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平成15年函審第33号(第1)
平成15年函審第34号(第2)
件名

(第1)油送船北南丸機関損傷事件
(第2)油送船北南丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年1月16日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、古川隆一)

理事官
河本和夫

(第1・第2)
 
受審人
A 職名:北南丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)
(第2)
 
指定海難関係人
B社C支店 責任者:支店長D 業種名:機関製造販売業

損害
(第1)・・・潤滑油ポンプの駆動軸が折損
(第2)・・・潤滑油ポンプの駆動軸が折損、のち、潤滑油ポンプの駆動軸と駆動歯車のほか、第3中間歯車仕組み一式、燃料ポンプ駆動歯車及び冷却海水ポンプ駆動歯車をそれぞれ新替え

原因
(第1)・・・主機歯車列の軸受の整備不十分
(第2)・・・主機歯車列の取付け状態の点検不十分

主文

(第1)
 本件機関損傷は、主機歯車列の軸受の整備が不十分で、第3中間歯車が振れ回り、直結潤滑油ポンプの駆動軸に曲げ力が作用したことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、主機潤滑油ポンプ駆動軸の折損原因調査において、機関製造販売業の支店が、同軸の駆動歯車に連動している主機歯車列第3中間歯車の取付け状態の点検を十分に行わなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成15年3月17日22時55分
 北海道積丹半島南西沖合
(第2)
 平成15年3月20日23時12分
 奥尻海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船北南丸
総トン数 149トン
全長 42.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分1,450

