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平成15年神審第92号
件名

漁船第八龍潮丸遊泳者死亡事件
二審請求者〔補佐人C〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年3月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(相田尚武、田辺行夫、小金沢重充)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第八龍潮丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八龍潮丸・・・損傷ない
遊泳者・・・・・右上腕骨開放性骨折等を負い、外傷性ショックにより死亡

原因
見張り不十分、操船不適切、遊泳者が自己の存在を示す措置をとらなかったこと

主文

 本件遊泳者死亡は、第八龍潮丸が、見張り不十分で、遊泳者を避けなかったことと、遊泳者が、自己の存在を示す措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月29日13時19分
 石川県加賀市橋立町泉の浜沿岸
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八龍潮丸
総トン数 0.6トン
全長 6.12メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 22キロワット

3 事実の経過
 第八龍潮丸(以下「龍潮丸」という。)は、採介藻漁業に従事する船外機付和船型FRP製漁船で、平成11年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、さざえ及びかき採取の目的で、船首0.04メートル船尾0.08メートルの喫水、及び船外機下端まで水面下約0.5メートルの深さをもって、同15年7月29日08時30分石川県橋立漁港を発し、同漁港南西方の漁場に至り、素もぐりによりさざえ及びかきなど約70キログラムを獲て、13時過ぎ同県加賀市片野町沖合の漁場を発進し、翌日のもずく漁業の下見を行うため、同市橋立町泉の浜前面の漁場に向かった。
 ところで、泉の浜は、橋立町加佐ノ岬東側海岸に連なるU字形の湾奥に位置し、東西長さ350メートル、南北幅5ないし6メートルの北面する砂浜で、その前面海域には、さざえやもずくなどの魚介類や藻類について、A受審人所属の地元漁業協同組合などによる共同漁業権が設定されていた。
 そして、同組合所属員相互間においては、共同漁業権設定海域で潜水漁業を行う際には、潜水者と航行船との事故防止を図るため、潜水者の存在が航行船から明確に視認できるよう、付近にA旗を掲げた船を停留させたり、自動車のタイヤチューブの浮き輪を浮かべるなどの措置をとることを申し合わせていた。
 一方、泉の浜は、加賀市内に4箇所ある海水浴場のように浜茶屋が設置されたり遊泳監視員がいることはなかったが、夏季には海水浴客の訪れるところであった。
 A受審人は、発進時、船尾右舷側の物入れのさぶたに腰掛け、左手で船外機のスロットルグリップを握り、北上後、北東方向の加佐ノ岬沖合に向首して進行した。
 A受審人は、13時17分半わずか過ぎ加佐岬灯台から325度(真方位、以下同じ。)270メートルの地点に至り、針路を泉の浜の海岸線間近のもずく漁場に向く111度に定め、スロットルを全開時の2分の1ないし7分目として14.0ノットの対地速力で続航した。
 13時18分少し前A受審人は、加佐岬灯台から334度230メートルの地点に達したころ、右舷船首5度500メートルばかりの泉の浜中央付近に4ないし5人の海水浴客がいることを認め、間もなく同浜西寄りに十数人の海水浴客を視認し、船外機舵柄を適宜操作して船首を少し振り、船首死角を補う見張りを行いながら進行した。
 A受審人は、13時18分半わずか過ぎ橋立港沖の島防波堤西灯台から232度1,360メートルの地点に達したとき、前方180メートル付近で遊泳するBが、海面上に頭部と身体の一部を現わし、また、その付近の波立ち模様からその存在が分かる状況であったが、周囲を一見して遊泳者はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、Bを避けないまま続航した。
 こうして、龍潮丸は、前路で潜水を始めたBに向首したまま進行中、13時19分橋立港沖の島防波堤西灯台から224度1,280メートルの地点において、原針路、原速力のまま、船外機下端のスケグ及びプロペラが同遊泳者に接触した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、湾内は穏やかで、視界は良好であった。
 A受審人は、船外機下端が跳ね上がったことから、驚いて後方を振り返ったところ、浮上してきたBを初めて認め、急いで同人を収容して橋立漁港へ帰航し、救急車で搬送するなどの事後の措置にあたった。
 また、Bは、愛知県一宮市に在住する調理師で、海水浴を行う目的で、家族3人を自動車に乗せ、7月29日08時自宅を出発し、11時半ごろ泉の浜に到着して、青地に黄、赤、黒の模様入りの海水パンツに着替え、水中眼鏡、シュノーケル及び黄色の足ひれを装着して耳栓は付けず、小魚を採取するつもりでゴム付きのやすを持ち、13時ごろから遊泳を始めた。
 そして、Bは、海岸から40メートル、水深2メートルの前示事故発生地点付近において、浮き輪を浮かべるなどの潜水時の自己の存在を示す措置をとらずに浮上と潜水を繰り返していたとき、前示のとおり、右側上腕部及び胸部に龍潮丸の船外機下端が接触した。
 その結果、龍潮丸は、損傷がなかったが、Bは、右上腕骨開放性骨折、多発肋骨骨折及び両側外傷性血気胸を負い、外傷性ショックにより死亡した。 

(原因)
 本件遊泳者死亡は、石川県加賀市橋立町泉の浜沿岸において、漁場に向け航行中の龍潮丸が、前方の見張り不十分で、前路の遊泳者を避けなかったことと、遊泳者が、自己の存在を示す措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、石川県加賀市橋立町泉の浜沿岸において、同町加佐ノ岬北方沖合から海岸線間近のもずく漁場に向けて航行する場合、泉の浜に海水浴客がいることを認め、その前面海域に遊泳者のいることが予想されたから、前路の遊泳者を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、周囲を一見して遊泳者はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路のBの存在に気付かず、同人を避けないまま進行し、同人と船外機下端が接触する事態を招き、右上腕骨骨折及び両側外傷性血気胸などを負わせ、外傷性ショックにより死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止すべきところ、国土交通大臣の指定する再教育講習を受講したことに徴し、同法第6条の規定を適用して戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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