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海難審判庁裁決録(平成16年度)

 事業名 海難審判庁裁決録の刊行配付
 団体名 海難審判・船舶事故調査協会  




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 遭難事件一覧 >  事件





平成16年那審第5号
件名

旅客船フェリーはやて遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年8月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、杉崎忠志、加藤昌平)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:フェリーはやて船長 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B社 代表者:C 業種名:海運業

損害
便所区画内、賄室内及び救命浮器などに破損、繰舵機のシリンダに損傷

原因
気象情報の収集不十分、発航を中止しなかったこと、海運業者が、船長に対して発航前に気象情報の収集を十分に行うように指示しなかったこと

主文

 本件遭難は、台風の接近が予想される状況下、気象情報の収集が不十分で、発航を中止しなかったことによって発生したものである。
 海運業者が、台風の接近が予想される状況下、船長に対して発航前に気象情報の収集を十分に行うように指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月19日11時25分
 沖縄県沖縄島南西方沖
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーはやて
総トン数 297トン
全長 41.60メートル
9.50メートル
深さ 3.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット

3 事実の経過
(1)フェリーはやて
 フェリーはやて(以下「はやて」という。)は、山口県下関市にある造船所で小型鋼船構造基準及び自動車渡船構造基準に基づき建造され、平成9年3月に進水した平水区域を航行区域とする最大とう載人員199人の長船尾楼付平甲板型旅客船兼自動車渡船で、2機2軸を装備し、航海速力11.5ノット、旋回径約55メートルの性能を備え、沖縄県伊良部島東岸にある佐良浜漁港と、約4海里隔てた同県宮古島西岸にある平良港との間を1日7往復する定期航路に従事していた。
 その船体構造は、上甲板上の船首端から長さ約35メートル幅約9メートルの車両区域があり、その船尾側に鋼製の側壁を隔てて左舷側に賄室、中央部に操舵機室兼船員室及び右舷側に便所の区画(以下「便所区画」という。)を配し、同甲板の上方4.7メートルの高さで、船首端から約24メートル後方のところから船尾にかけて設けられた船橋甲板には、操舵室、客室及び遊歩甲板を、上甲板下には、1番バラストタンク、船首空所、燃料油タンク、機関室、船尾空所、清水タンク及び2番バラストタンクをそれぞれ船首側から順に配していた。
(2)車両区域
 車両区域は、船首のランプドア、高さ2.5メートルのブルワーク及び船尾側側壁によって囲まれており、同区域内には、船首部両舷側にランプドア開閉用のシリンダ室が、中央部船尾寄りの両舷側に機関室出入口などの区画(以下、「機関室入口区画」という。)が、並びに船首部左舷側及び船尾部両舷側に船橋甲板に至る階段がそれぞれ設けられ、車両区域と賄室及び便所区画と操舵機室兼船員室の間には非水密製の出入口扉が備えられていた。
 ランプドアは、長さ7.7メートル幅6.1メートル厚さ0.2メートルで、その下端と上甲板の船首端とがヒンジで接続し、ブルワーク船首端部の上方から同ドアの上端部に伸びるランプドア開閉用ワイヤを伸縮させて開閉するようになっていたものの、閉鎖状態においても水密を保つ構造とはなっていなかった。
 また、ランプドアの半閉鎖状態用止め索として、長さ約0.6メートルのチェーン1本及び長さの異なるワイヤロープ2本を両舷に備え、同索の一端をブルワーク船首端部の内側にあるアイプレート3個にそれぞれシャックル止めとし、海面状態などに応じて選んだ止め索の他端を同ドア上面中央部の両舷側端付近に取り付けたフック2個及びアイプレート2個のいずれかに取るようにしていた。
 一方、車両区域には、直径80ミリメートルの排水口がシリンダ室の船尾側、船体中央部、機関室入口区画の船首側及び船尾側のそれぞれ両舷舷側に、また、直径100ミリメートルの排水口が船尾側側壁近くの両舷舷側に各1個設けられていた。
(3)指定海難関係人B社
 B社は、昭和53年6月に佐良浜漁港と平良港との間を定期運航する海上運送業を目的として設立され、沖縄県宮古郡伊良部町字前里添に本社を置き、佐良浜漁港及び平良港にそれぞれ営業所兼乗船券販売窓口を構え、平成15年4月現在、はやてほか総トン数70トンの定期高速旅客船など3隻を所有し、社長及び2人の役員のもと管理部と船舶の運航に携わる船舶部の2部を設け、一般社員総数12人のうち約半数が船舶部に所属していた。
(4)運航管理規程など
 B社は、海上運送法に基づいた運送約款及び運航管理規程を定め、更に航海及び作業の安全確保を目的とした運航基準及び作業基準等を同規程に基づいて策定し、船舶の運航管理にあたっていた。
 その運航管理規程において、船舶の運航及び輸送の安全の確保に関し、運航管理者は、船長の職務権限に属する事項を除いた業務全般を統轄することとし、一方、船長に対しては、気象及び海象が一定の条件に達したと認めるとき又は同条件に達するおそれがあると認めるときは、運航中止の措置をとらなければならないと定めていた。また、その運航基準において、発航中止の条件は、運航中に遭遇する気象・海象が風速毎秒15メートル以上または波高2.5メートル以上に達するおそれがあるときと規定していた。
(5)関係人の経歴等
ア A受審人
