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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  浸水事件一覧 >  事件





平成16年仙審第1号
件名

漁船第十八漁栄丸浸水事件

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成16年4月13日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎、吉澤和彦、勝又三郎)

理事官
弓田邦雄

指定海難関係人
A 職名:B社取締役

損害
機関室配置の燃料油移送ポンプ及び雑用水ポンプ等が濡損、操舵室上部のアンテナが曲損及び燃料油が使用不能

原因
係留船上の融雪作業時における船舶所有者の作業手順が不適切で、散水された海水及び融雪水が甲板上に滞留して船体が大傾斜したこと

主文

 本件浸水は、船舶所有者が係留船上に積もった雪の融雪作業を行う際、作業手順が不適切で、散水された海水及び融雪水が甲板上に滞留して、船体が大傾斜したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月9日07時40分
 青森県八戸漁港(小中野)
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八漁栄丸
総トン数 14.98トン
全長 19.90メートル
3.60メートル
深さ 1.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 102キロワット

3 事実の経過
(1)第十八漁栄丸
 第十八漁栄丸(以下「漁栄丸」という。)は、昭和52年12月に進水した鋼製漁船で、平成12年8月にB社に購入されて以降、青森県八戸漁港(舘鼻)を係留地として、朝出漁して下北半島沖合の漁場で操業を行ったのち翌朝帰港して八戸漁港(小中野)の第2魚市場で水揚げを行うという形態で、底引き網漁業に従事していた。
(2)漁栄丸の一般配置
 漁栄丸は、1層甲板型で、上甲板下には、船首側から順に燃料油タンク、氷倉、魚倉、機関室、船員室、舵機室及び燃料油タンクが、上甲板上には、船首に倉庫として使用される船首楼及びほぼ中央部に2層の甲板室がそれぞれ設けられ、同室の上層が操舵室に、下層が休憩室、賄室、機関室囲壁等になっていたほか、甲板室の前後が甲板(以下「前部甲板」及び「後部甲板」という。)になっていて、後部甲板から甲板室への出入口並びに甲板室から機関室及び船員室への各出入口が、いずれも甲板室の左舷側後部に配置されていた。
 また、漁栄丸の上甲板は、周囲が高さ1.3メートルのブルワークで囲まれていて、ブルワーク下方に設けられた片舷4個の排水口には、上甲板上の水は排出するが船外からは海水が浸入しないよう、逆止弁の働きをするフラップが取り付けられていた。
(3)指定海難関係人A
 A指定海難関係人は、B社の取締役で、代表取締役の母親に代わって船舶所有者としての業務を全て1人で行い、漁栄丸も含めて所有する3隻の漁船については、帰港後、休養のために乗組員が下船して無人のまま係留されている間は自らが見回って管理するようにしており、また、一級小型船舶操縦士の免許を有し、漁栄丸にも船長として乗船した経験があったので、漁栄丸の排水口にフラップが取り付けられていることを十分に承知していた。
(4)本件発生に至る経緯
 漁栄丸は、平成15年3月7日08時00分ころ八戸港に入港し、いつもどおり第2魚市場で漁獲物の水揚げを行ったが、前線を伴う低気圧が接近していたことから、いつもの係留地点に係留することを止めて波の影響が少ない第2魚市場前の岸壁で低気圧が過ぎるのを待つことにし、09時00分ころ、同岸壁に左舷付けで接岸していた総トン数約14トンの底引き網漁船(以下「僚船」という。)の右舷側の、八戸大橋橋梁灯(C1灯)から真方位247度580メートルの地点に移動した。
 漁栄丸は、自船の円筒形ゴム製フェンダーを介して僚船に左舷付けし、同船と岸壁のビットに船首・尾から各々2本の係留索を係止して、いつでも出港できるよう燃料油を補給したのち、喫水が船首1.4メートル船尾2.5メートルになった状態で、09時30分ころ、船長ほか5人の乗組員全員が帰宅して、無人のまま係留を開始した。
 翌々9日07時00分ころA指定海難関係人は、漁栄丸を見回りに行ったところ、前日の夕方まで降り続いた記録的な大雪のため、船上に60センチメートル(以下「センチ」という。)ほどの積雪があって船体が若干沈下するとともに、陸側に吹き寄せられた雪のために船体が少し左舷側に傾いているのを認めたので、鍵のかかっていなかった甲板室後部左舷側の出入口から甲板室内に入り、機関室で発電機を始動して散水ポンプを運転したのち、同時10分ころ、前部甲板右舷側船尾部にコイルされていた散水ホースで海水を散水しながら、前部甲板の中央よりやや右舷寄りを船首方向に向かって融雪作業を開始した。
 ところで、A指定海難関係人は、普段の融雪作業時には両舷側の雪を最初に融雪するようにしていたが、このときは、積雪がいつもの倍くらいあったうえ船体が少し左舷側に傾いていたことから、早く除雪しようと思い、融雪作業を開始するに当たって、排水口周辺の雪を取り除いてフラップの作動を確認するなど、散水した海水及び融雪水が確実に船外に排出されることを確認しなかったので、フラップが氷結して滞留水が排出されない状態になっていることに気付かなかった。
 そのため、漁栄丸は、融雪作業が続けられているうち、散水された海水及び融雪水が船外に排出されずに左舷側に滞留して、次第に傾斜が増加する状況となっていた。
 A指定海難関係人は、着用していたヤッケのフードを目深にかぶり、斜め前方の雪だけを見ながら作業を行っていたので、傾斜が次第に大きくなっていることに気付かなかったが、船首楼甲板に至って散水中、ふと顔を上げたとき、船体が左舷側に大きく傾斜しているのに気付き、07時30分ころ機関室に戻って散水ポンプを停止した。
 漁栄丸は、フェンダーを介して僚船に寄り掛かる状態になっていたところ、A指定海難関係人が携帯電話で乗組員への連絡やレッカー車の手配を行っている間に雪と滞留水の重みに耐え切れなくなり、傾斜が更に増加して海水がブルワークを超えて甲板上に流入し始め、07時40分甲板室後部左舷側の出入口から甲板室内に流入した海水の一部が機関室及び船員室に浸入した。
 当時、天候は曇で風力4の北北西風が吹き、潮侯は下げ潮の初期であった。
 この結果、機関室左舷側に配置されていた燃料油移送ポンプ及び雑用水ポンプ等が濡損し、操舵室上部のアンテナが僚船に接触して曲損したほか、燃料油タンクの空気抜き管から海水が浸入して燃料油が使用不能になり、のち濡損箇所や機器を洗浄するなどの修理が行われた。

(原因)
 本件浸水は、青森県八戸漁港(小中野)において、第2魚市場前の岸壁に接岸していた僚船に係留中、見回りに来た船舶所有者が散水ポンプで船上に積もった雪の融雪作業を行う際、作業手順が不適切で、散水された海水及び融雪水が船外に排出されずに甲板上に滞留して船体が大傾斜し、ブルワークを超えて流入した海水が機関室及び船員室に浸入したことによって発生したものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、散水ポンプで船上に積もった雪の融雪作業を行うにあたり、排水口周辺の雪を取り除いて散水した海水及び融雪水が船外に排出されることを確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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