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平成15年那審第61号
件名

プレジャーボートフィッシャー号浸水事件(簡易)

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成16年5月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉崎忠志)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:フィッシャー号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機、蓄電池、蓄電池用充電器、主機遠隔操縦装置及び航海機器などが濡損

原因
主機排気管系(船尾排出口から機関室への)海水浸入防止措置不十分

裁決主文

 本件浸水は、主機排気管系の船尾排出口から機関室への海水浸入防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月16日07時00分
 沖縄県金武中城港
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートフィッシャー号
全長 7.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 69キロワット
回転数 毎分2,600

3 事実の経過
 フィッシャー号は、B社が製造したキングフィッシャーK-270型と称する、最大とう載人員12人幅2.60メートル深さ1.09メートルのFRP製プレジャーボートで、甲板下には、船首方から順に船首格納庫及びキャビンを、船体中央から船尾方にかけて機関室、いけす、船尾格納庫及び舵機庫などをそれぞれ備えており、機関室の上部に操舵室を設け、同室から機関の遠隔制御ができるようになっていた。
 機関室には、その中央に、主機としてB社製のUM4BDIT型と称する過給機付4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関を装備し、同室の前部に、主機動力取出軸によりベルト駆動される蓄電池用充電機及び冷却海水ポンプを備えていたほか、同室の後部に、蓄電池及びビルジポンプなどを備えていた。
 主機の排気管系は、各シリンダの排気弁により排出された排気ガスが、排気マニホルドを経て過給機に至り、同機排気出口ケーシングから曲管部を有する外径10センチメートル(以下「センチ」という。)の鋼管製排気管(以下「主機側排気管」という。)、及び機関室後部隔壁を貫通し、船尾格納庫内の左舷外板に沿ってほぼ水平に敷設された同径で長さ約185センチの鋼管製排気管(以下「船尾側排気管」という。)を通り、水面上約15センチに位置する直径10センチの船尾排出口から船外に排出されるようになっており、主機側排気管と船尾側排気管との接続部には、長さ約20センチ外径約11センチのゴム継手がステンレス鋼製のホースバンドで取り付けられていた。
 また、主機の冷却海水管系は、左舷船底の海水吸入口から海水吸入弁を介して直結の冷却海水ポンプにより吸入、加圧された海水が、潤滑油冷却器、空気冷却器、排気マニホルド及び逆転減速機用潤滑油冷却器などを冷却したのち、主機側排気管に入って排気ガスと混合し、船尾排出口から排出されるようになっていた。
 A受審人は、平成8年8月に四級小型船舶操縦士の免許を取得しており、同14年9月釣りの目的で中古船のフィッシャー号を購入し、休日を利用して沖縄県金武湾及び中城湾周辺の釣り場に繰り返し赴いていた。
 翌15年7月6日、フィッシャー号は、A受審人が船長として単独で乗り組み、友人2人を乗せ、釣りの目的で、09時00分沖縄県金武中城港平安座南地区の船だまりを発し、同時20分津堅島沖合の釣り場に至り、適宜、釣り場を移動しながら釣りを行い、18時10分釣りを止め、主機を全速力にかけて帰港し、船首尾ともに0.37メートルの等喫水をもって、19時00分同船だまりの東防波堤に船首を東南東方に向けて船首付けで係留した。
 そして、A受審人は、同月13日午後、フィッシャー号を係留している金武中城港平安座南地区の船だまりに着き、燃料油を補給するなどの発港準備を終えたものの、天候が悪化して波浪が強まる状況になったので発港を取り止め、主機オイルパンの油量や冷却清水タンクの水位などを確認したうえで、蓄電池の充電を兼ねて主機を始動し、しばらくして主機側排気管と船尾側排気管間のゴム継手に亀裂(きれつ)が生じているのを認めて主機を止め、予備の同継手がないまま、これを排気管から取り外して点検したところ、特に同継手内部の焼損が激しかったことから再使用不能の状況となったが、これまで船尾排出口から海水が主機に浸入したことがなかったので、問題はあるまいと思い、同継手が取り付けられていた船尾側排気管端に木栓を打ち込むなどして、機関室への海水浸入防止措置をとることなく、同排気管端を開放したままの状態で、19時ごろ船内を無人として帰宅したので、気象海象が悪化すると、船尾排出口から逆流した海水が同排気管を経て機関室に浸入するおそれがあった。
 こうして、フィッシャー号は、金武中城港平安座南地区の東防波堤に無人のまま係留中、同月15日16時10分沖縄本島中南部に対して波浪注意報が発表され、次第に西南西風が強まり、船尾方から波浪を受けながら激しく船体動揺を繰り返しているうち、船尾排出口から逆流した海水が船尾側排気管を経て機関室に浸入するようになり、船尾が沈下して同排出口が海中に没し、多量の海水が機関室に浸入するとともに船尾格納庫、操舵室及びキャビンなどにも浸入し始め、翌16日07時00分金武中城港浜地区防波堤灯台から真方位040度1,100メートルの前示係留地点において、港内巡視をしていた与那城町漁業協同組合の関係者により船首部だけが海面上に浮かんでいる状態で発見された。
 当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 浸水の結果、主機、蓄電池、蓄電池用充電器、主機遠隔操縦装置及び航海機器などが濡損し、フィッシャー号は、クレーン車で引き上げられて専用台車に上架され、のち業者によって損傷部が修理された。 

(原因)
 本件浸水は、金武中城港平安座南地区の船だまりで係留中、主機排気管系の亀裂を生じたゴム継手を取り外し、損傷の進展により同継手が再使用不能の状況となった際、機関室への海水浸入防止措置が不十分で、同継手が取り付けられていた船尾側排気管端が開放されたまま放置され、気象海象の悪化による波浪の影響を受けて船体動揺が激しくなり、船尾排出口から逆流した海水が同排気管を経て機関室などに浸入したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、金武中城港平安座南地区の船だまりで係留中、主機排気管系の亀裂を生じたゴム継手を取り外し、損傷の進展により同継手が再使用不能の状況となった場合、予備の同継手がなかったのであるから、気象海象の悪化などにより船尾排出口から逆流した海水が機関室に浸入することのないよう、船内を無人とする前に、同継手が取り付けられていた船尾側排気管端に木栓を打ち込むなどして、機関室への海水浸入防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまで同排出口から海水が主機に浸入したことがなかったので、問題はあるまいと思い、船内を無人とする前に、機関室への海水浸入防止措置をとらなかった職務上の過失により、多量の海水が機関室などに浸入する事態を招き、主機、蓄電池、蓄電池用充電機、主機遠隔操縦装置及び航海機器などを濡損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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