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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年仙審第19号
件名

調査船第十二海工丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年8月3日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎、原 清澄、内山欽郎)

理事官
西山烝一

受審人
A 職名:第十二海工丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第十二海工丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
両舷中央部及び船尾部船底外板に破口を生じて浸水、キール中央部に凹損、両舷中央部ソナー及び同収納箱を破損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月21日12時45分
 宮城県仙台塩釜港沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 調査船第十二海工丸
総トン数 396.85トン
全長 47.8メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 第十二海工丸(以下「海工丸」という。)は、可変ピッチプロペラを装備し、海洋の採水及び採泥を行って汚染状況を測定する(以下「調査業務」という。)環境調査船で、A、B両受審人ほか7人が乗り組み、C社の環境調査員5人を乗せ、紀伊水道の海洋調査を行う目的で、船首2.8メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成15年11月21日12時00分宮城県仙台塩釜港を発し、紀伊水道南方海域に向かった。
 12時30分少し過ぎA受審人は、塩釜灯浮標を左舷側に航過したとき、花淵灯台から075度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点で、前方を航行中の内航船が同灯浮標付近から南下しだしたので、航行経験のない進路であったもののこれに追従することとし、予定針路を変更して針路を175度に定め、機関を全速力前進の翼角12度にかけ、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として自動操舵で進行した。
 ところで、A受審人は、平成元年C社に入社し、航海士として調査業務にあたったのち、同15年7月海工丸の船長に就いてからも、同船を指揮するとともに同業務を行っており、仙台塩釜港の入出港を多数繰返していたことから、海図W79に同港及びその付近海域で航行の障害となる堆や暗礁などが色鉛筆で記載され、塩釜灯浮標の南南東方沖合2.5海里のところの大根堆に赤鉛筆で印が付けられていることを知っていた。
 A受審人は、港内航路を航行中に出航配置を終えたB受審人が昇橋してきたので、同人に船橋当直を引継ぐこととしたが、その際、環境調査員と打合せた業務内容については話したものの、B受審人がこの海域については十分に慣れているので大丈夫と思い、初めて塩釜灯浮標から南下する進路を選んだにも拘わらず(かかわらず)、針路を変更したことを引継がなかったばかりか、船位の確認を十分に行いながら船橋当直にあたるよう指示することもなく、航海の危険の虞があったものの引き続き在橋しないで、機関操作にあたっていた機関長とともに、昼食を摂るため降橋した。
 B受審人は、A受審人から針路を変更した旨の引継ぎを受けていなかったうえ、相対方位指示方式で表示された作動中のレーダースコープ上の陸岸等の映像を確認せず、船首輝線が同スコープ上の真上になっていたことから、自ら記載した塩釜灯浮標から南東進する針路線付近を航行しているものと考え、相対的な船位と進路模様とに留意しないまま続航し、南下するにつれて左舷前方の大根堆付近に白波があがって破砕しているのを認め、更に南東方からのうねりによる自船の横揺れを避けようとして、12時39分わずか前花淵灯台から116度2.6海里の地点に達したとき、依然、自ら記載した塩釜灯浮標から南東進する針路線付近を航行しているものと思い、船位の確認を十分に行うことなく、左転して針路を130度に転じたところ、同堆の北端に向首する態勢になって進行したが、このことに気付かなかった。
 12時42分少し過ぎB受審人は、大根堆の北端に接近する状況になっていることに気付かずに続航中、12時45分花淵灯台から120度3.5海里の地点において、海工丸は、原針路、原速力のまま、同堆北端に乗り揚げ、擦過した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、両舷中央部及び船尾部船底外板に破口を生じて浸水し、キール中央部に凹損、両舷中央部ソナー及び同収納箱を破損したが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、宮城県仙台塩釜港沖合において、塩釜灯浮標から予定針路を変更して暗礁や堆の散在する海域を初めて南下する際、船位の確認が不十分で、大根堆の北端に向首して進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直の交替にあたり、予定針路を変更したことを引継がなかったばかりか、船位の確認を十分に行うよう指示しなかったことと、船橋当直者が船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、宮城県仙台塩釜港沖合において、予定針路を変更して初めて塩釜灯浮標付近から南下する進路を選んで、船橋当直を引継ぐ場合、暗礁や堆の散在する海域であったから、レーダーを使用して船位の確認を十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、B受審人がこの海域については十分に慣れているので大丈夫と思い、初めて航行する進路を選んだにも拘わらず、変更した針路を引継がなかったばかりか、船位の確認を十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同受審人が、予定針路が変更されたことを知らないまま、南東方からのうねりによる横揺れを避けるために転針し、大根堆の北端に向首する態勢になっていることに気付かずに進行して、同北端への乗揚を招き、両舷中央部及び船尾部船底外板に破口を生じて浸水し、キール中央部に凹損、両舷中央部ソナー及び同収納箱に破損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、宮城県仙台塩釜港沖合において、船橋当直を交替する際、塩釜灯浮標付近から予定針路が変更されたことの引継ぎを受けなかったうえ、相対方位指示方式で表示された作動中のレーダースコープ上の陸岸等の映像を確認せずに船橋当直を行い、同海域を南下するにつれ南東方からのうねりによる横揺れを避けるため転針する場合、同港沖合には暗礁や堆が散在しているのであるから、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自ら記載した塩釜灯浮標から南東進する針路線付近を航行しているものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、大根堆の北端に向首していることに気付かずに進行して、乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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