3 事実の経過
 北南丸は、平成3年11月に進水した鋼製の油送船で、主に北海道内の漁港や離島の発電所にA重油を輸送する業務に従事し、主機としてE社が製造した6NSD-M型と呼称するディーゼル機関を備えていた。
 主機の潤滑油系統は、直結潤滑油ポンプにより主機クランク室底部の油だめから吸引、加圧された潤滑油が、油冷却器及び油こし器を経て潤滑油主管に至り、主機各部に導かれて潤滑と冷却をしたのち再び油だめに戻るようになっており、常用圧力が5.4キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)で、圧力が低下して2.0キロになると警報を発し、1.5キロになると主機が非常停止するようになっていた。また、同系統には電動式の予備潤滑油ポンプが備えられていたが、同ポンプの容量が小さくて同ポンプ単独では主機の運転ができなかった。
 潤滑油ポンプは、容量毎時10,600リットルの歯車式のもので、駆動軸の長さが約158ミリメートル(以下「ミリ」という。)径が約24ミリあり、主機後部で左舷方に張り出した歯車ケーシングの船首側に取り付けられ、歯車列の第3中間歯車によって駆動されるようになっていた。
 第3中間歯車は、歯幅が約72ミリあり、軸貫通穴内の両端に、外径52ミリ幅15ミリの単列深溝型の玉軸受(呼び番号6205)各1個の外輪が組み込まれ、同軸受の内輪に組み込まれた歯車軸が固定される構造で、燃料ポンプ駆動歯車によって駆動されるようになっており、第3中間歯車下面の船首側に歯幅約23ミリの潤滑油ポンプ駆動軸の駆動歯車が、船尾側に冷却海水ポンプの駆動歯車がそれぞれ噛み合い、冷却海水ポンプが前示歯車ケーシングの船尾側に取り付けられていた。
 ところで、玉軸受は、経年とともに摩耗や材料疲労が進行することから、定期的に新替えする必要があり、冷却海水ポンプに使用されている玉軸受については主機取扱説明書に6,000時間ごとに新替えするよう明記されていたものの、歯車列に使用されている軸受については12,000時間ごとに点検を行うよう記載されているのみで、第3中間歯車の玉軸受の定期的な新替えを強く推奨していなかった。
(第1)
 A受審人は、北南丸の新造時から機関長として乗り組み、機関の保守運転管理に当たり、主機を年間3,000時間ばかり運転し、毎年10月に主機ピストン抜きを伴う開放整備を行い、その際、自ら潤滑油ポンプの開放整備を行っていたが、主機取扱説明書に第3中間歯車の玉軸受を定期的に新替えするよう強く推奨していなかったこともあって、同歯車には玉軸受が使用されていないものと思い、定期的に新替えするなど同軸受の整備を十分に行わないまま運転を続けているうち、いつしか第3中間歯車の船尾側玉軸受の摩耗が進行して同歯車がわずかに振れ回り、潤滑油ポンプ駆動歯車に片当たりして同ポンプの駆動軸に曲げ力が作用する状況となった。
 こうして、北南丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま船首1.4メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成15年3月17日10時00分北海道利尻島の沓形港を発し、主機回転数を毎分1,340の全速力前進にかけて航行の途、22時55分弁慶岬灯台から真方位341度16.4海里の地点において、主機潤滑油ポンプの駆動軸が駆動歯車の船首側端面付近の段付き部で折損して同ポンプが止まり、油圧低下の警報を発するとともに主機が非常停止した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 折から食堂で休憩していたA受審人は、警報に気付いて機関室に急行し、主機各部を調査した結果、潤滑油ポンプの駆動軸が折損していることを認め、主機が運転不能となったことを船長に報告するとともに修理の手配を行い、北南丸は、翌18日09時50分引船により北海道岩内港に引き付けられた。
(第2)
 18日早朝、北南丸の修理を依頼されたB社のサービスステーションであるG地所在の機関整備業者は、指定海難関係人B社C支店に電話連絡し、岩内港に係留している同船の修理立会いを求め、技術指導を要請した。
 B社C支店は、支店長を含め12人の社員が所属し、陸用及び舶用機関の販売とアフターサービス業務を行っており、北南丸の主機も同支店が納入したもので、専ら舶用機関の技術指導を担当しているカスタマーサポートマネージャーFを同船に派遣した。
 Fマネージャーは、北南丸に到着後、機関整備業者の従業員1人を指揮しながら、主機潤滑油ポンプ駆動軸の折損原因調査にとりかかったところ、同ポンプ駆動軸の駆動歯車の歯面に当たり傷が多く発生しているのを認め、連動する第3中間歯車が振れ回って片当たりしているおそれがあったが、第3中間歯車の歯面やガタ付きの状況に顕著な異状が見当たらなかったことから、もともと主機潤滑油ポンプ駆動軸の段付き部の仕上げ加工不良による傷があって、これに応力が集中して傷が進展したため、同駆動軸が傷部で開閉しながら回転して駆動歯車に当たり傷が発生したものと判断し、第3中間歯車の取付け状態を十分に点検することなく、機関整備業者が持参した同型中古の潤滑油ポンプ完備品を取り付けて復旧したので、第3中間歯車の船尾側玉軸受の摩耗が進行していることに気付かなかった。
 一方、A受審人は、潤滑油ポンプの損傷状況を見て、Fマネージャーに対し、第3中間歯車の取付け状態も点検するよう進言したが、同歯車を点検するまでもないことを告げられたので、機関メーカーの技師である同人の判断に任せることとした。
 その後、北南丸は、翌19日函館港で主機潤滑油ポンプが新品のものと取り替えられたのち、運航に復帰した。
 こうして、北南丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま船首1.4メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、同月20日12時45分北海道古平漁港を発し、主機回転数を毎分1,340の全速力前進にかけ室蘭港に向けて航行の途、摩耗が進行していた第3中間歯車の船尾側玉軸受がついに破損し、同歯車が大きく振れ回り、潤滑油ポンプの駆動軸に大きな曲げ力が作用して、23時12分鴎島灯台から真方位297度15.5海里の地点において、主機潤滑油ポンプの駆動軸が駆動歯車の船首側端面付近の段付き部で折損して同ポンプが止まり、油圧低下の警報を発するとともに主機が非常停止した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、海上は穏やかであった。
 折から食堂で休憩していたA受審人は、警報に気付いて機関室に急行し、主機各部を調査した結果、潤滑油ポンプの駆動軸が折損していることを認め、主機が運転不能となったことを船長に報告するとともに修理の手配を行い、北南丸は、巡視船と引船とにより北海道江差港に引き付けられ、のち、潤滑油ポンプの駆動軸と駆動歯車のほか、歯面に当たり傷を生じていた第3中間歯車仕組み一式、燃料ポンプ駆動歯車及び冷却海水ポンプ駆動歯車がそれぞれ新替えされた。
 B社C支店は、北海道内のサービスステーションと顧客に対し、本社カスタマーサポートが本件後に作成したサービスニュースにより、主機歯車列に使用されている軸受を4年ごとに新替えするよう周知し、同種事故の再発防止を図る措置を講じた。 

(原因)
(第1)
 本件機関損傷は、主機歯車列の軸受の整備が不十分で、直結潤滑油ポンプを駆動している第3中間歯車の玉軸受の摩耗が進行して同歯車が振れ回り、同ポンプの駆動軸に曲げ力が作用したことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、主機潤滑油ポンプ駆動軸の折損原因調査において、同軸の駆動歯車に当たり傷が発生していた際、機関製造販売業の支店が、同歯車に連動している主機歯車列第3中間歯車の取付け状態の点検を十分に行わなかったことによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
(第1)
 A受審人が機関の保守運転管理に当たる際、主機歯車列第3中間歯車の玉軸受を定期的に取り替えるなど、同軸受の整備を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、以上のA受審人の所為は、主機取扱説明書に、同軸受を定期的に新替えするよう強く推奨していなかった点に微し、職務上の過失とするまでもない。
(第2)
 B社C支店が、主機潤滑油ポンプ駆動軸の折損原因調査において、同軸の駆動歯車に当たり傷が発生しているのを認めた際、同歯車に連動している主機歯車列第3中間歯車の取付け状態の点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B社C支店に対しては、本件後、北海道内のサービスステーションと顧客に対し、主機歯車列に使用されている軸受を4年ごとに新替えするよう周知している点に微し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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