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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年広審第35号
件名

貨物船第八豊栄丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年6月24日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第八豊栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船底外板に凹損

原因
針路選定不適切

裁決主文

 本件乗揚は、針路の選定が適切に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月9日10時00分
 瀬戸内海西部 広島湾エビガヒレ
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八豊栄丸
総トン数 499トン
全長 69.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第八豊栄丸は、砂利運搬に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、平成15年12月8日大阪港を空倉で発航すると愛媛県松山港に至って海砂800立方メートル(約1,280トン)を積載し、更に山砂300トンを積み増す予定で、船首3.00メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、翌9日08時05分同港を発し、広島県東能美島南端部に位置する山砂積出地の秀地に向かった。
 ところで、A受審人は、平成9年4月入社以来船長として主に大阪港を荷揚地とする瀬戸内海での工事用砂の輸送にあたり、それまで松山港や東能美島秀地にも度々寄港したことがあった。そして秀地に向かう際には、広島湾柱島水道を北上し、同水道北方にあたる西方位標識である西五番之砠灯標を時計回りに付け回して目的地に向ける針路を選定して、同灯標南東側に拡延した険礁域を避けていた。したがって本航海においても松山港を発航した時点では、怒和島水道に続いて柱島水道を経て前示険礁域西方を北上し、それまでどおり同灯標を時計回りに付け回して当該目的地に向かう予定であった。
 松山港発航後、A受審人は、単独で当直にあたって怒和島水道を通航した時点で、関係先に連絡していた秀地入港予定時刻の午前10時より遅れる状況であったので、同水道の北方に位置する横島と羽山島との間を経て広島県倉橋島寄りに北上することによって少しでも遅れを取り戻すことを考えたものの、09時29分オコゼ岩灯標から336度(真方位、以下同じ。)0.6海里の地点で、針路をそれまでどおり西五番之砠灯標西方に向かう309度に定め、機関を全速力前進にかけたまま10.0ノットの速力で柱島水道を北上した。
 ところが、09時54分A受審人は、西五番之砠灯標から144度1.3海里の地点に達したとき、同灯標南東側険礁域付近を航行する2隻の漁船を認めて入港時間の遅れを取り戻そうとして右前方に見えていた東能美島南端の目的地に向けようとしたが、折から満潮時でもあり測深機で水深を確かめれば同域を航行することができると思い、海図台上に拡げていた海図第1108号及び第1131号によって針路の選定を適切に行うことなく、針路を同灯標南東方手前からショートカットする348度に転じた。その結果、当時海面下の同険礁域のうち険礁エビガヒレに向首する状況となったが、これに気付かず、操舵輪後方に置いたいすに腰掛けた姿勢で背後の海図台上に置かれた測深機に表示された水深状況を適宜監視しながら手動操舵によって続航中、10時00分少し前測深機上の同水深状況を監視しようとして振り向いたとき、急に浅くなった水深模様を認めたがどうする間もなく、10時00分西五番之砠灯標から125度1,430メートルの地点において、第八豊栄丸は険礁エビガヒレに乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、第八豊栄丸は船底外板に凹損を生じ、積荷を瀬取り引船の来援を得て離礁した。 

(原因)
 本件乗揚は、瀬戸内海西部広島湾において、怒和島水道に続いて柱島水道を北上して同湾東部東能美島南端部に向かう際、針路の選定が不適切で、西方位標識である西五番之砠灯標の南東側にあたる拡延した険礁域のうち険礁エビガヒレに向けて進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、怒和島水道に続いて柱島水道を北上して東能美島南端部に位置する砂積出地に向かう際、入港時間の遅れを取り戻そうとして予定針路を変更してショートカットしようとする場合、それまで西方位標識である西五番之砠灯標西側から時計回りに付け回して同灯標南東側に拡延した険礁域を避けていたことでもあったから、海図台上に拡げていた海図によって針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同灯標南東側険礁域付近を2隻の漁船が航行しており折から満潮時でもあり測深機で水深を確かめれば同域を航行することができると思い、海図によって針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、同険礁域を横切る針路で目的地に向かって進行し、当時水面下の同険礁域のうち険礁エビガヒレへの乗揚を招き、船底外板に凹損を生じさせ、のち積荷を瀬取り引船の来援を得て離礁するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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