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平成15年函審第46号
件名

漁船第二十五忠誠丸浸水事件

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成16年3月26日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、古川隆一、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第二十五忠誠丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関及び電気機器等を濡損、のち廃船処理

原因
船尾管封水装置のパッキン押えの取扱いが不適切であったこと、船内を無人として離船する際、同管からの漏水状況の確認が不十分であったこと

主文

 本件浸水は、岸壁を移動する際、船尾管封水装置のパッキン押えの取扱いが不適切であったこと及び船内を無人として離船する際、同管からの漏水状況の確認が不十分であったことにより、係留中、海水が船尾管から機関室に浸入したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月9日03時50分
 北海道羅臼港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十五忠誠丸
総トン数 19トン
登録長 17.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット

3 事実の経過
 第二十五忠誠丸(以下「忠誠丸」という。)は、昭和56年8月に進水した、刺網漁業及びいか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で、径120ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ2,776ミリのステンレス鋼製プロペラ軸を有していた。
 プロペラ軸は、船尾管内の船首側と船尾側とに装着された支面材で支えられ、同軸と支面材との隙間が1.2ミリあって、海水で潤滑されるようになっており、支面材として厚さ15.0ミリのリグナムバイタと称する木材が使用されていた。
 船尾管の封水装置は、グランドパッキン方式で、一辺が15.9ミリの正方形の断面を有するグランドパッキン(以下「パッキン」という。)を5本装備し、パッキン押えの締め込み加減で海水の漏水量を調整する構造となっており、漏れた海水が機関室後部のビルジだめに溜まるようになっていた。また、パッキン押えの取扱いについては、漏水量過多で機関室ビルジが異状に増加することや漏水量過少でパッキンが焼けることのないよう、そして、長期係留時には完全に止水させ、運航開始前に再び漏水させるよう、締め込み加減を調整する必要があった。
 A受審人は、昭和54年8月一級小型船舶操縦士免許を取得し、本船の新造時から船長として乗り組み、操船と機関の保守運転管理に当たり、毎年1月から3月までを刺網漁業に、7月から12月までをいか一本つり漁業にそれぞれ従事し、船尾管の封水装置については、漏水が糸を引くように連続状態になるとパッキン押えを増し締めして、滴下する程度に調整していた。
 A受審人は、平成13年4月から6月にかけての休漁期間に、船尾管のパッキンを4本新替えしたうえ、いか一本つり漁業に従事していたところ、同年12月主機シリンダブロックから冷却水が漏洩していることが判明し、修理に時間を要することから、代船を手配してその後の操業を行うこととなり、同月下旬忠誠丸の船尾管のパッキン押えを締め込んで漏水を完全に止めたうえ、羅臼港第1南防波堤に係留した。
 翌14年6月7日A受審人は、修理のため上架場所に近い岸壁に移動する目的で、忠誠丸に単独で乗り組み、船尾管からの水漏れのないことと機関室のビルジ量が増えていないことを確かめたが、機関を短時間運転するだけなので大丈夫と思い、パッキン押えを緩めることなく、10時00分羅臼港第1南防波堤を発し、約4ノットの低速力で進行した。
 忠誠丸は、折から支面材が衰耗していたこともあって、プロペラ軸がわずかに振れ回り、船尾管のパッキンも焼損して、船尾付近でゴトゴトという異音を発するとともに、海水が船尾管から浸入し始めた。
 A受審人は、異音がプロペラに異物が絡んだことによるものと考え、そのまま続航し、10時15分羅臼港第3西防波堤灯台から真方位255度150メートルの地点の岸壁に係留したが、パッキン押えを締め込んだまま運転していたので船尾管からの水漏れはないものと思い、同管からの漏水状況を十分に確認することなく離船したため、海水が船尾管から浸入していることに気付かなかった。
 こうして、忠誠丸は、無人の状態で係留中、海水が船尾管から機関室に浸入し続け、やがて同室が浸水して、翌々9日03時50分前示係留地点において、船尾部が水没しているのを僚船の乗組員が発見した。
 当時、天候は雨で風力4の北東風が吹き、港内は穏やかであった。
 浸水の結果、忠誠丸は、機関及び電気機器等を濡損し、のち廃船処理された。 

(原因)
 本件浸水は、北海道羅臼港において、岸壁を移動する際、船尾管封水装置のパッキン押えの取扱いが不適切であったこと及び船内を無人として離船する際、同管からの漏水状況の確認が不十分であったことにより、パッキン押えが緩められないまま運転されてパッキンが焼損し、係留中、海水が船尾管から機関室に浸入したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北海道羅臼港において、上架場所に近い岸壁に移動後、船内を無人として離船する場合、海水が船尾管から漏れているのを見落とすことのないよう、船尾管からの漏水状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船尾管封水装置のパッキン押えを締め込んだまま運転していたので同管からの水漏れはないものと思い、同管からの漏水状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、パッキン押えが緩められないまま運転されてパッキンが焼損し、係留中、海水が船尾管から浸入して機関室浸水を招き、機関及び電気機器等を濡損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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