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平成16年仙審第23号
件名

漁船第五十五昌運丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年8月26日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎、原 清澄、勝又三郎)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第五十五昌運丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
航行不能、シーアンカー用張索が損傷

原因
シーアンカー用張索の回収方法不適切

主文

 本件遭難は、海中に落下したパラシュート形シーアンカー用張索の回収方法が不適切で、同索が回転した推進器翼に巻き込まれたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月26日21時40分
 岩手県宮古港東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十五昌運丸
総トン数 138トン
登録長 29.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 第五十五昌運丸(以下「昌運丸」という。)は、船体の中央よりやや後方に操舵室を設けたいか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首2.1メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成15年12月21日08時ごろ青森県八戸港を発し、岩手県東方沖合の漁場に向かった。
 昌運丸は、漁場において、船を風に立てて機関を停止して船首甲板上のパラシュート形シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を海中に投入し、集魚灯を点灯して夕方から翌朝までの夜間操業を連日繰り返し、同月26日も16時30分に集魚灯を点灯して操業を開始したが、不漁だったので漁場を移動することにし、19時30分シーアンカーを船首甲板上に揚収したのち、針路を約340度(真方位)に定め、漁ろう長1人が操舵室で操船といかの探索に当たり、A受審人を含む他の乗組員が食堂で待機した状態で移動を開始した。
 ところで、昌運丸のシーアンカーは、直径30メートルの傘に径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ63メートルのつると称する張索46本を取り付けたパラシュートを、シャックルを介して径55ミリのみやこ綱と称するアンカーロープの先端に連結したもので、船が移動する際には、パラシュートの傘部が船首甲板左舷側に、張索及びアンカーロープ等が船首端の舷外を経て同右舷側にそれぞれ揚収され、それらが船外に落下しないよう、張索の傘寄りの部分が船首部右舷のクリートに固縛されるとともに、アンカーロープ先端のシャックルが船首端近くに設けられた金具に固定されていた。
 また、シャックルを固定する金具(以下「固定金具」という。)は、先端にストッパピンの挿入穴を有する起倒式のフック状金物(以下「フック」という。)、同じく起倒式の逆U字形をしたフック押え金物(以下「押え金物」という。)及びストッパピンで構成されており、フックをシャックルに掛けて押え金物側に倒し、逆U字形の部分がフック先端を押さえ込むように押え金物を立て、フックにストッパピンを差し込んで同金物が倒れないようにしたのち、更に、ストッパピンが外れても押え金具が倒れないよう、同金物の先端に取り付けたロープを固定金具前方のハンドレールに固縛していた。したがって、ストッパピンを抜いて、押え金具のロープをハンドレールから外して反フック側に引けば、同金物が倒れると同時に舷外に垂れ下がっている張索の重みでフックが開き、シャックルが自動的にフックから外れてシーアンカーが船外に投下されるようになっていた。
 なお、ストッパピンは、3年ほど前の紛失時に取り替えられたもので、径8.5ミリ長さ100ミリの正規のピンではなく、径3ミリ長さ40ミリのピンが使用されていた。
 昌運丸は、3メートルほどの波浪が生じている海面上を移動しているうち、繰り返されるピッチングの衝撃によって、ハンドレールに固縛されていた押え金物用のロープが緩むとともにストッパピンが徐々に抜け始め、21時30分、魚影を認めた漁ろう長が船を風に立てて機関を停止したところ、船体が激しく動揺し、ストッパピンが脱落するとともにロープが更に緩んで押え金物が大きく傾いたことから、舷外に垂れ下がっていた張索の重みでフックが開き、船首甲板上に揚収されていた張索とアンカーロープの一部が船外に落下した。
 A受審人は、機関が停止したので操業が始まるものと判断し、シーアンカーを投入するために他の乗組員と共に船首甲板に赴いたところ、張索及びアンカーロープの一部が舷外に落下しているのを認め、船尾方の集魚灯を点灯して、操舵室の右舷側辺りから張索が海中に沈んでいるのを発見した。
 その後、A受審人は、引っ張っても張索が上がって来ないこと、落下した張索とアンカーロープの長さ、張索が沈んでいる海面から推進器翼までの距離及び船を風に立てている状況等から、同索が推進器翼まで達している可能性が高く、そのような状況で機関を始動すると、同索が回転した推進器翼に巻き込まれるおそれのあることが十分に予見できる状況であったが、漁ろう長から機関を停止する前に回転数が下がるようなことはなかったと聞いたので、同索は漁群探知器のセンサーに引っ掛かっているのだろうから機関を始動しても大丈夫だろうと思い、引っ掛かっている張索を切断して機関を始動せずに回収するなどの適切な方法を採ることなく、試しに漁ろう長に機関を短時間後進にかけさせたところ沈んでいる張索の一部が浮き上がって来たこともあって、張索はセンサーに引っ掛かっていたのだと判断し、再度、機関を後進にかけさせた。
 こうして、昌運丸は、機関を始動したために海中の張索が回転した推進器翼に巻き込まれ、21時40分北緯39度38分東経143度20分の地点において、機関が停止した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹いていた。
 A受審人は、機側で機関を始動してもすぐに停止することから航行は不可能であると判断し、海上保安部に救助を要請した。
 昌運丸は、来援した巡視船に曳航されて岩手県宮古港に入港し、のち、推進器翼に巻き込んだ張索を除去して切断された張索を新替えした。