 A受審人は、昭和63年6月に三級海技士(航海)の海技免許を取得して遠洋漁船に一等航海士として乗船し、平成3年にB社に入社して同6年から船長職を執るようになり、同9年4月からはやての船長としてその運航に従事していた。
イ C代表者
 C代表者は、昭和56年4月に実兄が無限責任社員兼運航管理者として経営に携わるB社に入社し、その後副運航管理者として同社が所有する船舶の運航管理を行い、平成6年5月に実兄が運航管理者の肩書きをもったまま相談役に退いたことから、自らが無限責任社員として同社の代表者に就任するとともに、実質的な運航管理者として職務にあたることとなった。
(6)台風第15号
 平成15年9月16日にパラオ諸島の北北西方海上で発生した熱帯低気圧は、翌々18日09時に沖縄南方海上で中心気圧が994ヘクトパスカル、中心付近の最大風速が毎秒20メートル及び風速毎秒15メートル以上の強風域半径が60海里の勢力をもつ台風第15号となり、北北西方に12ノットで進んでいた。
 宮古島地方気象台は、18日09時の観測結果などから、同時刻発表の台風第15号経路図と題する、同台風の中心が予報円に入る確率を70パーセントとする24時間後及び48時間後の予想進路図(以下「台風第15号経路図」という。)を作成し、今後遅い速力で西北西方に進む見込みのため、翌19日09時の予想位置が宮古島の南南東方約130海里で、予報円の半径が100海里であること、翌々20日09時の同位置が同島の西南西方約50海里であることなどを予想していた。
 18日15時、台風第15号の中心は、宮古島の南東方約240海里の地点にあって、中心気圧が990ヘクトパスカル、中心付近の最大風速が毎秒23メートルと徐々に勢力を増すとともに、10ノットで北方に進行する態勢となっていた。
 このため、沖縄気象台は、16時30分沖縄南方海上に海上暴風警報を発表し、また、宮古島地方気象台は、17時00分天気概況を発表し、宮古島地方の沿岸海域では台風15号の影響でうねりを伴って波高が高くなっており、19日は更に波が高まり大時化となるため、船舶は高波に厳重に警戒するよう促した。
 台風第15号は、18日21時には、その中心位置が宮古島平安名埼の南東方170海里付近にあって、勢力を保ったまま北上しており、翌19日06時には、同位置が同埼の東南東方110海里付近に達し、強風域半径を100海里に拡大させていた。
 台風第15号は、09時には、その中心位置が沖縄島の南端から192度(真方位、以下同じ。)70海里付近にあり、13ノットで北上を続けながら、中心気圧が985ヘクトパスカル及び中心付近の最大風速が毎秒26メートルと勢力を増大させており、同時刻の沿岸波浪実況図によれば、同島南端の西南西方30海里付近において、波高約5メートルの波浪が東方から寄せる状況となっていた。
 台風第15号は、12時には、その中心位置が沖縄島南端の南方40海里付近に迫っていた。
(7)本件発生に至る経緯
 はやては、A受審人ほか6人が乗り組み、数日前に来襲した台風第14号により生じた外板の凹損箇所などを修繕するため、回航の目的で、平成15年9月18日17時00分平良港を発し、沖縄県糸満漁港内にある造船所に向かった。
 これより先、A受審人は、C代表者から船体修繕のために前示造船所に回航し、同月20日に入渠の予定と知らされていたところ、18日朝、沖縄南方海上で熱帯低気圧が発達して台風第15号となったことを知り、同日10時21分宮古島地方気象台下地島空港出張所(以下「空港出張所」という。)に依頼して台風第15号経路図を取り寄せ、前示の予想内容を知った。
 このため、A受審人は、12時過ぎに台風第15号経路図の情報及びテレビ放送の天気予報をもとにC代表者と協議し、夕刻までに平良港を出港すれば、はやての航海速力と糸満漁港までの航程とから、翌19日午前中には同漁港沖に到達できるため、台風第15号の影響をさほど受けることなく航行できるものと判断し、出航準備作業に取り掛かることとした。
 一方、C代表者は、沖縄総合事務局宮古海運事務所に赴き、はやての航行区域を近海区域に変更するための臨時変更証の申請手続きを行い、同事務所の行う船舶検査に立ち会うなどしたのち、15時ごろ、航行区域を沖縄県宮古郡伊良部町から同県糸満市までの限定付き近海区域とし、最大とう載人員を7人とする臨時変更事項が記載された同証を受領したものの、台風第15号の接近が予想される状況下、船長に対して航海に支障がないかどうか、発航前に気象情報の収集を十分に行うように指示しなかった。
 A受審人は、台風第15号の接近が予想される状況下、平良港からの発航にあたり、高起した波浪を船首方から受けると車両区域に多量の海水が浸入するおそれがあることも、宮古島から沖縄島に至る海域には風波を避けることができる島がないことなども承知していたが、同台風が台風第15号経路図に示された予想進路に沿って進むものと思い、その後気象情報の収集を十分に行っていなかったので、沖縄南方海上に海上暴風警報が発表されていたことも、航行中に同台風と著しく接近するおそれがある状況となっていたことにも気付かず、発航を中止しなかった。
 こうしてA受審人は、船体中央部付近に設けた燃料油タンクに14.7キロリットル、機関室内の潤滑油タンクに3.6キロリットルの各油を、清水タンク及び各バラストタンクに合計15トンの清水をそれぞれ積載し、台風第14号により備付けの救命浮器を消失していたため、予備の同浮器12個を車両区域に積み込んだのち、前示チェーンを止め索としてその一端をランプドアのアイプレートにシャックル止めとし、同ドアをブルワーク船首端部の傾きよりも約10度の開き角度をもった半閉鎖状態にしたまま、宮古島地方気象台で風力5の北北東風が観測されるなか、前示のとおり発航したものであった。
 A受審人は、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で手動操舵により宮古島西岸に沿って北上したのち、同島の北方を東行していたとき、テレビ放送の気象情報を一瞥(いちべつ)したものの、依然として発表されていた前示警報などにあまり気を止めることなく、沖縄島に向けて北上を始めた。
