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平成15年長審第46号
件名

漁船明宝丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年1月8日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(寺戸和夫、原 清澄、清重隆彦)

理事官
花原敏朗

受審人
A 職名:明宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
乗組員が第5及び第11胸椎を骨折、入院3箇月及び長期の通院加療を要する重傷

原因
デリック装置の点検不適切

主文

 本件乗組員負傷は、デリック装置の点検が不適切で、グミ捕獲駆除作業の揚網中、デリックブームの接続支持用金具が破損し、同ブームが落下したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月16日12時35分
 佐賀県小川島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船明宝丸
総トン数 3.91トン
登録長 9.50メートル
機関の種類 4サイクル3シリンダ・ディーゼル機関
漁船法馬力数 15

3 事実の経過
 明宝丸は、昭和54年1月に進水したFRP製漁船で、四級小型船舶操縦士免許(昭和51年4月取得)を有するA受審人と同人の妻B(以下「B乗組員」という。)が乗り組み、佐賀県北部の沿岸海域で底引き網漁に従事しており、操舵室前方の前部甲板上に、デリックポスト及びデリックブーム(以下それぞれ「ポスト」「ブーム」という。)各1本のデリック装置を備え、主機から電磁クラッチ、ベルト、減速機及び駆動軸を順次介して回転するワーピングドラムが、操舵室下方の機関室囲壁両舷側に設けられていた。
 デリック装置のポストは、外径60.5ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ3.35メートルで、甲板上のポスト受けに立てられ、機関室囲壁の船首側壁面中央に取り付けたポスト支持台で支えられ、その上端から鋼製のガイ3本を同囲壁の両舷側壁面にとって固定され、一方ブームは、外径50.8ミリ長さ3.58メートルで、外周面に厚さ5ミリのステンレスアングル材が補強板として張り付けられ、重さは約50キログラムで、上端からチェーン1本をポストの上端に、鋼製のガイ2本を船体船首部にそれぞれとって姿勢を保持し、更にその上端には滑車を介して揚網などに使用されるロープが巻かれ、また、ポストとブームは、接続支持用金具によって互いの接続及びブームの支えが維持されていた。
 接続支持用金具は、厚さ9ミリで長さ80ミリ幅50ミリの2枚の脚板に、内径21ミリの円筒1本を溶接したもので、脚間11センチメートル(以下「センチ」という。)の「コ」の字形をした上下脚部を、ポストの下端から63センチ上方の位置に溶接付けし、垂直となった同円筒に、ブーム下端の直径19ミリ長さ20センチの円柱部分を挿入して、前示の接続及び支持の機能を果たすものであった。
 そして、ポストとブームはどちらも厚さ4ミリの、接続支持用金具の円筒部は厚さ3ミリの、いずれもステンレス鋼管によって、また、同金具の脚部はステンレス鋼板によってそれぞれ製造されており、このデリック装置一式は、本船建造時にA受審人が知人から譲り受けたもので、うち同金具については、その後長期にわたって繰り返し大きな荷重で作業が行われ、その内部に微細な亀裂や腐食を生じ、それらが徐々に進行して材料表面に発錆(はっせい)の兆候があったことから、製造後20数年の経過を考慮すれば、短い周期で定期的に業者に依頼するなどして、同金具を含むデリック装置の構成部品を詳細に点検する必要があったが、同受審人は、外見上特に異常な点が見受けられないので大丈夫と思い、点検を適切に行わないまま同装置の運用を続けていた。なお、デリック装置には、引き揚げる荷重が著しく大きいときにも、電磁クラッチを滑らすなどの安全装置は付いていなかった。
 ところで、佐賀県北部沿岸の海域においては、平成9年ころから、毎年12月から翌年3月にかけての海水温度が低下する時期に、ナマコの一種で食用に適さず本来の底引き網漁に有害な、グミと呼ばれる棘皮動物が原因不明のまま異常発生するようになり、このため県や漁業協同組合連合会は、グミが異常発生する都度、底引き網漁に従事する漁船60隻あまりを集め、期間及び時刻を定めてグミの捕獲駆除作業を行っていたところ、平成15年においても、4月15日から7日間、連日朝7時から夕刻17時にかけて同作業を実施することとなった。
 グミの捕獲駆除作業は、直径2センチの鉄棒で作製された、縦35センチ横1.5メートル奥行8センチの直方体の鉄枠(以下「ケタ」という。)に、通常の底引き網漁に使用する網より網目がやや小さく、深さが3.0ないし3.5メートルの袋網を取り付けたグミ捕獲専用の網を用い、ほぼ1時間かけて底引きしたのち、グミの入った網を船上に引き揚げ、各船が捕獲したグミを運搬船に移し替え、運搬船によって外洋に搬送後、深海に海中投棄するもので、作業に用いるケタ及び袋網の重量は、それぞれ約15キログラムで、グミが大量に入った網を引き揚げるときには、ケタと網にグミの重量が加わり、ポストやブーム及び接続支持用金具に大きな荷重が掛かる状況であった。
 こうして明宝丸は、A受審人が病気となって平成14年11月から操業を休んでいたところ、翌15年4月15日、C組合(以下「C」という。)D支所に所属する僚船20隻及び他支所所属の漁船とともにグミの捕獲駆除作業に参加し、翌16日06時30分、前日に続いてA受審人とB乗組員が乗り組み、佐賀県神集島漁港を発して同県小川島東方沖合に向かい、06時50分作業海域に至り、07時00分ブームを左舷寄りに固定して同作業を開始し、網の底引き、揚網、船内へのグミ取込みなど一連の作業工程を繰り返しながら、12時30分午前の作業終了を告げる無線連絡を受けた。
 このとき明宝丸は、A受審人が操舵室前方左舷側で船外に揚がってくる網を監視しながら、手をグルグル回してそのまま揚網を続ける合図を送り、同合図を受けたB乗組員が、右舷側ワーピングドラムに吊上げロープを巻いて同ドラムの回転及び停止の操作を行っていたところ、12時35分呼子平瀬灯台から真方位073度1.4海里の地点において、揚網をいったん停止して網を甲板上に降ろそうとしたとき、ブームの接続支持用金具が、捕獲した大量のグミを含んで総重量100キログラム以上となった網の荷重に耐えられず、同金具の円筒下側溶接部が破損し、同時に上下脚部のポスト溶接取付直近部分が破断し、ポストが右舷側に曲損すると同時に、ブームが、ポストに宙吊り状態となって下端の支えを失い、甲板上に落下してB乗組員の背中を直撃した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく海上は穏やかであった。
 その結果、B乗組員は、第5及び第11胸椎を骨折し、最寄りの病院に搬送されたが、入院3箇月及び長期の通院加療を要する重傷を負った。
 明宝丸が所属するCは、本件後直ちに緊急の会議を開催し、デリック装置の点検を詳細に行うこと、及び網を引き揚げる際には、過重な網を無理に引き揚げないことなど、グミ捕獲駆除作業の留意点について、関係者への周知徹底を図った。 

