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平成15年仙審第40号
件名

漁船第三十五若竹丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年2月26日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎、吉澤和彦、勝又三郎)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第三十五若竹丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機と逆転減速機間の弾性継手の防振ゴムが破断

原因
主機の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、弾性継手に使用されている防振ゴムの定期的な点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月9日21時00分
 日本海 大和堆南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五若竹丸
総トン数 131トン
全長 35.22メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 809キロワット
回転数 毎分750

3 事実の経過
 第三十五若竹丸(以下「若竹丸」という。)は、昭和57年4月に進水し、平成10年10月に購入した現船舶所有者がいか釣り漁も行えるよう改装して以来、さけ・ます流し網漁業及びいか1本釣り漁業に従事していた鋼製漁船で、B社製の6PL1M-235LFS型と呼称するディーゼル機関を主機として装備し、逆転減速機を介して主機の回転をプロペラに伝達するようになっており、主機と逆転減速機が弾性継手で連結されていた。
 弾性継手は、逆転減速機の入力軸端フランジに固定された外径105センチメートル(以下「センチ」という。)のステンレス製円板(以下「慣性円板」という。)と、最大径約15センチの鼓形をした防振ゴム及びドーナツ型をした防振ゴム取付板等で構成されていて、慣性円板に設けられた10個の穴に、防振ゴム取付板に取り付けた10個の防振ゴムをそれぞれ挿入し、フライホィール側から各防振ゴム端の金属製金具にボルトをねじ込んで固定する構造になっており、フライホィール及び慣性円板等の回転部分がカバーで覆われていた。
 ところで、防振ゴムの保守・整備に関しては、材質が天然ゴムであることから、8,000ないし14,000時間使用または2年ごとに表面の状態を点検してクリープ量(歪量)を計測するよう取扱説明書に記載されており、逆転減速機を開放しなくても抜き出して点検やクリープ量の計測ができるようになっていたほか、カバーを取り外せば容易に目視点検が可能であった。
 若竹丸は、現船舶所有者に購入されて以来、毎年3月に15日間ほど上架して船体及び機関の整備を行い、北海道函館港を基地として、4月から6月までは日本海でさけ・ます流し網漁に、7月中旬から翌年2月までは日本海及び太平洋でいか1本釣り漁にそれぞれ従事していた。
 A受審人は、若竹丸の購入時から機関長として乗り組んでおり、弾性継手については、機関員として乗船していた他船の定期検査時に若竹丸と同型の防振ゴムの整備を何回も経験したことがあったので、防振ゴムの材質が天然ゴムで寿命に限度があること、及び防振ゴムが全て破断すると航行不能になることを認識していた。
 若竹丸は、平成6年の定期検査工事で防振ゴム全数が取り替えられ、同10年12月の定期検査工事で防振ゴムに異常がないことが確認されていたものの、主機の前後進切替え操作を頻繁に行う操業を繰り返しながら年間3,200時間ほど主機を運転して操業に従事しているうち、いつしか、いくつかの防振ゴムに亀裂が生じ、同亀裂が次第に進行する状況となっていた。
 ところが、A受審人は、防振ゴムが損傷することは極めて稀であると聞いていたことから、防振ゴムに関しては前示の認識があったのに、逆転減速機を開放整備する定期検査ごとに点検していれば問題はないだろうと思い、毎年3月の機器整備時に自ら防振ゴムの目視点検を行わなかったばかりか、同14年3月の第1種中間検査工事の際にも防振ゴムを抜き出して点検するよう整備業者に指示しなかったので、防振ゴムに亀裂が生じていることに気付かなかった。
 こうして、若竹丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、さけ・ます流し網漁の目的で、平成15年4月4日12時00分函館港を発し、翌々6日午後日本海大和堆近くの漁場に至って操業を開始し、その後も漁場を移動しながら主機を頻繁に操作して操業を行っていたところ、防振ゴムの亀裂が更に進行し、超えて9日20時30分ころから開始した揚網作業中、主機を中立から前進にかけた瞬間、21時00分、北緯38度46分東経135度13分の地点において、全ての防振ゴムが破断し、プロペラが停止して航行不能となった。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹いていた。
 A受審人は、船内での修理は不可能であると判断し、事態を船長に報告した。
 若竹丸は、来援した海上保安部の巡視船に曳航されて富山県金沢港に入港し、のち防振ゴムを取り替えるなどの修理を行った。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機と逆転減速機間の弾性継手の保守管理に当たり、防振ゴムの定期的な点検が不十分で、防振ゴムに生じた亀裂が進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機と逆転減速機間の弾性継手の保守管理に当たる場合、防振ゴムが天然ゴムで寿命に限度があること及び破断すると航行不能になることを認識していたのであるから、防振ゴムを定期的に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、防振ゴムが損傷することは極めて稀であると聞いていたので、逆転減速機を開放整備する定期検査ごとに点検していれば問題はないだろうと思い、毎年3月の機器整備時に自ら目視点検を行わなかったばかりか、第1種中間検査工事時にも整備業者に防振ゴムの点検を指示しないなど、防振ゴムを定期的に点検しなかった職務上の過失により、いくつかの防振ゴムに亀裂が生じていることに気付かぬまま主機の運転を続け、同亀裂が進行して防振ゴム全数が破断する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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