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平成15年横審第85号
件名

漁船日吉丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年3月16日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、大本直宏、西山烝一)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:日吉丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機シリンダヘッドが全て燃焼室面で変形、2、3、6及び7番シリンダの排気弁がこう着、3番吸気弁の曲がりとプッシュロッドに欠損

原因
主機冷却水系統の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機冷却水系統の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月21日23時05分
 千葉県銚子港沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船日吉丸
総トン数 306トン
全長 60.06メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,147キロワット
回転数 毎分610

3 事実の経過
 日吉丸は、平成9年3月に進水した、大中型まき網漁業に運搬船として従事する鋼製漁船で、主機としてB社が製造した、8MG28HX型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、冷却方式を間接冷却式とし、直列シリンダ配置のシリンダブロックにシリンダライナが挿入され、同ライナの上にシリンダヘッドが載せられた構造で、クラッチ付減速歯車を介して可変ピッチプロペラを駆動しており、定格出力が2,206キロワット同回転数毎分750(以下、回転数は毎分のものとする。)の原機に出力制限装置を付加し、出力1,147キロワット610回転として登録されたもので、就航後、出力制限装置が外されて運転されていた。
 主機の冷却水系統は、冷却清水ポンプ(以下「冷却水ポンプ」という。)により吸引加圧された清水が、シリンダライナ周囲、シリンダヘッドを冷却したのち出口集合管で合流し、給気熱交換器、空気分離器を経て清水冷却器に至り、再び冷却水ポンプ吸引管に還流する清水系統と、冷却海水ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)で吸引された海水が清水冷却器で熱交換して船外に排出される系統とで構成され、機関室上段に設置された冷却水膨張タンクと、空気分離器及び冷却水ポンプ吸引管との間にそれぞれ導通管が配管され、清水系統の空気抜き及び水量の過不足調節がされるようになっていた。
 冷却水ポンプ及び海水ポンプは、いずれも電動機で駆動され、予備潤滑油ポンプとともに、機関室下段にスイッチ箱が並べられ、同箱に始動及び停止ボタンと運転表示の緑ランプが取り付けられていた。
 主機の冷却水は、運転中、シリンダヘッド出口で摂氏80ないし90度の範囲になるよう清水冷却器で温度調節され、同出口温度が摂氏95度以上に上昇すると温度スイッチが入り、冷却水温度上昇の警報が機関室の警報盤と船橋の機関操縦盤でそれぞれ作動し、同時に、上甲板の魚倉前と機関長室にも延長警報が鳴るよう設定されていた。
 日吉丸は、2ないし3週間を1航海とする船団の操業期間中、魚群探索を行うほか、漁獲を水揚げするために3ないし7日毎に操業海域と市場との間で往復航海を行い、1年間の運転時間が約4,500時間ほどで、平成14年5月には、例年どおり検査入渠し、主機のピストン抜き整備が行われていた。
 ところで、日吉丸は、航海中には、機関長、一等機関士及び機関員の3名が4時間交替で機関室当直に当たり、甲板上で魚倉作業が行われたり、出入港の間に警報が作動したときに、船橋から機関部に連絡される外は、警報についてその都度連絡が行われる態勢をとっていなかった。
 A受審人は、日吉丸の建造時から艤装(ぎそう)に従事し、就航後も機関長として乗り組んでおり、航海中、午前及び午後とも8時から12時までの時間帯の機関室当直に当たっていた。
 日吉丸は、平成14年6月20日夜から時化(しけ)を避けて千葉県銚子港に入港していたところ、天候の回復を受けて翌21日22時に出港することとなり、乗組員が出港準備に備えていた中、船団の漁労長から各船に出港する旨を連絡され、日吉丸でも出港準備の合図のベルが鳴らされた。
 A受審人は、機関室に入り、潤滑油予備ポンプ、冷却水ポンプ及び海水ポンプの始動ボタンを順に押したが、冷却水ポンプの始動ボタンの押し込みが足りなかったものか、同ポンプが始動しなかったことに気付かないまま主機の空気槽出口弁を開き、21時55分ごろ主機を始動してアイドリングの400回転としたが、同ポンプが始動したものと思い、その後、圧力計やポンプ電流計を見るなど、冷却水系統を点検することなく、機関室を離れて船首での離岸作業に就いた。
 日吉丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、船首3.0メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、操業の目的で、同日22時00分銚子港を発し、伊豆諸島東方沖合の漁場に向かい、同時05分ごろ港外に出て出港部署が解除され、主機が増速されるとともに翼角が順次上げられた。
 A受審人は、船首での作業を終えていったん食堂に入り、手と顔を洗う順番を待つうち、テレビに見入ってしまい、機関室を無人としたまま、なおも主機の冷却水系統を点検しなかった。
 こうして、日吉丸は、冷却水ポンプが停止したまま主機を550回転、プロペラ翼角20度にかけて運転が続けられたところ、23時00分ごろシリンダ周囲から上部への冷却水経路の自然循環でシリンダヘッド出口の冷却水温度が警報点に達して警報が作動したが、船橋で当直中の通信長が警報を確認して停止ボタンを押したものの、機関室でも当直していることになっていたので連絡が行われず、主機の運転が継続され、23時05分犬吠埼灯台から真方位166度13海里の地点において、主機シリンダヘッドが過熱焼損し、白煙を生じた。
 当時、天候は曇で風力5の北東風が吹いていた。
 A受審人は、食堂で異様な臭いに気付き、直ちに機関室に入ってみると室内に白煙が立ちこめていたので、主機ハンドルを下げて主機を停止した。その後、冷却水系統を点検するうち、ようやく冷却水ポンプが停止していたことに気付き、同ポンプを始動するとシリンダヘッドから冷却水が漏れるなど、主要部の過熱状況が著しいので、運転不能と判断し、同旨を船長に伝えた。
 日吉丸は、僚船にえい航されて銚子港に引きつけられ、精査の結果、主機シリンダヘッドが全て燃焼室面で変形し、2、3、6及び7番シリンダの排気弁がこう着してピストンに叩かれ、3番吸気弁の曲がりとプッシュロッドに欠損を生じていることがわかり、のち損傷部が取り替えられた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、始動後及び出港後の冷却水系統の点検が不十分で、冷却水ポンプが運転されないまま主機が運転されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、出港に備えて冷却水ポンプの始動操作を行ったうえで、主機を始動した場合、冷却が阻害されないよう、冷却水圧力計や同ポンプの電流計を見るなど、冷却水系統を点検すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、冷却水ポンプが始動したものと思い、圧力計やポンプ電流計を見るなど、冷却水系統の点検を行わなかった職務上の過失により、同ポンプが始動されていないことに気付かないまま甲板作業に上がり、出港後も機関室を無人として運転を続け、主機の冷却が阻害される事態を招き、シリンダヘッドを過熱させて燃焼室面で変形させ、こう着した排気弁がピストンに叩かれて曲損するなど、主機を運転不能に至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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