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平成15年那審第37号
件名

油送船ペトロ アヴァンス乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、坂爪 靖、上原 直)

理事官
平良玄栄

指定海難関係人
A 職名:ペトロ アヴァンス船長

損害
船底外板に擦過傷、ビルジキール及び推進器翼に曲損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月5日19時36分
 沖縄県石垣港内
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船ペトロ アヴァンス
総トン数 3,321.00トン
登録長 90.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,458キロワット

3 事実の経過
 ペトロ アヴァンス(以下「ペ号」という。)は、船尾船橋型油送船で、1999年11月に総トン数500トン以上の船舶に船長として乗船できる英国発行の海技免許を取得したA指定海難関係人ほか21人(インドネシア人10人、マレーシア人3人ほか8人)が乗り組み、アスファルト2,998トンを積載し、船首4.4メートル船尾5.8メートルの喫水をもって、平成15年3月4日13時24分(日本標準時)台湾高雄港を発し、沖縄県石垣港に向かった。
 ところで、ペ号は、目的地が中華人民共和国馬尾港であったものの、同国と台湾との間では航行の直行が禁止されていたため、一旦石垣港などの第三国の港に入港し、検疫錨地に錨を入れるなどして通関手続きを行い、その後目的港に向けて改めて出港するクリアランス船と呼ばれる外国貿易船であった。
 また、石垣港は、北西方に向いて開口を有する石垣島南西岸、竹富島北東岸及び東ノ瀬と称する浅礁帯とによって囲まれた水域の奥に位置しており、港界付近から防波堤入口沖にかけて両島からそれぞれ大きく張り出した浅所域の間に、検疫錨地と南東方に向いて延びる幅約800メートルの水路とが設けられていた。
 検疫錨地は、前示水路のほぼ中央部付近にあたる、琉球観音埼灯台(以下「観音埼灯台」という。)から160度(真方位、以下同じ。)約3,000メートルの地点を中心とし、半径約600メートルの円形区域と定められ、その周辺には、同水路の側端を示す石垣港第1号灯浮標(以下、灯浮標の呼称については「石垣港」を略す。)及び第3号灯浮標の両左舷標識がその北西側及び東部に、第2号灯浮標及び第4号灯浮標の両右舷標識がその西側及び南南東側にそれぞれ敷設されていた。
 入航する船舶は、検疫錨地の北東側に水深5メートル以下の浅所域(以下「北東側浅所域」という。)が迫っていたものの、その存在を示す標識などがなかったうえに、大潮期の上げ潮流時には、第1号灯浮標付近において、低潮2時間前から高潮2時間後まで北西から北北西方に向かう最強流速0.7ノットの潮流を受けることから、船速の減少に伴って増大する潮流の影響により、左方に圧流されて検疫錨地から逸脱し、北東側浅所域などに著しく接近することのないよう、船位の確認を十分に行う必要があった。
 A指定海難関係人は、海図第1286号(石垣港、縮尺1万分の1)にあたり、検疫錨地の北西部で北東側浅所域から約400メートル離れた、観音埼灯台から160度2,540メートルの水深約20メートルの地点(以下「投錨予定地点」という。)に錨を入れることとし、翌5日19時07分同灯台から263度1.5海里の地点で、三等航海士を見張りと操船記録に、二等機関士を主機遠隔操縦装置に、操舵手を舵輪に、及び一等航海士と甲板長を船首配置にそれぞれ就けるとともに、針路を第1号灯浮標のわずか右側に向首する121度に定め、機関を全速力前進にかけたところ、折からの風潮流により左方に2度圧流されながら11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)となって進行した。
 A指定海難関係人は、19時12分観音埼灯台から228度0.9海里の地点に達したことを三等航海士の報告で知るとともに、第1号灯浮標がほぼ正船首方に見える状況となったことから、わずかに左方に圧流されていることを知ったが、減速してもさほど大きく圧流されることはないものと思い、その後船位の確認を十分に行うことなく、同じ針路のまま港内全速力としたため、更に2度圧流されながら10.2ノットの速力となって続航した。
 A指定海難関係人は、19時17分観音埼灯台から174.5度1,860メートルの地点で、半速力前進を令したのち、順次減速しながら進行し、同時21分少し前第1号灯浮標の北東方約200メートルにあたる、同灯台から163度2,140メートルの地点で、後進投錨に備えて機関の後進作動を確認し、その後極微速力前進にかけて続航したものの、依然として船位の確認を十分に行っていなかったので、速力を減じるに伴って左方への圧流量が増大していることも、投錨予定地点の北方約200メートルのところを航過し、検疫錨地から逸脱するおそれがあることにも気付かなかった。
 A指定海難関係人は、自らの勘を頼りに、作動させていた音響測深機で水深を確認することもなく、19時30分検疫錨地の北東端部にあたる、観音埼灯台から150度2,640メートルの水深10メートルの地点に至ったところで、右舵一杯を令して船首を風上に向けるとともに機関を後進にかけ、前進行きあしを止めて左舷錨を投下し、その後機関を適宜後進にかけ、左舷錨鎖3節を伸出させながらゆっくりと後退中、ペ号は、検疫錨地から逸脱し、19時36分観音埼灯台から146度2,620メートルの地点において、船首が213度に向き、後進行きあし0.5ノットとなったとき、その船尾部が北東側浅所域に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力4の南東風が吹き、潮候は大潮期の上げ潮末期にあたり、日没時刻は18時47分であった。
 乗揚の結果、船底外板に擦過傷、ビルジキール及び推進器翼に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、沖縄県石垣港において、日没後の薄明時、浅所域の間に設けられた検疫錨地に投錨する際、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、沖縄県石垣港において、日没後の薄明時、浅所域の間に設けられた検疫錨地に投錨する際、同錨地から逸脱して浅所域に乗り揚げることのないよう、船位の確認を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、船位の確認が不十分であったことを深く反省し、その重要性を再認識したことなどに徴し、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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