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平成16年函審第18号
件名

漁船第拾三陽丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年6月23日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、岸 良彬、古川隆一)

理事官
山田豊三郎

受審人
A 職名:第拾三陽丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
プロペラに曲損及び同軸に損傷など及び網が損壊

原因
底びき網揚網中の対水速力の確認不十分

主文

 本件遭難は、底びき網の揚網中、対水速力の確認が不十分で、プロペラに自船の網を絡ませたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月24日10時05分
 北海道宗谷岬東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第拾三陽丸
総トン数 179トン
全長 37.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 753キロワット

3 事実の経過
 第拾三陽丸(以下「三陽丸」という。)は、昭和54年4月に進水した沖合底びき網漁業に従事する、可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を備えた船首船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか14人が乗り組み、おおなご漁の目的で、平成15年6月24日02時00分北海道稚内港を発し、宗谷岬東方15海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで、三陽丸は、船橋後方の上甲板が船尾にかけて漁労甲板となっており、その前端部両舷にトロールウインチ、船体中央部にマスト、同部両舷に漁労ウインチ及び船尾ギャロース左右にオッターボードと称する網口開口板の格納装置がそれぞれ配置され、また船尾中央が後方に傾斜したスリップウエイとなっていた。
 三陽丸のおおなご漁の網漁具は、後端から順に、コッドと称する長さ24メートルの魚取部に相当する袋網、長さ41.4メートルの胴網及び長さ15メートルの左右対称な袖網からなる網部と、左右の袖網ごとに長さ80メートルの網ペンネント、長さ45メートルの手綱、オッターボード及び曳綱からなる付属部とで構成されていた。
 揚網は、曳綱を両舷のトロールウインチで巻き取り、オッターボードをギャロースに係止したのち、手綱などの付属部を再度同ウインチで巻き取り、袖網次いで胴網の順に2組の玉子と称するストラップ索を掛け、巻き揚げ索により船橋後壁の左右ポストのブロックを介して漁労ウインチで交互に漁労甲板前部に揚げ、これを数回繰り返してコッド前端部がスリップウエイまで揚がったところで、コッド専用の巻き揚げ索を用いて船体中央部のマスト頂部に取り付けたブロックを介し、コッドを吊って漁労甲板に揚げていた。
 平素、A受審人は、揚網時の操船を担当し、前進推力が過大となって使用中のウインチに過度の負荷を掛けることのないよう、またコッドがおおなごの漁獲量に関わらず海中に沈み込むことから、プロペラに網を巻き込むことのないよう、操舵室の電磁ログや付近海面の泡を見るなどして、対水速力の確認を行い、わずかに前進推力を維持していた。
 05時10分A受審人は、漁場に至って操業を開始し、1回目の投網により、おおなご約10トンを漁獲して船首2.5メートル船尾4.5メートルの喫水となり、09時20分宗谷岬灯台から087度(真方位、以下同じ。)14.5海里の水深60メートルばかりの地点で、2回目の投網を行って南東方に曳網した。
 09時50分A受審人は、宗谷岬灯台から093度15.3海里の地点に達したとき、揚網するため漁労長から操船を引き継ぎ、操舵室中央部に立って手動操舵及びCPPの操作に当たり、船首を南東方に向け、2ノットほどの対地速力とし、操舵室後部のトロールウインチ操縦盤に就いた漁労長が同ウインチで曳綱の巻き取りを始め、同時55分左右のオッターボードをギャロースに係止して手綱など付属部の巻き揚げを続けた。
 10時00分A受審人は、宗谷岬灯台から093.5度15.5海里の地点で、付属部の揚収を終え、網部をスリップウエイの中央から引き揚げるため、針路を海流に乗ずる150度に定め、CPPの翼角示度をほぼ0度とし、2.0ノットの対地速力で進行した。
 このとき、A受審人は、後進推力を生じさせて前進行きあしがなくなると、プロペラに網を巻き込むおそれがあったが、操業許可区域の境界線付近であったことからGPSによる船位確認と甲板上の揚網作業状況を見ることに気を取られ、電磁ログや付近海面の泡を見るなどして、対水速力の確認を十分に行うことなく、翼角示度0度前後の微細なCPPの操作を繰り返しているうち、後進推力を生じさせ、その後前進行きあしがなくなったことに気付かなかった。
 こうして、A受審人は、網部を漁労ウインチで巻き揚げながら続航中、10時05分宗谷岬灯台から094度15.6海里の地点において、三陽丸は、原針路のまま対水速力がわずかに後進となってプロペラに自船の網を絡ませた。
 当時、天候は晴で風力4の東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には約1.3ノットの南東へ流れる海流があった。
 A受審人は、船尾部の異常振動で絡網したことを知り、機関クラッチを脱にしてCPPの回転を止め、事後の措置に当たった。
 その結果、三陽丸は、プロペラに曲損及び同軸に損傷などを生じたほか、網が損壊したが、僚船によって稚内港に引き付けられ、のち損傷部は修理された。 

(原因)
 本件遭難は、宗谷岬東方沖合において、底びき網の揚網中、対水速力の確認が不十分で、後進推力を生じさせて前進行きあしがなくなり、プロペラに自船の網を絡ませたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、宗谷岬東方沖合において、底びき網漁業に従事し、揚網作業を行う場合、前進行きあしがなくなるとプロペラに網を巻き込むおそれがあったから、電磁ログや付近海面の泡を見るなどして、対水速力の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業許可区域の境界線付近であったことからGPSによる船位確認と甲板上の揚網作業状況を見ることに気を取られ、対水速力の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、翼角示度0度前後の微細なCPPの操作を繰り返しているうち、後進推力を生じさせて前進行きあしがなくなったことに気付かず、プロペラに自船の網を絡ませる事態を招き、三陽丸のプロペラに曲損及び同軸に損傷などを生じさせ、網を損壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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