 A受審人は、その後風勢が次第に増すとともに、波高2.5ないし3メートルの東寄りの波浪を受け、ランプドアのヒンジ部から車両区域に海水が浸入する状況となったことを知ったものの、航行に支障をきたすほどの荒天状態になることはないものと判断し、20時00分平安名埼灯台から021.5度25.0海里の地点で、針路を糸満漁港沖に向かう062度に定め、波浪による衝撃を和らげるため8.5ノットに減速して進行した。
 A受審人は、その後風向が変わらないまま風力6に強まるとともに、波高が3ないし3.5メートルに高まる状況となり、予想と異なる気象及び海象状況の変化に疑問を感じ始めていたところ、翌19日00時ごろ発航前に打ち合わせていた携帯電話によるC代表者との定時連絡で、台風第15号が北上を続けていることを知り、台風第15号経路図の予想進路と異なることに初めて気付いたものの、同台風の影響を大きく受ける前に何とか糸満漁港に辿り着ける(たどりつける)ものと考えて続航した。
 A受審人は、02時ごろから半閉鎖状態のランプドアとブルワーク船首端部との間から海水が打ち込む状況となったことを認め、その後更に風勢が増すとともに波高が約4.5メートルとなり、横揺れ時の傾斜角が10度を超える状況となったため、05時00分阿波連埼灯台から224度36.5海里の地点で、5.5ノットに減速したのち、C代表者との定時連絡を取ろうとしたものの、通じなかった。
 A受審人は、07時過ぎ車両区域への浸水が著しく増す一方、同区域に設けた排水口の一部がごみなどにより閉塞気味状態となり、甲板上約15センチメートルの高さまで海水が滞留する状況となったことを知り、甲板員に排水口のごみなどを取り除くように指示したものの、船体動揺と海水の滞留とにより、救命浮器が車両区域内を激しく移動し、ブルワークに激突するなどして同区域内に立ち入ることができず、同状態を解消させることができないことから、ランプドア周りからの浸水量を減少させるつもりで、07時30分阿波連埼灯台から214度23.8海里の地点に差し掛かったとき、2.5ノットに減速した。
 一方、C代表者は、06時を過ぎてもA受審人との連絡が取れないため、不安を感じ、07時過ぎ第十一管区海上保安本部(以下「海上保安本部」という。)に赴いて担当官にはやての状況を説明したのち、同時30分ごろ改めて連絡を試みたところ、ようやく通じ、同受審人から渡嘉敷島の南南西方約24海里の地点を航行しているものの、車両区域に甲板上約30センチメートルの高さまで海水が滞留し、更に増え続ける状況にあることなどの報告及び万一に備えて巡視船による伴走を要請して欲しい旨の依頼を受け、同官にその旨を伝えた。
 海上保安本部は、直ちに所属のヘリコプター1機と巡視船1隻をはやてに向けて出動させ、08時50分同ヘリコプターが時化のなかを低速力で北東進するはやてを認め、09時33分海上保安官2人と水中ポンプ1台を同船に降ろし、排水作業にあたらせていたところ、10時16分C代表者から、浸水が激しいうえに、台風第15号が接近する状況下では、自力航行も大型引船によるはやての曳航も困難であるため、同船を放棄したい旨の申し出を受け、同時20分航空自衛隊那覇基地に対して乗組員救助のための災害派遣を要請した。
 一方、A受審人は、船体を放棄するため、航空自衛隊のヘリコプターが乗組員の救助に向かう旨の連絡を受け、まず乗組員3人を上空で待機していた海上保安庁のヘリコプターで避難させることとし、10時21分同乗組員が無事救助されたのを見届け、その後同じ針路、速力で続航していたところ、同時30分ごろ車両区域に滞留した海水が閉鎖扉のない便所区画に流れ込むなどしたため、船体が右舷側に傾斜したまま戻らず、次第に傾斜が増大することを知った。
 A受審人は、11時10分飛来する航空自衛隊のヘリコプターを認め、同時15分船体放棄に備えて主機を停止させ、発電機を並列運転状態にして航海灯などを点灯させたのち、船体の横傾斜角が15度を超え、かつ、車両区域の右舷側において甲板上約1メートルの高さまで海水が滞留した状況下、11時25分阿波連埼灯台から199度16.0海里の地点において、他の乗組員3人とともに同ヘリコプターに救助された。
 はやては、主機を停止したため、折からの風波によりゆっくりと左回頭しながら無人状態で漂流を始め、その後行方不明となった。
 当時、台風第15号の中心がはやての南東方約40海里の地点に迫っており、天候は雨で風力8の北東風が吹き、付近の海域には波高6メートルを超える波浪が生じていた。
(8)事後の措置
 C代表者は、同年10月3日海上保安庁の航空機が沖縄県石垣島の南方約70海里の地点で漂流しているはやてを発見したとの知らせを受け、直ちに海難救助を業務とするD社に対し、同船の糸満漁港への曳航を依頼した。
 D社は、同日15時30分同県金武中城港から引船を出航させ、翌4日21時ごろ左舷方から風波を受ける態勢で漂流しているはやてを発見し、翌々5日10時20分やや波浪が大きい状況下、同船の船尾に曳航索をとって曳航を始め、その後車両区域のブルワークに放水口を2箇所設けて浸水に備えるとともに、はやての船首部に曳航索を取り直すなどの措置を講じ、越えて同月8日09時25分糸満漁港に入港した。
 その結果、便所区画内、賄室内及び救命浮器などに破損、操舵機のシリンダに損傷を生じたものの、その後いずれも修理された。
 C代表者は、はやての車両区域のブルワークに新たに放水口を6箇所設ける一方、沖縄総合事務局運輸部先任運航監理官から、旅客船の安全確保についてと題する書面で、本件発生の原因については、船長の気象・海象情報等の収集及び台風第15号の進路予想が不十分であったことに起因するとの指摘を受けるとともに、事業者自らが運航管理体制の充実を図り、旅客船の安全確保に万全を期するよう指示され、また、同部先任船員労務官から、発航前の検査などについて船員法違反が確認されたので、速やかに是正措置をとるよう船員法第106条に基づき注意を喚起するとともに、将来再び同様な違反をしないよう戒告する旨の戒告書を受け取り、同船員労務官宛に是正報告書を提出した。

