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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成16年仙審第5号
件名

漁船第三長功丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年6月16日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎、原 清澄、勝又三郎)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第三長功丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
過給機のタービン側及びブロワ側両玉軸受、ロータ軸、タービン車室並びに渦巻室等に損傷、のち過給機一式を新替え

原因
主機排気ガスタービン過給機の潤滑油の点検・整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機排気ガスタービン過給機の潤滑油の点検及び整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月5日06時10分
 岩手県久慈港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三長功丸
総トン数 199トン
全長 44.47メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 698キロワット(計画出力)
回転数 毎分360(計画回転数)

3 事実の経過
 第三長功丸(以下「長功丸」という。)は、平成元年6月に進水したさんま棒受網漁業及びまぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、B社製のK28D型ディーゼル機関を主機として装備し、主機の船尾側架構上に、C社が製造したVTR201-2型と呼称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設していた。
 過給機は、タービン車室、渦巻室及び軸流タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸等で構成され、ロータ軸がタービン側軸受室の単列玉軸受とブロワ側軸受室の複列玉軸受とによって支持されていて、同軸の両端に取り付けられたポンプ円板によって各軸受室の油だめに溜められた潤滑油が玉軸受に給油されるようになっていた。また、各軸受室には、油だめの潤滑油の油量及び色相が容易に点検できるように油面計が取り付けられていたが、長功丸では、過給機の周辺が薄暗かったので、油面は懐中電灯がなくても確認できるものの、色相は懐中電灯で油面計を照らさなければ確認することができなかった。
 長功丸は、主機や過給機等の全般的な整備を行って12月下旬ころから7月中旬ころまで太平洋でまぐろはえ縄漁に、その後は、主機燃料噴射弁の噴射テストや各冷却器の保護亜鉛取替え等の簡単な整備を行って8月中旬ころから12月中旬ころまで三陸沖合及び北海道沖合でさんま棒受網漁に従事し、主機を月間600時間ほど運転しながら操業を繰り返しており、過給機については、平成14年12月の定期検査工事で各玉軸受及びラビリンスブッシュを新替えするなどの整備を行っていた。
 A受審人は、前示の定期検査工事後に機関長として長功丸に乗り組み、過給機の潤滑油(以下「潤滑油」という。)については、取扱説明書をよく読んでいなかったことから、同書中に潤滑油はできる限り500時間ごとに取り替えるよう、また、500時間を超える場合でも必ず1,000時間以内で取り替えるよう記載されていることを知らなかったものの、前任機関長からの引継や過去の経験から、ほぼ1箇月半ごとに潤滑油を取り替え、その旨を機関日誌に記載して次回の取替え時期を予測していた。
 ところで、A受審人は、同15年6月26日に潤滑油を取り替えたとき、次回の取替えがさんま棒受網漁に切り替える前の整備時期に当たることから、そのとき整備業者に潤滑油も取り替えてもらえばよいと考えていたが、同年8月中旬宮城県気仙沼港で整備業者に整備を行わせた際、さんま漁の準備作業に忙しかったので、潤滑油の取替えを整備業者に依頼するのを失念してしまった。
 また、A受審人は、機関室当直中は4時間ごとに機関日誌に各部の温度及び圧力等を記入する必要があることから少なくとも4時間に1回は機関室内を巡視し、各計測箇所を計測するついでに各部の点検を行っており、その都度潤滑油の油量の確認も行っていたが、油量が十分であれば問題はあるまいと思っていたので、懐中電灯で油面計を照らして色相を確認することまではしていなかった。そのため、同人は、いつしか排気ガスの混入によってタービン側の潤滑油が変色するなど、潤滑油の取替えが必要な状況になっていたが、このことに気付かなかった。
 しかも、A受審人は、同年10月2日ころ機関室巡視中にふと懐中電灯で過給機の油面計を照らしたとき、油量は減っていないもののタービン側の潤滑油がこげ茶色に変色しているのを認めて整備業者に潤滑油の取替えを依頼するのを失念したことに気付いたが、仕事が忙しかったうえ今まで問題がなかったからもうしばらくは大丈夫だろうと判断し、依然、潤滑油の取替えを行わなかった。
 こうして、長功丸は、タービン側の潤滑油が汚損したまま過給機の運転を続けているうちにタービン側玉軸受の磨耗が進行してロータ軸の振れが大きくなっていたところ、A受審人ほか15人が乗り組み、北海道襟裳岬沖合におけるさんま棒受網漁の目的で、船首1.5メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、同月5日05時55分岩手県久慈港を発し、諏訪下外防波堤を通過して徐々に主機の回転数を上昇させながら航走中、過給機のタービン動翼先端がタービン車室に接触するなどし、06時10分、久慈港諏訪下外防波堤灯台から真方位079度0.7海里の地点において、タービン車室下部のガス抜き穴から煙が発生した。
 当時、天候は曇で風力1の南南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 機関室で監視に当たっていたA受審人は、異音はないものの過給機タービン車室下部のガス抜き穴から煙が出ているのを認めたので、事態を船長に報告した。
 長功丸は、操船中の船長が既に主機の運転音の変化に気付いて回転を下げていたので、そのまま主機を最低回転数として自力で岸壁に引き返し、修理業者が過給機を開放・点検したところ、タービン側及びブロワ側両玉軸受、ロータ軸、タービン車室並びに渦巻室等に損傷が判明したので、のち過給機一式を新替えする修理を行った。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機過給機の潤滑油の性状管理を行う際、同油の点検及び整備が不十分で、タービン側軸受室内の潤滑油が汚損したまま過給機の運転が続けられたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機過給機の潤滑油の性状管理を行う場合、潤滑油が汚損したまま過給機の運転を続けると玉軸受を損傷するなどのおそれがあるから、潤滑油の点検及び整備を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、整備業者に取替えを依頼したと思い込んで取替え予定時期に潤滑油を取り替えなかったうえ、油量が十分であれば問題はあるまいと思って色相を確認しないなど、潤滑油の点検及び整備を十分に行わなかった職務上の過失により、タービン側の潤滑油が汚損していることに気付かないまま過給機の運転を続けて玉軸受の磨耗を著しく進行させ、ロータ軸の振れが大きくなってタービン動翼先端がタービン車室に接触するなどの事態を招き、玉軸受、ロータ軸、タービン車室及び渦巻室等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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