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平成16年門審第35号
件名

押船第三神佑丸被押起重機船第二神佑号被引作業船しんゆう18遭難事件(簡易)

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年6月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:第三神佑丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
しんゆう18・・・船底外板などに凹損等
第三神佑丸押船列・・・損傷ない

原因
曳航索取替作業時の作業手順不適切

裁決主文

 本件遭難は、曳航索取替作業を行う際、適切な作業手順を採らなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月17日01時30分
 山口県角島北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 押船第三神佑丸 作業船しんゆう18
総トン数 19トン  
全長 14.80メートル 9.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 662キロワット 153キロワット
船種船名 起重機船第二神佑号  
総トン数 636トン  
全長 51.00メートル  
17.0メートル  
深さ 3.0メートル  

3 事実の経過
 第三神佑丸は、主として港湾浚渫作業に従事する鋼製押船で、平成15年5月交付の一級小型船舶操縦士の免状を有するA受審人が1人で乗り組み、作業員3人を乗船させ、第二神佑号の起重機検査のための回航の目的で、船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、その船首部を1.0メートルの等喫水となった第二神佑号の船尾部に嵌合(かんごう)(以下「神佑丸押船列」という。)し、また、同号の左舷船尾部に船首1.0メートル船尾1.2メートルの喫水のしんゆう18を曳航(えいこう)して平成15年12月16日20時30分山口県油谷湾の粟野港を発し、関門港に向かった。
 ところで、第三神佑丸は第二神佑号の船尾中央部の凹部に油圧ピンと合成繊維ロープとにより堅固に結合されていたが、しんゆう18は、第二神佑号の左舷船尾甲板のボラード及び十字ビットからそれぞれ延出した長さ約20メートルで直径30ミリメートルの2本の合成繊維ロープ先端のアイスプライス(以下「アイ」という。)をしんゆう18の船首甲板のボラードに掛けて両船を結合していた。
 また、A受審人は、発航前、しんゆう18の曳航準備作業を3人の作業員に行わせたが、使用曳航索に損傷を認めず、また、しんゆう18を当日通船として運航し、潤滑油や冷却水の点検を行い、機関等に何ら異常を認めていなかった。
 A受審人は、油谷湾を出たころから荒天気味となったものの順調に航行し、23時17分角島灯台から026度(真方位、以下同じ。)3.15海里の地点に達したとき、針路を240度に定め、2.1ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 翌17日01時00分A受審人は、角島灯台から303度1.99海里の地点に達したとき、第二神佑号のボラードから取っている曳航索のストランドが切れているのを認めたので、同索に懸かる緊張度を少なくするため、同索を伸ばす作業をする目的で、1.2ノットの速力に減速した。ところが、第二神佑号のボラードに前示の曳航索が緊縛して解けなかったため、A受審人は、しんゆう18のボラードからアイを外して別のロープで曳航索を取り直そうと思い、角島灯台から289度2.35海里付近で停止し、同船が第三神佑丸に接近したとき、作業員をしんゆう18に移乗させて曳航索取替作業をさせようとしたが、波高が大きく作業員が移乗を躊躇った(ためらった)ことから、自ら1人でしんゆう18に移乗することとした。
 移乗後、A受審人は、弛んだ曳航索が第三神佑丸の船底に入り込むのを認め、同船のプロペラに同索が絡むのを危ぶんで、早く曳航索を取り込もうと思い、先にしんゆう18のボラードからアイを外し、同船を運航して第二神佑号に接近しようと決めた。
 このとき、A受審人は、一旦、曳航索を放つとしんゆう18が神佑丸押船列を離れて漂流を開始するおそれがあったから、同索を放す前に同船の機関を予め(あらかじめ)始動するなどの適切な作業手順とすべきであったが、発航直前まで同船を運航していたことから同船の機関を始動できなくなることはあるまいと思い、前示の作業手順を採ることなく、2つのアイを外した後、これまで被ってきた波しぶき等のためか同船の機関の始動ができず、01時30分角島灯台から289度2.35海里の地点で、しんゆう18は、漂流を始めた。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、波高は約2メートルで潮候は上げ潮の末期であった。
 その結果、A受審人は、携帯電話により神佑丸押船列に在船している作業員に救助を依頼したが、同作業員が同押船列を十分に操船できず、そのうち角島に向けて圧流され始めたため、同押船列の乗揚のおそれを感じ、同押船列の乗揚を回避したい一心で、第三神佑丸まで泳いで戻ろうと思い、海中に飛び込んだものの辿り着く(たどりつく)ことができず、あきらめて角島に向かって泳いで上陸し、家族に電話連絡して救助を求めた。また、しんゆう18は、その後角島に漂着して乗り揚げ、船底外板などに凹損等を生じたが、神佑丸押船列は海上保安部の誘導により作業員が操船して油谷湾に戻った。 

(原因)
 本件遭難は、夜間、角島北西方を航行中、曳航索取替作業を行う際、作業手順が不適切で、曳航索を放たれたしんゆう18の機関の始動ができず、漂流して発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、荒天気味の海象の下、しんゆう18を曳航して角島北西方を西行中、損傷した曳航索の取替作業を行う場合、一旦、同索を放つとしんゆう18が神佑丸押船列を離れて漂流を開始するおそれがあったから、同索を放す前に同船の機関を予め始動しておくなどの適切な作業手順を採るべき注意義務があった。しかるに、同人は、発航直前まで同船を運航していたことから同船の機関を始動できなくなることはあるまいと思い、前示の適切な作業手順を採らなかった職務上の過失により、曳航索を放ったのち機関を始動することができず、同船を漂流させて遭難を招き、しんゆう18を角島に乗り揚げさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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