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平成15年那審第44号
件名

公害監視船こんぺき乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、坂爪 靖、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:こんぺき船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
両舷の推進器翼、推進器軸、舵柱及び舵板に曲損、船底外板に凹損

原因
針路確認不十分

主文

 本件乗揚は、針路の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月5日10時50分
 沖縄県糸満漁港沖
 
2 船舶の要目
船種船名 公害監視船こんぺき
総トン数 38.82トン
全長 17.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 669キロワット

3 事実の経過
 こんぺきは、船体中央部船首寄りに操舵室を設け、2機2軸を備えた軽合金製公害監視船で、昭和49年8月に四級海技士(航海)の免許を取得したA受審人ほか3人が乗り組み、水質検査用の海水を採取する目的で、調査員1人を同乗させ、船首1.0メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成15年2月5日10時30分沖縄県糸満漁港を発し、同漁港の沖に向かった。
 ところで、糸満漁港沖は、陸岸に沿って浅礁域(以下「糸満沖浅礁域」という。)が拡延しているため、同漁港の防波堤入口から同域内を通って西南西方に延びる水路(以下「西水路」という。)及び南南西方に延びる水路(以下「南水路」という。)が設けられており、西水路の側面標識として、同水路入口に糸満港西水路第1号灯浮標(以下、灯浮標の呼称については「糸満港」を略す。)及び同第2号灯浮標(以下、両灯浮標を総称して「西水路入口灯浮標」という。)が、更に両灯浮標の東北東方約0.6海里の地点に同第3号及び同第4号灯浮標がそれぞれ敷設されていた。
 また、こんぺきは、沖縄県に所属する職員が乗り組み、主に金武中城港内で石油関連施設からの漏油監視業務に当たるほか、水質検査のため、月1回の割合で宜野湾市伊佐、那覇港及び糸満漁港の各沖並びに金武中城港内などのそれぞれ数カ所において海水の採取に従事しており、糸満漁港沖における海水採取地点として、岡波島の西方約400メートルの地点(以下「岡波島西方地点」という。)、西水路入口灯浮標の南東方約600メートルの地点(以下「西水路南東方地点」という。)及び南水路内の3地点が定められていた。
 A受審人は、糸満漁港の沖で海水の採取を行う際には、同漁港の防波堤入口から西水路を航行したのち、糸満沖浅礁域の外縁付近に生じる砕波や海面の変色状況を見ながら、同外縁の約200メートル沖を北上して岡波島西方地点に至り、その後北上した進路を逆に航行し、岡波島の南西方約1,000メートルの地点で、西水路入口灯浮標の西方沖に向かう175度(真方位、以下同じ。)の針路に転じ、同浅礁域に沿って南下したのち、同入口灯浮標の西方沖から西水路南東方地点などに向かうようにしていた。
 A受審人は、折から沖縄本島地方(中南部)に海上風警報と波浪注意報が発表されており、沖合から寄せるやや高い波浪や白波のため、糸満沖浅礁域の外縁付近にある西水路入口灯浮標が時折見えにくくなり、かつ、同域外縁の所在を見定めることも困難な状況下、岡波島の見え具合から目測で船位を確認しながら北上し、10時42分岡波島西方地点に到着して海水の採取を行い、同時46分半同地点を発進して西水路南東方地点に向かった。
 A受審人は、いつものように自ら舵輪を握って操船にあたるとともに、見張りの補助として一等機関士と甲板員とを操舵室内に配し、一旦西進したのち、10時47分わずか前岡波島島頂(高さ4メートル)から274度530メートルの地点で、針路を198度に定め、機関を全速力前進にかけて17.0ノットの対地速力で進行したところ、先行するバージを曳いた引船を右舷側近くに見て追い越す態勢となったことから、その後専ら右舷方に目を向けて続航した。
 A受審人は、10時48分岡波島島頂から231度950メートルの地点に達したとき、前示引船から十分に遠ざかったので、西水路入口灯浮標の西方沖に向かう針路に転じることとし、左舷前方を一瞥(いちべつ)してその所在を探したが、折からやや高い波浪のために視認しにくい状況となっていた同灯浮標を見落とし、左舷船首50度1.2海里のところに認めた西水路第3号及び同第4号灯浮標を西水路入口灯浮標と思い込み、コンパスなどで針路の確認を十分に行うことなく、視認した両灯浮標の西方に向けて転針した。
 A受審人は、西水路入口灯浮標の沖に向けたつもりであったことから、平素の針路よりも大きく左偏した136度の針路となっていることも、糸満沖浅礁域に向首していることにも気付かないまま、その後日頃から気になっていたレーダーの調整を行うため、一等機関士に操舵を任せることとし、このままの針路で保針するようにと指示したものの、依然として針路の確認を十分に行うことなく、レーダーの画面を見ながらその調整に取り掛かった。
 一等機関士は、その後コンパスを見詰めながら保針に心掛け、10時50分わずか前ふと船首方に目を向けたところ、左舷前方近距離のところに建網と浮子を認めたものの、A受審人に報告する間もなく、こんぺきは、10時50分岡波島島頂から182度1,300メートルの地点において、136度の針路及び原速力のまま、糸満沖浅礁域の外縁部に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力5の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、付近にはやや高い波浪が生じていた。
 A受審人は、船体の衝撃で乗り揚げたことを知り、直ちに機関を止めて船体の損傷状況などを調査したのち、関係機関に救助要請を行い、こんぺきは、20時20分来援した引船によって引き下ろされ、糸満漁港に曳航された。
 乗揚の結果、両舷の推進器翼、推進器軸、舵柱及び舵板に曲損を、並びに船底外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、沖縄県糸満漁港沖において、浅礁域に沿って南下する針路に転じる際、針路の確認が不十分で、同域に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県糸満漁港沖において、海上風警報と波浪注意報とが発表されている状況下、浅礁域に沿って南下する西水路入口灯浮標の西方沖に向かう針路に転じる場合、同域に向首進行することのないよう、コンパスなどで針路の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、折からやや高い波浪のため視認しにくい状況となっていた西水路入口灯浮標を見落とし、視認した別の灯浮標を同入口灯浮標と思い込み、針路の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、平素よりも大きく左偏した針路となっていることも、糸満漁港沖の浅礁域に向首していることにも気付かないまま進行して乗揚を招き、両舷の推進器翼、推進器軸、舵柱及び舵板に曲損を、並びに船底外板に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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