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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年那審第14号
件名

漁船第三久野丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年9月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第三久野丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
左舷側船底に亀裂を伴う損傷、船底に破口を生じて船内に浸水転覆し、のち廃船

原因
安全な接岸地点を選定しなかったこと

裁決主文

 本件乗揚は、安全な接岸地点を選定しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月28日16時40分
 鹿児島県奄美大島武運埼南東岸
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三久野丸
総トン数 1.2トン
登録長 6.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 54キロワット

3 事実の経過
 第三久野丸は、船体中央部に操舵室を設け、主機として船内外機を装備したFRP製漁船で、平成4年6月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、自分の妻と知人1人を乗せ、貝採取を行わせる目的で、船首0.40メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、同15年8月28日11時30分鹿児島県奄美大島大熊漁港を発し、同漁港北方4海里ばかりの武運埼付近に向かった。
 ところで、武運埼付近は、急峻な陸岸の下に幅の狭い岩浜が延び、その岩浜から数十メートルないし数百メートル沖まで裾礁が広がり、同裾礁は、干潮時にほとんど海面近くまで現れるもので、同裾礁外縁からは急激に水深が深くなり、沖合から波浪が打ち寄せるときには、同外縁付近で波高が高まりやすい状況であった。
 また、梵論瀬埼灯台から048度(真方位、以下同じ。)2,800メートルとなる武運埼北端(以下「武運埼北端」という。)の東側は湾入し、南東方向に幅の狭い岩浜が1,400メートルほど続き、そこから長さ約600メートルの砂浜となって龍郷町秋名地区に至り、同地区には、東西及び南北方向に設置された両防波堤により囲まれて北東方に開いた秋名漁港が築かれ、同漁港北方に広がる裾礁域には、可航幅30メートル長さ約600メートルの出入航航路が開削されていた。
 12時00分A受審人は、武運埼北端から122度520メートルとなる裾礁外縁(以下「下船地点」という。)に至り、海面近くとなった同裾礁上に妻と知人を降ろして貝採取を行わせることとし、自らは第三久野丸に乗ったまま武運埼北方沖合に向かい、3時間ばかり引き縄漁を行った。
 16時ごろA受審人は、妻たちを乗船させるために武運埼沖合から下船地点付近に戻ったところ、時折、波高が2メートルを超えて高まり、海岸に向けて打ち寄せているのを認め、裾礁域内に進入すると波浪による動揺で浅所に接触しやすく、海岸付近では高まった波浪を受けて海岸に打ち寄せられる危険のある状況であったが、妻たちがいる海岸から秋名漁港までは1,500メートルの距離があり、波高の低い時期を選び、船底より下になっているプロペラを水面近くまで上げて周囲の状況に注意しながら操船すれば、何とか裾礁域内に進入して海岸に接岸できるものと思い、防波堤に囲まれた秋名漁港に移動するなど安全な接岸地点を選定することなく、裾礁域内への進入路を探した。
 16時38分A受審人は、下船地点から500メートルばかり南東方の裾礁外縁に水深のある場所を見つけ、波高も少し低くなったように見えたので、プロペラを水面近くまで上げて裾礁域内に進入し、16時40分武運埼北端から131度1,000メートルの地点において、海岸に船首を付けて妻たちを乗船させていたところ、右舷斜め後方から高まった波浪を受けて海岸に打ち寄せられ、浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、沖合には波高1メートルを超す波浪があった。
 乗揚の結果、左舷側船底に亀裂を伴う損傷を生じ、その後離礁を試みるうちに船尾方の浅所を乗り切り、さらに船底に破口を生じて船内への浸水を招いて転覆し、大熊漁港に曳航されたものの、のち、廃船となった。 

(原因)
 本件乗揚は、鹿児島県奄美大島武運埼南東方の裾礁域において、やや高い波浪が生じている状況下、妻と知人を乗船させる際、安全な接岸地点を選定せず、裾礁域内に進入し、海岸に船首を付けて接岸中、波浪を受けて同海岸に打ち寄せられたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島県奄美大島武運埼南東方の裾礁域において、やや高い波浪が生じている状況下、妻と知人を乗船させる場合、裾礁域内に進入すると波浪による動揺で浅所に接触しやすく、海岸付近では波浪を受けて海岸に打ち寄せられる危険のある状況であったから、防波堤に囲まれた秋名漁港に移動するなど安全な接岸地点を選定すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、波高の低い時期を選び、プロペラを水面近くまで上げて周囲の状況に注意しながら操船すれば、何とか裾礁域内に進入して海岸に接岸できるものと思い、安全な接岸地点を選定しなかった職務上の過失により、裾礁域内に進入し、海岸に船首を付けて接岸中、波浪を受けて船体が同海岸に打ち寄せられ、浅所への乗揚を招き、船底に破口を伴う損傷を生じ、のち廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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