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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成15年那審第60号
件名

漁船艶丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:艶丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
全損

原因
針路保持不十分

裁決主文

 本件乗揚は、針路の保持が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月16日22時00分
 沖縄県慶良間列島安慶名敷島南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船艶丸
総トン数 2.25トン
登録長 8.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 35

3 事実の経過
 艶丸は、昭和53年8月に進水し、船体中央部からやや後方に操舵室を設けた延縄漁業に従事するFRP製漁船で、同49年12月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年8月16日05時50分沖縄県糸満漁港を発し、同漁港西方約23海里の、慶良間列島の久場島北岸付近の漁場に向かった。
 08時00分ごろA受審人は、漁場に至り、2日間の操業予定で延縄漁を始め、3回ほど操業を行ったのち、14時30分ごろ漁場を発進し、15時30分ごろその東方の阿嘉島南東岸沖合に移動し、投錨して3時間半ほど休息した。そして、19時05分ごろ揚錨し、付近漁場で1回の操業を行ったあと、同漁場の北方約1.7海里のところにある座間味島の座間味港で翌朝まで休息することとし、21時42分座間味港外防波堤灯台(以下「外防波堤灯台」という。)から178度(真方位、以下同じ。)2,950メートルの地点を発進した。
 ところで、座間味港の南西方約800メートルのところには、安慶名敷島があり、同島周囲に干出さんご礁が存在し、その南東方では沖合約300メートルまで同礁が拡延していた。A受審人は、日ごろ付近海域を幾度も通航していたことから、安慶名敷島周辺の干出さんご礁の存在などについて十分に承知していた。
 また、A受審人は、長時間航海するときは操舵室で自動操舵を使用して操舵を行っていたが、短時間の航海や操業時には同室から遠隔操舵装置を左舷船首部に設けられた漁具巻上げ機まで伸ばし、同機の甲板上高さ約1.1メートルのところに遠隔操舵装置のダイヤル(以下、単に「ダイヤル」という。)を引っ掛け、これと漁具巻上げ機の右横に備えられた主機遠隔操縦レバーを操作して操舵操船にあたっていた。ダイヤルは右に回すと舵が右にとられ、中央の位置に戻せば直進できるようになっていた。
 発進したとき、A受審人は、針路を000度に定め、機関を微速力前進にかけて3.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、左舷船首部に立って遠隔操舵によって進行し、21時56分外防波堤灯台から176度1,650メートルの地点で、機関を増速して5.0ノットの速力とし、船首部で漁具の後片付けを始めた。
 21時57分ごろA受審人は、外防波堤灯台から175.5度1,480メートルの地点に達したころ、船内に取り込んだ旗竿を船首部から中央部にかけての右舷側舷側に横に倒して置き、ロープで旗竿に結んでいた浮子を手に持って漁具巻上げ機前方の左舷側舷側に並べる作業を行っていたところ、ロープがダイヤルに触れ、舵が少し左にとられ、徐々に左回頭を始めたが、同作業に気をとられ、針路の保持を十分に行うことなく、安慶名敷島南東方の干出さんご礁に向首する状況となったことに気付かないまま続航した。
 艶丸は、22時00分わずか前A受審人が作業灯に照らされた周囲の海面の色が白くなっているのを見て、浅所に接近していることに気付いたが、どうすることもできず、22時00分外防波堤灯台から186度1,170メートルの地点において、船首が北西方を向いたとき、原速力のまま、安慶名敷島南東方の干出さんご礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 乗揚の結果、船首から船尾に至る船底外板全般に擦過傷、破口、推進器翼、同軸及び舵に曲損等を生じ、全損となった。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、沖縄県慶良間列島安慶名敷島南東方沖合において、漁場から同県座間味港に向けて北上中、針路の保持が不十分で、安慶名敷島南東方の干出さんご礁に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、沖縄県慶良間列島安慶名敷島南東方沖合において、漁場から同県座間味港に向けて北上する場合、安慶名敷島南東方には干出さんご礁が存在するから、これに近づかないよう、針路の保持を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首部で、ロープで旗竿に結んでいた浮子を手に持って漁具巻上げ機前方の左舷側舷側に並べる作業に気をとられ、針路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により、ロープが同機に引っ掛けておいたダイヤルに触れ、舵が少し左にとられ、徐々に左回頭を始め、安慶名敷島南東方の干出さんご礁に向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、艶丸の船首から船尾に至る船底外板全般に擦過傷、破口、推進器翼、同軸及び舵に曲損等を生じさせ、同船を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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