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平成16年広審第40号
件名

貨物船鉄心丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年7月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、吉川 進、道前洋志)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:鉄心丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:鉄心丸機関長

損害
バルバスバウに破口及び船首部船底外板に擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月27日01時30分
 広島県安芸郡坂町西岸
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船鉄心丸
総トン数 131トン
全長 42.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 鉄心丸は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人及び同人の妻であるB指定海難関係人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成15年6月26日15時10分山口県小野田港を発し、広島県広島港に向かった。
 ところで、鉄心丸は、専ら広島港と小野田港または兵庫県姫路港との間の鉄くず輸送に従事し、航海時間がともに約12時間と短くて1箇月に7ないし8航海行っていた。そして、A受審人及びB指定海難関係人の両人は、月に3日程度の休日を積み荷役がない日曜日に取ることができたものの、通常は1日に合計5ないし6時間の休息を2ないし3回に分けて取るだけであったので、休日を取れないまま航海が連続すると疲労気味になることがあった。また、A受審人は、以前B指定海難関係人が船橋当直中に居眠りに陥ったことがあったので、平素から眠気を催したら報告するよう指示していた。
 出航に先立って、A受審人及びB指定海難関係人の両人は、同日02時30分ごろ小野田港に入港着岸し、機関の手仕舞いや揚げ荷役の準備を約1時間行ったのち休息を取り、08時00分揚げ荷役が陸上業者によって開始されてからは、積荷が船倉内にぶつかる騒音でゆっくり休息を取れないまま、食料品購入のため外出して帰船し、14時30分ごろから陸上の作業員3人とともに船倉内の掃除を行い、荷役終了とともに同掃除を終えて出航したものであった。
 B指定海難関係人は、小野田港出航に当たって船首配置に就いたのち、甲板上の清水洗いを1人で行い、17時00分ごろ同作業を終えて夕食の支度に取り掛かり、操舵室でA受審人とともに夕食を摂ってその片付けを行い、20時00分操舵室後部の寝台で休息を取った。
 一方、A受審人は、出航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、周防灘、上関海峡及び大畠瀬戸を経て広島湾に至り、23時00分大畠航路第5号灯浮標付近で、いつものように広島県似島と同県江田島との間にある大須瀬戸に達するまで約2時間の休息を取ることとし、B指定海難関係人を起こして、同人に単独の船橋当直を行わせることにしたが、休日を取れないまま3航海連続して就航し、疲労気味であったにもかかわらず、平素から指示しているのでわざわざ指示するまでもないものと思い、眠気を催したら報告するよう指示を徹底することなく、針路、速力及び周囲の状況を伝えただけで引き継ぎを終え、操舵室後部の寝台で休息した。
 23時00分B指定海難関係人は、単独の船橋当直に就いて、操舵室中央にある操舵スタンド後方の椅子に座って当直に当たり、レーダーや双眼鏡を使って見張りを行いながら広島県甲島の北西方沖合、同県小黒神島の東方沖合及び奈佐美瀬戸を経て広島湾を北上し、やがて大須瀬戸西口に至って、翌27日01時05分安渡島灯台から036度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、針路を同瀬戸のほぼ中央に向く089度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.7ノットの対地速力で進行した。
 ところが、B指定海難関係人は、入港の約1時間前にあたりいつも船橋当直を交替する大須瀬戸を通航中、疲労気味であったうえ、周囲に他船も見あたらず緊張感がなくなって眠気を催したが、A受審人の休息時間が短いからもう少しだけ寝かせておこうと思い、眠気を催したことを同人に報告して居眠り運航の防止措置をとることなく、01時14分ドウゲン石灯標から183度760メートルの地点で、自動操舵のまま針路を063度に転じ、椅子に座って当直を続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、鉄心丸は、01時23分屋形石灯標から333度900メートルの地点で、広島県金輪島の南東方沖合に向ける予定の転針が行われることなく同県安芸郡坂町西岸に向かって続航し、01時30分屋形石灯標から040度1.2海里の地点において、原針路、原速力のまま、同西岸の岩礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は、B指定海難関係人が発した声で目覚め、事後の措置に当たった。
 乗揚の結果、バルバスバウに破口及び船首部船底外板に擦過傷を生じたが、上げ潮を待って自力離礁し、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、広島湾において、広島港に向け北上する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、広島県安芸郡坂町西岸に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の単独の船橋当直者に対して、眠気を催したら報告するよう指示を徹底しなかったことと、同当直者が、眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、広島湾において、広島港に向け北上中に妻である無資格の機関長に単独の船橋当直を行わせる場合、休日を取れないまま航海が連続して疲労気味であったから、眠気を催したら報告するよう指示を徹底すべき注意義務があった。しかし、同人は、平素から指示しているのでわざわざ指示するまでもないものと思い、眠気を催したら報告するよう指示を徹底しなかった職務上の過失により、船橋当直者が居眠りに陥り、広島県安芸郡坂町西岸に向首したまま進行して乗揚を招き、バルバスバウに破口及び船首部船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人は、夜間、広島湾において、単独の船橋当直に就いて広島港に向け北上中に眠気を催した際、船長の休息時間が短いからもう少しだけ寝かせておこうと思い、同人に報告して居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、眠気を催したとき船長に報告すれば良かったと深く反省している点に懲し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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