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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年神審第6号
件名

引船第八海栄丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年6月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野浩三)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:第八海栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:第八海栄丸甲板員 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底中央部外板に凹損及び推進器翼に曲損

原因
針路選定不適切

裁決主文

 本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月23日11時50分
 岡山県葛島水道東口付近
 
2 船舶の要目
船種船名 引船第八海栄丸
総トン数 19トン
全長 16.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,059キロワット

3 事実の経過
 第八海栄丸は、主に大阪湾及び播磨灘を航行する鋼製引船で、平成15年5月2日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人及び平成14年5月31日交付の同免状を受有するB受審人ほか同免状を受有する1人が乗り組み、曳航作業を終え、帰航する目的で、船首1.0メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成15年7月23日08時30分福山港を発し、尼崎西宮芦屋港に向かった。
 これより先A受審人は、7月22日早朝に東播磨港を発し、台船を引いて福山港に向かう際、備讃瀬戸航路周辺のみをコピーした海図を使用して、備讃瀬戸東航路及び備讃瀬戸北航路を経由して翌23日07時30分頃福山港に達し、台船の引き渡しを終えて前示のとおり出航したもので、同人は3、4年前備讃瀬戸航路を利用して福山港まで航海したことがあった。
 また第八海栄丸は、平素瀬戸内海西部を航行する必要がないことから大縮尺の海図を備えておらず、小縮尺の瀬戸内海東部、大阪湾、紀伊水道四国沖合まで含んだ海図を所有していたが、同海図には小さな浅瀬や、障害物が記載されていなかった。
 A受審人は、今航海においてGPSを利用し、往航時と同様の備讃瀬戸航路に沿って航行する計画とし、発航にあたって、これまで備讃瀬戸及びその周辺の海域の航行経験のないB受審人と甲板員の2人に航海計画を立案させ、針路選定が往航時とほぼ同じであることを知り、その際、針路を大きく変更する場合には報告するよう、また不安があれば報告するよう指示してその計画を了承した。
 A受審人は、福山港発航後、航程短縮のため往航時に航行しなかった黒土瀬戸を抜けて東航し、水島航路から以後、往航時と同様に備讃瀬戸航路に沿って明石海峡に向かう予定で、09時30分水島航路北端部に向けて進行中、B受審人ほか甲板員1人と船橋当直を交替して下橋した。
 当直交替したB受審人は、見張りに当たって船位などを確認し、操船指揮は手動操舵に当たるほかの甲板員が執っていた。
 10時00分水島航路北端部に差し掛かるころA受審人が様子を見るため昇橋したが、問題がないことからすぐに下橋していった。
 こうして第八海栄丸は、水島航路を南下して与島南端の備讃瀬戸東航路の航路外となる鍋島灯台沖合至近を航路に沿って進行した。
 11時08分B受審人は、針路070度で航行中、小槌島灯台から010度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの大槌島南端至近において、前示の甲板員と操船指揮を交替し、機関を全速力前進にかけ、8.2ノットの対地速力で、手動操舵により進行していたとき、突然航程短縮を思い立ち、A受審人から計画に変更があれば報告するよう指示されていたにもかかわらず、その旨報告することなしに、これより北上して宇野港と葛島の間を抜けて、京ノ上臈島と局島間の水道を通過し、小豆島北側海域を航行して明石海峡に向かう針路を選定した際、宇野港沖合の入り組んだ島の間を安全に航行するための適切な大縮尺の海図を備えておらず、京ノ上臈島北端付近から井島、大蛭島間の水道に至る針路上には暗岩が存在することに気付かず、また航程短縮についても詳細な検討ができない状況で、前示の航程短縮が約1海里でほとんど航程短縮にならないことにも気付かず、単に小縮尺の海図を一瞥して航程短縮になるものと考え、これまでの経験から、予定針路上の障害物についての詳細を記した大縮尺の海図がなくてもGPSとレーダーを見て、前方に障害となるものが見えなければ航行できるものと思い、大幅に針路を変更することについて、A受審人に報告することなく、宇野港、葛島間の水道に向けて北上し、往航時に利用した備讃瀬戸航路の針路を選定しなかった。
 11時36分半B受審人は、宇野港口飛洲(とびす)灯台から320度200メートルの地点に達し、針路350度、同速力で続航中、予定した京ノ上臈島、局島間の水道を見通すことができたとき、同水道に反航船を見かけたことから、これを嫌って、障害となる物が見えない安野島、屏風島間、これに続く京ノ上臈島北端、杵島間の水道を通過するつもりで針路を052度に転じて進行した。
 11時48分半少し前B受審人は、京ノ上臈島灯台から318度850メートルの地点において、前示の両水道を無事通過して針路を098度から次の井島、大蛭島間の水道に向けて065度に転じたが、水路調査を行うことができなかったので、前路400メートルのところに暗岩が存在していることに気付かずに続航し、11時50分京ノ上臈島灯台から347度900メートルの地点において、同針路、原速力のまま、暗岩に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船底中央部外板に凹損及び推進器翼に曲損を生じて自力離礁できず、上げ潮を待って引船の援助により離礁し、宇野港に引きつけられ、のち最寄りの造船所で修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、福山港から尼崎西宮芦屋港に向けて備讃瀬戸東航路を航行する際、針路の選定が不適切で、急遽予定針路を変更し、航行変更海域についての適切な海図を所有しておらず、水路調査を行うことができない京ノ上臈島北端付近から井島、大蛭島間の水道に至る暗岩が存在する海域を進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船橋当直者が、針路変更にあたって船長に報告せず、水路調査を行うことのできない海域に針路を変更したことによるものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、福山港から尼崎西宮芦屋港に向けて備讃瀬戸航路を航行中、針路変更する場合、針路選定について船長に報告すべき注意義務があった。しかしながら同人は、突然航程短縮を思いつき、航行経験がなく、水路調査ができない海域でも前方に障害物が見えなければ航行できると思い、針路変更について船長に報告しなかった職務上の過失により、備讃瀬戸航路大槌島沖合から北上して、京ノ上臈島北端沖合から井島、大蛭島間の水道に向けて進行して暗岩への乗り揚げを招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。





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