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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成16年函審第2号(第1)
平成16年函審第3号(第2)
件名

(第1)漁船第28松栄丸機関損傷事件
(第2)漁船第28松栄丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年7月22日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、野村昌志)

理事官
河本和夫

(第1・第2)
 
受審人
A 職名:第28松栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
(第2)
 
指定海難関係人
B社C営業所 責任者:所長 D 業種名:機関販売修理業

損害
(第1)主機動弁装置のカムローラが損傷、ロッカーアームが折損及び6番クランクピン軸受が焼き付等
(第2)主機の全数のカムローラ及びカムに打ち傷及びダンパカバーが大きく変形

原因
(第1)主機に対する整備不十分
(第2)機関販売修理業者の主機修理時のビスカスダンパの点検不十分

主文

 (第1)
 本件機関損傷は、異常振動を生じた主機に対する整備が不十分で、振動でカムローラが跳ね上がり、ロッカーアームが衝撃力を受けたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 (第2)
 本件機関損傷は、機関販売修理業者が、異常振動を生じてカムローラ等に損傷を生じた主機の修理を行った際、ビスカスダンパの点検が不十分で、振動でカムローラが跳ね上がり、ロッカーアームが衝撃力を受けたことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 (第1)
 平成14年9月16日21時00分
 北海道礼文島北方沖合
 (第2)
 平成14年12月3日05時00分
 北海道江差港西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第28松栄丸
総トン数 19.60トン
登録長 17.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 529キロワット
回転数 毎分1,800

