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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成16年門審第12号
件名

漁船永豊丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:永豊丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船首船底に破口等
船長が1週間の加療を要する左前額部挫創及び左大腿部等の打撲傷

原因
針路確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、針路の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月30日05時20分
 宮崎県延岡市小島北岸
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船永豊丸
総トン数 4.90トン
登録長 9.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 14キロワット

3 事実の経過
 永豊丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央後部に後方が開放された操舵室があり、昭和61年8月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、息子夫婦を同乗させ、かつお曳き縄つり漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成15年12月30日05時10分宮崎県土々呂港を発し、法定灯火を表示して同港の東南東方沖合約10海里の漁場に向かった。
 ところで、土々呂港は、その北側に隣接して延岡新港が築造され、同新港東部海域に南、北両防波堤がそれぞれほぼ南北方向に設けられ、北西側に位置する北防波堤の南端と南東側に位置する南防波堤の北端との間の幅約500メートル及び南防波堤南端と宮崎県延岡市赤水町北端の小島との間の幅約230メートルの各水路が通航路になっており、北防波堤南端部には延岡新港北防波堤南灯台が、南防波堤北端部には延岡新港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)が、及び南防波堤南端部には4秒1閃光で光達距離約3海里の赤色灯柱がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は、平素、土々呂港の東方沖合の漁場に向かうときには、南防波堤と小島との間の通航路を経て出航しており、離岸後、タカチ碆(べ)と称する水上岩周辺に拡延する浅瀬を避けて北上したのち、進路目標とする赤色灯柱を正船首わずか左に見ながら、針路を同通航路のほぼ中央に向けて東行していた。
 こうして、発航後、A受審人は、低潮時を少し過ぎていたものの、夜間の出航であることから、前示浅瀬に接近しないように、いつもより少しタカチ碆から北方に離れたところで右転し、船首を赤色灯柱に向けて東行し、同灯柱に近づいてからいつもの出航時の針路線上に乗せることとし、操舵室左舷側に固定したいすに腰を掛け、同室中央に設けられた舵輪を右手に持って土々呂港内を北上した。
 05時15分A受審人は、南防波堤灯台から213度(真方位、以下同じ。)950メートルの地点で、針路を赤色灯柱に向く077度(真針路、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけ、黒い島影として見ることができた南防波堤及び小島を左右各舷船首方に、並びに正船首方に同灯柱をそれぞれ見ながら、8.9ノットの対地速力で、手動操舵によって進行した。
 05時18分半A受審人は、南防波堤灯台から145度720メートルの地点に至り、赤色灯柱までの距離が約100メートルとなったとき、出航時の針路に乗せるために、針路を129度に転じて続航した。
 05時19分A受審人は、南防波堤灯台から142.5度860メートルの地点に達したとき、目視中の赤色灯柱、南防波堤及び小島の位置関係から、出航時の針路線上に乗ったことを知り、小角度の左舵をとって左転を始めたが、このとき同時に、漁場に向かう針路を確かめるために舵輪から手を離し、操舵室右舷前部に設置したGPSプロッターの電源を入れ、その後、明るく表示された同プロッター画面を見ながらその操作を行うことに気をとられ、小舵角で左転していることを失念し、同位置関係の確認を続けるなり、磁気コンパスを見るなりして針路を十分に確認することなく、ゆっくり左回頭しながら小島北岸に向首していることに気付かずに続航中、05時20分南防波堤灯台から136度1,080メートルの地点において、永豊丸は、船首が113度を向いたとき、原速力のまま、小島北岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期に当たり、視界は良好であった。
 乗揚の結果、永豊丸は、船首船底に破口等を生じたが、のち修理され、A受審人が乗り揚げたときの衝撃で前のめりに倒れ、1週間の加療を要する左前額部挫創及び左大腿部等の打撲傷を負うに至った。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、宮崎県延岡市小島北岸沖合において、土々呂港から同港東南東方沖合の漁場に向けて出航する際、針路の確認が不十分で、小島北岸に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、宮崎県延岡市小島北岸沖合において、土々呂港から同港東南東方沖合の漁場に向け、南防波堤南端と小島との間の通航路を経て出航する場合、赤色灯柱を進路目標として針路を定めていたのであるから、小島に向首進行しないよう、引き続き同灯柱並びに黒い島影として見ることができた南防波堤及び小島の位置関係を確認するなり、磁気コンパスを見るなりして、針路を十分に確認するべき注意義務があった。ところが、同人は、漁場に向かう針路を確かめるために舵輪から手を離してGPSプロッターの電源を入れ、明るく表示された同プロッター画面を見ながらその操作を行うことに気をとられ、針路を十分に確認しなかった職務上の過失により、小島北岸に向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、船首船底に破口等を生じさせ、自ら左前額部挫創及び左大腿部等の打撲傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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