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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年広審第28号
件名

貨物船第三大運丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年7月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:第三大運丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船首部船底外板に凹損等

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月31日04時30分
 瀬戸内海西部 山口県笠佐島
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三大運丸
総トン数 199トン
全長 58.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第三大運丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人及び船長Bほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首1.30メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、平成15年10月30日11時50分島根県江津港を発し、山口県岩国港に向かった。
 ところで、C社は、本船を含めて総トン数199トン型貨物船3隻を保有し、社員及び船員とも親戚関係者で構成された同族会社で、船側と陸側との管理等を含む意志疎通が良く、岩国港を積み地とするチップ輸送に当たっていた。そして当時、当社々長の長男が本船の船長職を執っていたところ、休暇下船中で代わりに乗船したB船長が甲板資格のみで出入港等の操船も不慣れなこともあって、A受審人が甲機両資格を有し船長経験も豊富であったので、機関長職を執りながら実質上の船長として運航指揮に当たっていた。
 A受審人は、船橋当直体制を運営するに際して居眠り運航防止の措置に関し、積地岩国及び揚地江津両港間の所要航海時間が約20時間、また荷役時間が積地では乗組員が船倉内でブルドーザーを運転して積荷を平にする作業に約2時間及び揚地では乗組員の手を必要とせず陸上側のバケット荷役に約4時間を要する程度の荷役状況であり、乗組員が特に疲労や睡眠不足になる状況ではなかったので、船橋当直をB船長との単独5時間2直制で行っていた。そして仮に当直中に眠気を催した際は、身体の移動やコーヒーを飲むなどして眠気を払うことに努め更にそれでも眠気を催すようであれば、次直との当直交替を早めることにしていた。しかし、それはいずれも眠気を催した際の居眠り運航防止の措置である健康状態や精神状態などに係わった個人的要因に止まったもので、例えば眠気の自覚の有無に係わらず効果的と考えられるような居眠り防止機の取付など当直環境要因等の居眠りに係わる人的要素について総合的に検討したものまでには至らず、居眠り運航防止の措置を十分に取っていなかった。
 こうして、A受審人は、江津港を出航するとB船長と船橋当直を交替しながら関門海峡を経て、翌31日00時ころ周防灘に入り山口県宇部港沖に達したころ、当直を交替して単独船橋当直に就き、周防灘に続き平郡水道を東行した。その後大畠瀬戸を経る予定で山口県下荷内島西方を北上し、04時12分大磯灯台から191度(真方位、以下同じ。)4.1海里の地点で、笠佐島東側を経て大畠瀬戸を通航する予定で針路を同島に向く000度に定め、機関を全速力にかけたまま10.5ノットの速力で自動操舵により進行した。
 ところが、A受審人は、定針後視界も良好で前方には他船も見当らず、しばらく比較的広い水域を航行することになることから、笠佐島東側の狭い水域に至るまでの間いすに腰掛けて当直を続けた。しかし、当時すでに深夜からの長時間当直の疲れや未明で体内時計の点から睡眠が要求される時期であったところ、まもなく眠気の自覚がないまま居眠りに陥ってしまった。
 こうして、A受審人は、その後大畠瀬戸に向かう転針地点に達したことに気付かず、笠佐島南岸に向いたまま続航し、04時30分大磯灯台から220度1.2海里の地点において、第三大運丸は、同じ針路速力のまま笠佐島南岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。乗揚の結果、第三大運丸は、船首部船底外板に凹損等を生じ、のち引船の来援を得て離礁した。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、周防灘を経て大畠瀬戸に向けて航行するにあたって深夜から未明に及ぶ長時間の単独船橋当直を行う際、居眠り運航の防止措置が不十分で、大畠瀬戸を通航する予定で笠佐島に向いたまま進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、周防灘を経て大畠瀬戸に向け深夜から未明に及ぶ長時間の単独船橋当直を行う場合、概して未明には当直の疲れや体内時計の点から睡眠が要求される時期であり眠気の自覚の有無に係わらず居眠りに陥るおそれがあるから、単に健康状態や精神状態など個人的要因のみならず居眠り防止機の取付など当直環境要因等の居眠りに係わる人的要素を総合的に検討して居眠り運航の防止措置を十分に取るべき注意義務があった。しかし、同人は、当直中に眠気を催せば身体の移動やコーヒーを飲むなどして眠気を払うことに努める個人的要因に止まり、例えば眠気の自覚の有無に係わらず効果的と考えられるような居眠り防止機の取付など当直環境要因等の居眠りに係わる人的要素について総合的に検討したものまでには至らず、居眠り運航の防止措置を十分に取らなかった職務上の過失により、当直中に眠気の自覚がないまま居眠りに陥って、大畠瀬戸航路に向かう転針地点に達したことに気付かず、笠佐島に向いたまま進行して、同島南岸への乗揚を招き、船首部船底外板に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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