室右舷側の水面上にある船外排出口から排出される系統からなっていた。また、主機の冷却海水系統には、同ポンプ吸入側こし器、冷却海水圧力計及び同圧力低下警報装置が設けられていなかった。
 ところで、冷却海水ポンプは、ヤブスコポンプと称する、一体に成型された8枚のインペラ羽根からなるゴム製インペラを内蔵し、同羽根がポンプケーシング内面に接触して回転することにより揚水するもので、冷却海水とともに吸入した砂、浮遊物などの異物により同羽根の先端部が摩耗したり、同ケーシング内で屈曲を繰り返しながら回転するうち、繰り返し応力により同羽根が疲労して切損することがあるので、定期的に同ポンプを開放して同羽根を点検、整備するとともに、早期に異常の有無を検知できるよう、主機始動後、適宜船尾排出口及び船外排出口からの主機冷却海水の船外排出状況を点検する必要があった。
 A受審人は、昭和49年12月に一級小型船舶操縦士免許を取得したのち、同63年5月に中古船の祐徳丸を購入したときから船長として乗り組み、沖縄県石垣漁港を基地として、同県の尖閣諸島及び八重山列島周辺の漁場に赴き、4日ないし5日間操業したのち基地に帰港する操業形態のもとで、周年操業に従事していた。
 そして、A受審人は、3箇月ごとにオイルパンの潤滑油及び潤滑油こし器フィルタエレメントの取替え並びに約1年ごとに冷却海水ポンプのインペラの点検、整備などを自ら行うとともに、主機の始動前にオイルパンの油量及び清水タンクの水位などを点検するなどして主機の運転管理に当たっていたが、定期的に同ポンプを点検しているから問題あるまいと思い、主機始動後、船尾排出口及び船外排出口からの主機冷却海水の船外排出状況を点検することなく運転を続けていたので、いつしか、インペラ羽根2枚が根元から切損し、冷却海水の揚水量が減少していることも、切損した同羽根がポンプケーシングのカムにかみ込んでポンプ吐出口などを閉塞させるおそれのあることにも気付いていなかった。
 祐徳丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成15年10月25日08時00分石垣漁港を発し、16時30分尖閣諸島南西方沖合の漁場に至って操業を開始した。
 ところが、祐徳丸は、漁場の移動を繰り返し、主機回転数を種々変化させながら操業を行っているうち、冷却海水ポンプの切損していたインペラ羽根の1枚がポンプ吐出口方に徐々に移動し、ポンプケーシングのカムにかみ込み始めて同吐出口を狭めたので、海水の揚水量が更に減少するようになり、各シリンダのピストン及びシリンダライナなどが過熱気味となった。
 こうして、祐徳丸は、同月30日08時50分操業を終え、主機を全速力にかけ、自動操舵として石垣漁港に向け帰航中、冷却海水ポンプの切損したインペラ羽根がポンプ吐出口をほぼ閉塞させたため、同ポンプの揚水量が著しく減少して主機の冷却清水温度が上昇するままとなり、操船に当たっていたA受審人が09時15分ごろ主機冷却清水温度上昇警報装置が作動するのを認めたが、これまで同装置が作動したことがなく、また漁場を発航するとき清水タンクの水位に異常がなかったので誤作動と思い、直ちに回転数を下げるなどの主機操作を適切に行うことなく運転を続けたので、主機各部の冷却が阻害されて各シリンダのピストンとシリンダライナの摺動面が傷付くようになり、09時30分北緯25度33分東経123度34分の地点において、4番シリンダのピストンがシリンダライナに焼き付いて割損し、同シリンダの連接棒が同ライナ及び架構を突き破り、主機が自停した。
 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、主機の異常に気付いて機関室に急行したところ、同室に水蒸気が立ち込め、主機オイルパンの検油棒挿入口辺りに多量の潤滑油が流出しているなどの異常を認めたものの、4番シリンダの左舷側架構及びシリンダライナが破損していることなどに気付かず、オイルパンの潤滑油及び清水タンクの冷却清水が著しく減少していることから潤滑油及び冷却清水をそれぞれ補給したのち、発停スイッチを繰り返し操作したが、主機が始動しなかった。
 祐徳丸は、蓄電池が過放電して無線機が使用できないまま漂流しているうち、A受審人から同月31日18時ごろ帰港する旨を聞いていた家族が不安を感じて石垣海上保安部に捜索願を出し、翌11月1日02時ごろ発見されて巡視船により石垣漁港に引き付けられ、同港において主機各部を精査した結果、全シリンダのピストン及びシリンダライナの損傷のほか、4番シリンダの連接棒及び架構などの損傷並びに冷却海水ポンプのインペラ羽根の切損などを生じていることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、船尾排出口及び船外排出口からの主機冷却海水の船外排出状況の点検が不十分で、冷却海水ポンプのインペラ羽根が切損したまま放置されたことと、操業を終えて帰航中、主機冷却清水温度上昇警報装置が作動した際、主機操作が不適切で、ピストン及びシリンダライナなどが過熱するまま運転が続けられたこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、操業を終えて帰航中、主機冷却清水温度上昇警報装置が作動した場合、ピストン及びシリンダライナなどが過熱して損傷することがないよう、直ちに回転数を下げるなどの主機操作を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまで同装置が作動したことがなく、また漁場を発航するとき清水タンクの水位に異常がなかったので誤作動と思い、直ちに回転数を下げるなどの主機操作を適切に行わなかった職務上の過失により、主機各部に冷却阻害を招き、全シリンダのピストン及びシリンダライナのほか、連接棒及び架構などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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