3 事実の経過
 第28松栄丸(以下「松栄丸」という。)は、昭和54年12月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製の漁船で、主機として、平成3年5月に換装された、E社製の6NH160-EN型と称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船尾側を1番とする順番号が付され、同機の前端部に装備されたビスカスダンパ(以下「ダンパ」という。)及び弾性継手を介して動力取出軸がつながり、これに集魚灯用発電機が連結していた。
 主機の動弁装置は、カムの動きを、スイングレバー式のカムローラ、プッシュロッド、ロッカーアーム及びブリッジ型の弁押え金具を順に経て吸・排気弁に伝達される構造となっており、シリンダヘッドは、吸・排気弁を各2個備えた、いわゆる4弁式となっていた。
 ダンパは、外径360ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径175ミリ厚さ約50ミリの円輪状のダンパケーシング内部に、わずかのすき間をおいてイナーシャリングが入り、同ケーシング側面をダンパカバーで密封し、そのすき間にシリコンオイルを封入する構造となっていた。
 ところで、ダンパは、回転中に振動が発生した際、ダンパケーシングとイナーシャリングとの間に生じる変位により、シリコンオイルが剪断力を受けて粘性摩擦トルクを発生し、ねじり振動エネルギーを吸収して振動を低減する機能を有していたが、同オイルが使用環境や経年による劣化で固くなって膨張する傾向があり、この影響でダンパカバーが膨れて変形することがあるほか、ダンパの機能が低下して振動を生じ、カムローラが跳ね上がるとともに、吸・排気弁がジャンピングと称するおどり現象をもたらすことがあった。
 そこで、機関メーカーは、シリコンオイルが外部に漏れたときや、運転時間が5,000時間に達した時点でのダンパカバーの膨張代が0.5ミリを超えたとき、または10,000時間に達したときに、ダンパ自体を新替えするよう整備マニュアルに記載し、これを販売修理業者や整備業者に配布していたが、機関取扱者に配布されている機関取扱説明書にはダンパについての記載がなかった。
 (第1)
 A受審人は、昭和50年6月一級小型船舶操縦士の免許を取得し、松栄丸の建造以来船長として乗り組み、毎年4月中旬に石川県沖でいか一本つり漁を始め、7月中旬から北海道に漁場を移し、12月中旬に地元の同県高倉漁港に戻り、翌年1月から4月までを休漁期間として、船体及び機関の整備を行っており、主機については毎年燃料弁の整備を、4年ごとにピストン抜き整備をそれぞれ地元の鉄工所に依頼し、年間2,400時間ばかり運転していた。
 また、A受審人は、機関取扱説明書にダンパについての記載がなかったことから、ダンパが装備されていることの認識もなく、これまで一度もダンパの点検も新替えも行っていなかった。
 そして、主機は、全速力前進時の回転数を毎分1,500(以下、主機の回転数については毎分のものとする。)、操業時の回転数を集魚灯用発電機の所定回転数である1,800とし、これらを常用回転数として、長期間にわたり運転が続けられているうち、ダンパが経年による劣化で機能が低下し始めるとともに、ダンパカバーが膨らむ状況となった。
 平成13年7月ごろ、A受審人は、これまでほとんど振動のなかった主機が、集魚灯用発電機を運転させるため回転数を徐々に上げている途中、1,700付近で振動が出るようになったことに気付いたものの、振動が出るのは回転上昇中の短時間のみで、1,800になると振動が止まったので大して気にも止めずにいたところ、翌14年7月ごろ、常用回転数の1,800でも異常振動が出るようになったのを認めたが、盛漁期でもあり次回の休漁期に整備を行えばよいと思い、速やかに機関メーカーに連絡するなどして、主機の整備を行わなかったので、回転部に細かい振動が発生する状態で運転を続けていた。
 こうして、松栄丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、9月16日13時00分北海道稚内港を発し、17時ごろ利尻島北方約14海里の漁場に至り、パラシュート型シーアンカーを投入して、主機回転数を1,800にかけ集魚灯用発電機を運転しながら操業中、振動で動弁装置のカムローラが跳ね上がるとともに、排気弁がおどるようになってプッシュロッドの動きと同調しなくなり、ロッカーアームが衝撃力を受けて折損し、油中への金属粉の混入により6番クランクピン軸受が焼き付き、21時00分海驢島(とどしま)灯台から真方位346度13.8海里の地点において、主機が異音を発して自停した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 折から操舵室で寝ていたA受審人は、異音に気付いて機関室に急行し、主機の再始動を試みたが回転せず、ターニングをしても重くて回らないので運転を諦め、松栄丸は、翌17日04時ごろ付近海域で操業を終えた僚船により曳航され、10時30分稚内港に引き付けられた。
 (第2)
 指定海難関係人B社C営業所は、稚内市内の漁業協同組合から松栄丸の前記事故(第1)による機関修理の要請を受け、同営業所の技術員Fを同船に派遣した。
 B社C営業所は、所長を含め9人の社員が所属し、舶用及び陸用機関の販売と修理業務を行っており、技術関係の社員3人を配置して、稚内一円の漁船約230隻の機関のアフターサービス業務を手掛け、F技術員が指導者的な立場にあった。
 F技術員は、松栄丸の主機各部を調査したところ、全数の排気弁ロッカーアームが折れ、プッシュロッドが曲損し、6番クランクピン軸受が溶損しているのを認めたほか、A受審人から、主機が異常な振動を発生しているとの進言もあり、ダンパが劣化しているおそれのある状況であったが、クランク室内にスラッジが付着していたことから、損傷原因は潤滑油の汚れによるものと思い、ダンパの点検を行うことなく、自ら修理の技術指導をしながら手配した協力会社に開放組立作業を行わせ、主機は、前示損傷以外に、シリンダヘッド、カムローラ、ピストン及びシリンダライナに打ち傷を生じていることが判明し、損傷部品がいずれも新替えされた。
 平成14年10月24日、松栄丸は、操業に復帰し、12時ごろ稚内港を発し、16時ごろから主機回転数を1,800として集魚灯用発電機を運転していたところ、19時00分前回と同様の状況を呈して主機が自停し、僚船により発航地に引き付けられた。
 B社C営業所は、松栄丸の主機に異状が発生したとの通報を受け、F技術員が主機各部を調査したところ、2個のシリンダにおいて排気弁ロッカーアーム及びタペットクリアランス調整ねじ各1個が折れ、排気弁2個及びプッシュロッド1個が曲損しているのを認め、同人は、この損傷原因がロッカーアーム軸支持台の締め付け不足によるものと考え、A受審人の要請もあって、全数の排気弁、ロッカーアーム及びプッシュロッドを新替えしたうえ、同支持台締付けボルト全数を強く締め付け、11月12日修理を終えた。
 同月15日松栄丸は、稚内港を発し、留萌港に寄せて3日間操業したのち、22日に江差港に入港し、同地を基地として7日間ばかり操業に従事した。
 こうして、松栄丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、12月2日16時00分江差港を発し、同時50分同港西方の漁場に至り、パラシュート型シーアンカーを投入して、主機回転数を1,800にかけ集魚灯用発電機を運転しながら操業中、前回と同様の状況を呈して、5番排気弁のロッカーアーム及びプッシュロッド各1個が折れ、翌3日05時00分鴎島灯台から真方位270度2.2海里の地点において、主機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、直ちに主機を止め、5番シリンダの減筒運転措置をとったうえ低速で発航地に戻り修理手配をした。
 B社C営業所は、F技術員を松栄丸に派遣するとともに、修理を請け負ったB社G支店と共同で主機各部を調査した結果、全数のカムローラ及びカムに打ち傷を生じていることが判明し、同支店の技術員の提言もあってダンパを点検したところ、ダンパカバーが大きく膨れて変形していることを認め、損傷部品がいずれも新替えされた。
 その後、B社C営業所は、本件の事例を本社に伝え、各支店及び営業所に周知して再発防止を図った。また、機関取扱説明書に、ダンパの点検整備の内容が記載されるようになった。 

(原因)
 (第1)
 本件機関損傷は、異常振動を生じた主機に対する整備が不十分で、ビスカスダンパの経年劣化により振動吸収機能が低下した状態で運転が続けられ、振動でカムローラが跳ね上がり、ロッカーアームが衝撃力を受けたことによって発生したものである。
 (第2)
 本件機関損傷は、機関販売修理業者が、異常振動を生じてカムローラ等に損傷を生じた主機の修理を行った際、ビスカスダンパの点検が不十分で、同ダンパの経年劣化により振動吸収機能が低下した状態で運転が続けられ、振動でカムローラが跳ね上がり、ロッカーアームが衝撃力を受けたことによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 (第1)
 A受審人は、主機に異常振動が発生するのを認めた場合、速やかに機関メーカーに連絡するなどして、主機の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、盛漁期でもあり次回の休漁期に整備を行えばよいと思い、速やかに主機の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、振動でカムローラが跳ね上がる事態を招き、シリンダヘッド、カムローラ、ピストン及びシリンダライナに打ち傷を、ロッカーアームに折損を、クランク軸に焼損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 (第2)
 B社C営業所が、異常振動を生じてカムローラ等に損傷を生じた主機の修理を行った際、ビスカスダンパの点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B社C営業所に対しては、本件の事例を本社に伝え、各支店及び営業所に周知して再発防止を図っていること及び機関取扱説明書にビスカスダンパの点検整備の内容が記載されるようになったことに微し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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