(原因の考察)
 本件遭難は、台風第15号が沖縄南方海上を北上する状況下、宮古島から発航したはやてが強風と高起した波浪を船首方から受け、車両区域に海水が浸入するとともに、ごみなどにより排水口の一部が閉塞気味状態となり、同区域内に多量の海水が滞留し、更に閉鎖扉のない区画に流れ込んで船体の横傾斜角を増大させる状況となったことによって生じたものである。
 A受審人は、台風第15号の接近が予想される状況下、はやてが平水区域を航行する船舶であり、ランプドア周りが水密を保つ構造となっていないことも、宮古島から沖縄島に至る海域には風波を避けることができる島がないことなども知っていたのであるから、航海に支障がないかどうか判断できるよう、発航前に気象情報の収集を十分に行う必要があった。
 また、A受審人は、空港出張所から最新の気象情報を入手できる環境にあり、発航前に同情報を取り寄せていれば、沖縄気象台が発表していた海上暴風警報も、航行中に台風第15号と著しく接近するおそれがある状況となっていたことも知ることができ、発航中止の措置をとり得たものと認められることから、気象情報の収集が不十分で、発航を中止しなかったことが本件発生の原因となる。
 B社の、旅客等をとう載して行う航海において、輸送の安全を確保する目的で運航管理規程を定め、同規程に基づく運航基準で発航の中止基準を定めていたものの、旅客等をとう載しないで行う造船所などへの回航については、運航管理者による発航中止の指示を定めた運航管理規程を適用することができず、船舶の安全運航について第一義的な責任を有する船長の判断に基づいて発航の是非の決定がなされるべきであるとの主張は、首肯するものである。
 しかしながら、航海の安全が確保されなければならないことはいうまでもないことであり、台風第15号の接近が予想される状況下において、B社が船舶所有者及び船舶運航者として、船長に対して航海に支障がないかどうか、発航前に気象情報の収集を十分に行うように指示しなかったことは、本件発生の原因となる。