(原因)
 本件乗組員負傷は、製造後20数年以上経過したデリック装置を運用する際、同装置の点検が適切に行われず、経年劣化によって生じたデリックブーム接続支持用金具の内部の小さな亀裂や腐食が進行し、グミの駆除作業で揚網中、同金具が破損してデリックブームが甲板上に落下したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、製造後20数年以上を経過したデリック装置を運用する場合、デリックポストやデリックブームの破損など、その運用に関わる重大な危険を未然に防止できるよう、短い周期で定期的に業者に依頼するなどして、同装置の点検を適切に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、外見上特に異常な点が見受けられなかったことから大丈夫と思い、点検を適切に行わなかった職務上の過失により、デリックポストに取り付けられたデリックブーム接続支持用金具が、長期にわたる経年劣化によって内部に微細な亀裂や腐食を生じ、それらが時間の経過とともに進行していることに気付かないまま同装置の運用を続け、ナマコの一種で漁業に有害なグミを捕獲駆除する作業に従事し、底引き網で大量のグミを揚網中、同金具が大きな荷重に耐えられず、溶接部及びその直近で破損する事態を招き、甲板上で作業に携っていた乗組員が、宙吊り状態で下端が甲板上に落下した同ブームの直撃を背中に受け、第5及び第11胸椎骨折の重傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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