(原因についての考察)
 本件は、船首甲板に揚収されていたシーアンカーの張索及びアンカーロープの一部が、同ロープ先端のシャックルが固定金具から外れたことによって船外に落下し、同索が回転した推進器翼に巻き込まれて主機の運転が不能となったもので、脱落した固定金具のストッパピンが正規のピンではなかったことから、同ピンの整備不十分が原因ではないかとの考え方もあるが、以下の点から、同ピンの整備不十分は、張索が船外に落下した要因の1つであるとは認められるものの本件発生の原因とするのは相当ではなく、A受審人が張索の回収を適切に行わなかったことを本件発生の原因とするのが相当である。
1 固定金具の取扱い上、ストッパピンが脱落しても、ハンドレールに固縛された押え金物のロープが緩んで同金物が倒れなければフックが開かない点
2 約3年間にわたって同じストッパピンが使用されていたのに同様の事故が発生していない点
3 張索が海中に落下しても機関を始動しなければ推進器翼が同索を巻き込むことはなく、例え、機関を始動する前に張索の一部が推進器翼に絡んでいたとしても、機関を停止する前に回転は下がらなかったとの事実から、その部分を切断して機関を始動せずに張索を回収していれば、機関が停止して航行不能になる事態には至らなかったと認められる点
4 張索が操舵室の横辺りから海中に沈んでいて引っ張っても上がってこないこと、落下した張索とアンカーロープの長さ、及び船を風に立てていた状況等から、海中に沈んでいる張索が推進器翼まで達している可能性が高く、そのような状況で機関を始動すれば同索が回転した推進器翼に巻き込まれるおそれがあることは十分に予見可能であったと認められる点 

(原因)
 本件遭難は、岩手県東方沖合の漁場において、船首甲板上から海中に落下したシーアンカーの張索を回収する際、回収方法が不適切で、同索が回転した推進器翼に巻き込まれたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、船首甲板上から海中に落下したシーアンカーの張索を回収する場合、機関を始動させると回転した推進器翼が海中に沈んでいる張索を巻き込むおそれがあったから、引っ掛かった部分を切断して機関を始動せずに回収するなど、適切な方法で張索を回収すべき注意義務があった。ところが、同人は、操船していた漁ろう長から機関を停止する前に回転は下がらなかったと聞いたので、張索は魚群探知器のセンサーに引っ掛かっているのだろうから機関を始動しても大丈夫だろうと思い、機関を始動せずに回収するなどの適切な方法で張索を回収しなかった職務上の過失により、同索が回転した推進器翼に巻き込まれて機関が停止する事態を招き、昌運丸を航行不能にさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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