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平成15年広審第126号
件名

プレジャーボート難破船5号乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年4月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:難破船5号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板に破口を伴う擦過傷
同乗のサークル員が全治2週間を要する全身打撲、頚椎及び腰椎の捻挫等の負傷

原因
見張り不十分

裁決主文

 本件乗揚は、前路に対する見張りが十分に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月12日14時40分
 香川県庵治町大鼓鼻沖
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート難破船5号
総トン数 0.2トン
全長 3.34メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 95.6キロワット

3 事実の経過
 難破船5号は、最大搭載人員3名で最高時速83.8キロメートルのB社製の水上オートバイFX140型と称する船体中央部に操縦ハンドル及び後部にシートを備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人(平成14年8月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、C会のサークル参加者Dを同乗させ、遊走の目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、平成15年7月12日14時37分香川県庵治町大鼓鼻オートキャンプ場管理棟前を発し、約200メートル沖合に向かった。
 ところで、A受審人は、前年に続き今年同月12日から2日間の予定で開催された大鼓鼻オートキャンプ場での水上オートバイ等の同好会のC会サークルに参加した。開催初日にあたる当日午前中に知人から難破船5号を借り、会場で知り合った参加グループのDサークル員を誘って同艇で遊走した。水上オートバイの操縦経験は昨年参加に続き今回の2度だけで未だ操縦には不慣れであったが、午前中の遊走後は知り合いとなった同人のサークルグループとバーベキューを囲んで昼食を共に取ったのち、午後再び同人を同乗させて遊走することになった。
 一方、会場に指定された遊走水域は、大鼓鼻南西方約450メートルに位置するオートキャンプ場管理棟の東方沖にあたり、同鼻南西方約300メートル付近に干出岩を含む険礁域が拡延して、同水域北方にあたる海辺から約100メートル範囲を遊走することができないところであった。そのため操縦にあたっては、同域に進入することのないよう、目印となる同干出岩等に注意して前路の見張りを十分に行うことが大切であった。
 ところが、A受審人は、午後の遊走にあたってDサークル員を再度同乗させる際に、自らが操縦不慣れでしかも高速力で疾走することにより視野が著しく狭められる状況にもかかわらず、同人を後部席に座らせるなど前方の視野を確保して前路の見張りを十分に行うことなく、操縦させて欲しいとの要望を受けて操縦の臨場感を体験させようと思い、同人を前部席に座らせた。その結果、同人の肩越しから見張ることになり、前路の見張りに一部死角を生じる状況となった。
 こうして、A受審人は、同乗者共々救命胴衣を着用して前部席に座った同乗者を背後から抱く体勢で後部席から腰掛けた姿勢で操縦ハンドルを握り、大鼓鼻オートキャンプ場管理棟約200メートル沖合に至って遊走を始めた。東西方向約100メートル南北方向約300メートルの長楕円形の範囲を反時計回りに2周したとき、管理棟から戻れの合図を受けてもう1周しながら戻ることにした。14時39分35秒竜王山239メートル三角点(以下、単に「三角点」という。)から141度(真方位、以下同じ。)1,500メートルの地点で、針路を015度に定め、時速60キロメートルの速力で北上を始めた。同時39分48秒三角点から134度1,400メートルの地点で、管理棟に向かうつもりで時速約40キロメートルの速力に減じ徐々に左転して船首が278度に向いたとき、海面上に約30センチメートルほど干出した前示干出岩等に向かって接近する状況となったものの、同乗者の左肩越しから見張っていたので同人の頭部で船首方から右前方の視野が妨げられ、そのうえ不慣れから操縦に気を取られ、同干出岩に気付かないまま続航した。一方、前部席のDサークル員は、前路約30メートルのところに2個の前示干出岩を認めたものの、操縦中のA受審人がすでに同干出岩に気付き間もなく避けるものと思い、直ぐそのことを告げなかったところ、同干出岩まで10メートルに迫るに及んで大声で叫んだ。
 14時40分わずか前A受審人は、同乗者の叫び声で目前に迫った前示干出岩に気付いたもののどうする間もなく、14時40分三角点から135度1,290メートルの地点において、難破船5号は、同じ針路速力のまま、船首部から同干出岩に乗り揚げ激突した。
 当時、天候は曇で風力1の西寄りの風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船底外板に破口を伴う擦過傷を生じ、Dサークル員は全治2週間を要する全身打撲、頚椎及び腰椎の捻挫等の傷害を負った。 

(原因)
 本件乗揚は、香川県庵治町大鼓鼻オートキャンプ場で開催されたC会のサークル活動において、水上オートバイに相乗りして高速力で遊走する際、前路の見張りが不十分で、干出岩に向かって進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、大鼓鼻オートキャンプ場でC会のサークルに参加した際、水上オートバイに相乗りして高速力で遊走する場合、操縦不慣れのうえ高速力で疾走すると視野が著しく狭められた状況でもあったから、同乗者を操縦者の後部に座らせ前方の視野を確保するなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同乗者からの操縦要望に応えて操縦の臨場感を体験させようと思い、前方の視野を確保するなどして前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同乗者を前部席に座らせ見張りが同乗者の肩越しとなって一部死角を生じ、同乗者が前路の干出岩を認めながら自らは気付き得ず、これを避けないまま進行して、同干出岩に乗り揚げ激突し、船底外板に破口を伴う擦過傷を生じさせ、同乗者に全身打撲、頚椎及び腰椎捻挫等全治2週間の傷害を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。





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