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平成16年門審第46号
件名

漁船第五金龍丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年8月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治、清重隆彦、上田英夫)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第五金龍丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
B 職名:第五金龍丸漁ろう長 
C 職名:第五金龍丸甲板員

損害
船体は波浪により破壊され、のち廃船

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月20日03時00分
 小笠原群島父島列島父島
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五金龍丸
総トン数 65トン
全長 26.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 257キロワット

3 事実の経過
 第五金龍丸(以下「金龍丸」という。)は、まぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人、B指定海難関係人及びC指定海難関係人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、平成15年9月12日15時00分和歌山県勝浦港を発して北太平洋に向かい、マリアナ諸島東方海域の漁場で操業し、びんちょうまぐろ約10トンを漁獲したのち、水揚げのため、船首2.5メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、同年10月17日02時45分同漁場を発し、同港に向けて帰途に就いた。
 ところで、金龍丸は、漁場への往復航海時の船橋当直を機関長以外の7人で行うこととし、その時間帯は04時から09時までをB指定海難関係人の単独固定直、18時から20時までをA受審人の単独固定直、その他の時間帯を当直部員の認証を取得しているC指定海難関係人を含む5人の甲板員が単独で2時間ないし3時間毎の輪番制で担当する体制であった。
 A受審人は、船長職を執っていたものの、航海計画や船橋当直体制の立案などを自ら行うことなく、また、航海船橋当直に就く甲板員に対し安全航行に関する啓蒙活動など何ら行うことなく、当直中に危険を感じたときには報告するよう抽象的に指導するだけで、漁場への往復航海の船橋当直と操業中の操船及び漁ろう作業などに従事して金龍丸に乗り組んでいた。
 B指定海難関係人は、金龍丸の操業から運航までのすべてについて自らが計画実施しており、漁場への往復航海中、自分の当直時間帯以外でも適宜昇橋し、航行経路中の変針や速力設定を自ら行うこととしており、甲板員に対しては、当直中に危険を感じたときには報告するよう抽象的に指導するだけで、A受審人を含む船橋当直者に対して予定進路などの航海情報を何も知らせなかった。
 漁場発進時B指定海難関係人は、機関を全速力前進にかけ9.0ノットの対地速力で、自動操舵によって北上を続け、10月19日左舷船首方約25海里のところに小笠原群島の母島をレーダーで探知したので、22時30分同群島父島の二見港丸山灯台から148度(真方位、以下同じ。)41.5海里の地点で、母島と父島との間の水域を西行したのち目的地に向けることとし、針路を父島南東岸に向首する325度に定めて進行した。
 定針後、B指定海難関係人は、母島と父島との中間地点付近に達したときに昇橋して自ら転針するつもりであったことから、当直中の甲板員に対し、転針地点・同時刻などを知らせることなく、また、同時刻頃に自分を起こすよう指示することもなく、同地点に達しても自分が昇橋して来ない場合には、レーダーで父島の接近を認めた同甲板員が起こしに来てくれることを期待して、父島の接近模様が分かるように船橋左舷側に設置したレーダーを12海里レンジにしたまま、操舵室の直ぐ船尾側の船員室に戻って、目覚まし時計のベルの発音時刻を転針予定時刻である01時30分ごろに設定して就寝した。
 一方、A受審人は、その北上模様から小笠原群島付近を航行することを知り、翌20日01時30分ごろたまたま小用に起きたとき、船首方約12海里のところに父島と左舷方に母島をレーダーで確認した。それにもかかわらず、同人は、いつものとおりB指定海難関係人が起きて転針するだろうし、仮に同人が昇橋せずに、父島へ乗揚のおそれを生じせしめる状況に陥る場合には、当直中の甲板員がB指定海難関係人又は自分にそのことを知らせるだろうと思い、同甲板員に「前に島があるぞ。」と注意喚起したのみで、見張りを十分に行い、且つ、B指定海難関係人が昇橋せず、前記の状況を認めたときには報告するよう指示しなかったばかりか、同指示を次直のC指定海難関係人に申し送りするよう指示せず、レーダーをそのままにして船員室に戻って就寝した。
 02時00分C指定海難関係人は、二見港丸山灯台から157度10.5海里の地点で、前直者から何らの引継ぎもなく、船橋当直に就いたとき、船首方約9海里のところに父島のレーダー映像を認めたが、このことに何らの関心を持つことなく、船橋右舷側に設けられた座椅子に座った。
 02時20分C指定海難関係人は、父島が船首方約6海里となったとき、当直交代時に認めたレーダー映像が気になり、立ち上がってレーダーとGPSプロッタで父島を認めたが、一瞥(いちべつ)しただけで、未だ距離があるから大丈夫と思い、このことをB指定海難関係人に報告せず、再び座椅子に戻り、その後、レーダーなどによる見張りを行わず、父島へ乗揚のおそれを生じていたものの、依然、報告を行わず、漫然と当直を継続した。
 他方、B指定海難関係人は、無意識のうちに目覚まし時計のベルを止めたためか、転針予定時刻になっても目を覚ますことなく眠り続け、C指定海難関係人から父島が接近していることを知らされなかったので、船位を確認することができずに、したがって転針することもできず、金龍丸は、父島に向首したまま続航した。
 こうして、03時00分少し前C指定海難関係人は、座椅子に座っているとき、前方に迫った父島の陸岸を認め、乗揚の危険を感じ、船員室のB指定海難関係人とA受審人に向かって叫び声をあげたものの、何もすることができず、金龍丸は、03時00分二見港丸山灯台から206度2.4海里の金右浜の岩礁に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人とB指定海難関係人は、C指定海難関係人の叫び声で異常事態を知ったが何もできず、排水作業などの事後の処置に当った。
 乗揚の結果、船体は波浪により破壊され、のち廃船とされた。また、乗組員は救命筏に移乗しているところを来援した救助船に揚収された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、漁場から帰航中、小笠原群島付近において、船位の確認が不十分で、父島の南東岸に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、漁ろう長が、他の乗組員に対して予定進路などの航海情報を伝えず、船橋当直者に対して転針地点に到達した際に行うべき報告の指示をしなかったこと、船長が、同当直者に対して見張りを十分に行い、且つ、父島へ乗揚のおそれを生じせしめる状況を認めたとき報告するよう指示しなかったばかりか、同指示を次直の船橋当直者に申し送りするよう指示しなかったこと、及び同当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、小笠原群島付近において、甲板部航海当直部員の認証を受けた甲板員を単独の船橋当直に就かせて航行中、レーダーで船首方約12海里のところに父島の存在を知った場合、当直中の甲板員に対し、見張りを十分に行い、且つ、同島へ乗揚のおそれを生じせしめる状況を認めたとき報告するよう指示し、更に、同指示を次直のC指定海難関係人に申し送りするよう指示すべき注意義務があった。それにもかかわらず、同受審人は、いつものとおりB指定海難関係人が起きて転針するだろうし、C指定海難関係人が前示の状況を認めたときには、B指定海難関係人又は自分にそのことを知らせるだろうと思い、前示の指示をしなかった職務上の過失により、父島南東岸に向首進行して乗揚を招き、金龍丸を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、他の乗組員に対して予定進路などの航海情報を伝えず、船橋当直者に対し、転針地点に到達した際に行うべき報告の指示をしなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 C指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直中、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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