(原因)
 本件遭難は、沖縄南方海上において、台風第15号の接近が予想される際、気象情報の収集が不十分で、沖縄県宮古島平良港からの発航を中止しなかったことによって発生したものである。
 海運業者が、台風第15号の接近が予想される状況下、船長に対して発航前に気象情報の収集を十分に行うように指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、沖縄南方海上において、台風第15号の接近が予想される場合、沖縄県宮古島平良港から発航するにあたり、はやてが平水区域を航行する船舶であり、ランプドア周りが水密を保つ構造となっていないことも、同島から同県沖縄島に至る海域には風波を避けることができる島がないことも知っていたのであるから、気象情報の収集を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、台風第15号が当初に取り寄せた台風第15号経路図の予想進路に沿って進むものと思い、その後気象情報の収集を十分に行わなかった職務上の過失により、沖縄南方海上に海上暴風警報が発表されていたことも、航行中に同台風と著しく接近するおそれがある状況となっていたことにも気付かないまま、平良港を発航し、沖縄島南西方沖を北東進中、強風と高起した波浪を船首方から受け、車両区域に海水が浸入するとともに、ごみなどにより排水口の一部が閉塞気味状態となり、同区域内に多量の海水が滞留し、更に閉鎖扉のない区画に流れ込んで船体の横傾斜角を増大させる事態を招き、はやてを放棄して漂流させ、便所区画内、賄室内及び救命浮器などに破損を、操舵機のシリンダに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B社が、台風第15号の接近が予想される状況下、船長に対して発航前に気象情報の収集を十分に行うように指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B社に対しては、本件後、沖縄総合事務局運輸部から事業者自らが運航管理体制の充実を図り、旅客船の安全確保に万全を期するよう指示される一方、発航前の検査などに関しての船員法違反について、速やかに是正措置をとるよう船員法第106条に基づき注意を喚起されるとともに、将来再び同様な違反をしないよう戒告する旨の戒告書を受け取り、同書に基づき是正措置を講じたことなどに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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