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平成15年函審第40号
件名

漁船第十六喜美丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年2月13日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第十六喜美丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機ピストン、シリンダライナ及び連接棒各3個、クランク軸とシリンダブロックなどを焼損

原因
主機潤滑油の油量管理不十分

主文

 本件機関損傷は、主機潤滑油の油量管理が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月30日18時15分
 北海道羅臼港沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十六喜美丸
総トン数 19トン
全長 21.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 481キロワット
回転数 毎分1,940

3 事実の経過
 第十六喜美丸(以下「喜美丸」という。)は、平成元年10月に進水した刺網漁業及びいか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてB社が製造したEM679A-A型と呼称するディーゼル機関を装備し、シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
 主機の潤滑油系統は、直結潤滑油ポンプによりクランク室底部の容量120リットルの油だめから吸引、加圧された潤滑油が、油冷却器及び油こし器を順に経て潤滑油主管に至り、クランク軸、カム軸、過給機及び燃料噴射ポンプなどの各軸受のほか、ピストン冷却用ノズルやシリンダヘッドの動弁装置に導かれていた。また、潤滑油主管の圧力が0.5キログラム毎平方センチメートルに低下すると潤滑油圧力低下警報装置が作動するようになっていた。
 主機のシリンダヘッドは、吸気弁及び排気弁を各2個備えた4弁式で、給気通路にプッシュロッドの貫通パイプ2本が立方向に組み込まれ、同パイプとシリンダヘッドとの当たり面にOリングが挿入されて気密を保つ構造となっており、動弁装置から落下した潤滑油が同パイプの中を通過して油だめに戻るようになっていたが、Oリングが劣化して隙間を生じると、給気圧力が下がる低負荷時にはピストンの吸引作用により、潤滑油が給気とともにシリンダ内に吸い込まれるおそれがあった。
 A受審人(昭和57年7月一級小型船舶操縦士免許取得)は、平成7年12月末にC社が購入した中古船の喜美丸に船長として乗り組み、毎年4月下旬から日本海でのいか一本つり漁に従事し、9月初旬に北海道羅臼港に戻り、11月下旬まで同港を基地として日帰り操業を行っていた。
 同13年8月ごろ主機は、それまで潤滑油の消費がほとんどなかったものが、3番及び4番両シリンダヘッドのプッシュロッド貫通パイプのOリングが劣化して、同パイプ内の潤滑油が給気とともにシリンダ内に吸い込まれるようになり、潤滑油の消費量が増える状況となった。
 翌9月初旬A受審人は、羅臼港に戻って操業を続けていたところ、ときには1日で20リットルも消費することもあり、主機潤滑油の消費量が著しく増え始めたことを認めたが、漁期が終了する12月初めに機関メーカーに調査を依頼するつもりで、潤滑油を適宜補給しながら操業を続けることとした。
 ところが、A受審人は、10月初めごろから操業の疲れがたまったところへ悩みごとが起きたりして、主機潤滑油のことに気が回らず、ときには油量の計測も補給も行うことなく操業を続け、11月30日の発航に際しても、潤滑油量の計測を行わなかったので、油量が著しく減少していることに気付かなかった。
 こうして、喜美丸は、操業の目的で、A受審人ほか2人が乗り組み、同日15時00分羅臼港を発し、同港南方沖合約3海里の漁場に至って操業を始めたが、荒天のため操業を中止して17時50分漁場を発進し、主機を回転数毎分1,700として発航地に向け帰航中、主機潤滑油ポンプが油面低下で空気を吸い込み、潤滑油が途絶えたものの、潤滑油圧力低下警報装置が正常に作動せず、主機が潤滑阻害となった状態で運転が続けられるうち、ピストンがシリンダライナに焼き付き、18時15分羅臼灯台から真方位204度1.8海里の地点において、主機が異常音を発した。
 当時、天候は晴で風力4の西北西風が吹き、海上には白波が立っていた。
 船橋当直に当たっていたA受審人は、異常音に気付いて主機を回転数毎分700の中立運転としたところ、主機が自然に停止したので急ぎ機関室に赴き、主機が過熱しているのを認め、再始動不能と判断して僚船に救助を求めた。
 喜美丸は、僚船により羅臼港に引き付けられ、主機の開放調査が行われた結果、ピストン、シリンダライナ及び連接棒各3個のほか、クランク軸とシリンダブロックなどに焼損を生じていることが判明し、のち修理された。 

(原因)
 本件機関損傷は、消費量が増加傾向にあった主機潤滑油の油量管理が不十分で、潤滑油がシリンダヘッドに組み込みのプッシュロッド貫通パイプのOリングから漏洩したまま運転が続けられ、給気とともにシリンダ内に吸い込まれて油量不足となり、主機が潤滑阻害となったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、潤滑油の消費量が増加傾向にあったから、油量不足とならないよう、油量の計測と補給を確実に行うなどして、油量管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業の疲れがたまったところへ悩みごとが起きたりして、潤滑油のことに気が回らず、油量管理を十分に行わなかった職務上の過失により、油量不足による主機の潤滑阻害を招き、ピストン、シリンダライナ及び連接棒各3個のほか、クランク軸とシリンダブロックなどに焼損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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