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平成15年横審第84号
件名

貨物船清海丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月3日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒田 均、阿部能正、西山烝一)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:清海丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
船底外板、推進器及び舵板などに曲損

原因
走錨防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、走錨の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月27日12時30分
 茨城県鹿島港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船清海丸
総トン数 498トン
全長 77.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 清海丸は、船尾船橋型の鋼製ばら積み貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト357トンを張水し、船首1.20メートル船尾2.90メートルの喫水をもって、平成15年2月26日20時20分宮城県仙台塩釜港を発し、茨城県鹿島港に向かった。
 ところで、鹿島港は、鹿島灘に面した掘込港で、内港入口の南部から南防波堤が北方に約3,400メートル延び、先端部に鹿島港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)が設置され、同防波堤の西方が内港に至る水路となって数個の灯浮標が設けられ、水路の西方は、北海浜埋立地で、その護岸には消波ブロックが設置されており、冬季の沿岸海域は、太平洋のうねりの影響で荒れていることが多かった。
 A受審人は、30年ばかり前から鹿島港の沖合において、年間20ないし30回の割合で錨泊した経験があり、港口を北に向けた同港が冬季の北寄りの風や波浪に対し好錨地でないことを認識していたものの、鹿島港第4号仮設灯浮標の南方で、いつも錨鎖を3ないし4節使用して錨泊していた。
 翌27日08時20分A受審人は、積荷役待機のため、前示灯浮標の南方にあたる、南防波堤灯台から268度800メートルの地点に至り、いつものように水深17メートル底質砂の海底に、後進しながら左舷錨を投じ、各舷9節保有している錨鎖のうち4節を水際まで伸出し、錨が効いたことを確認して機関を終了し、錨泊を始めた。
 錨泊したときA受審人は、折からの風速毎秒12メートルの北寄りの強風と、波高約3メートルの北東方からのうねりを認めたが、これまでの経験から走錨することはないものと思い、走錨して乗り揚げないよう、錨鎖を適切に伸出するなど、走錨の防止措置を十分にとることなく、右舷船首方から強風とうねりを受ける状況で、降橋して自室で休息した。
 こうして、清海丸は、12時ごろ強風とうねりのため走錨して南西方に圧流され、A受審人らが気付かないまま、12時30分南防波堤灯台から237度1,900メートルの地点において、154度に向首したとき、北海浜埋立地護岸の消波ブロックに護岸とほぼ平行に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力6の北寄りの風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、波高は約3メートルで、茨城県南部の鹿行地域には強風、波浪注意報が発表されていた。
 乗揚の結果、船底外板、推進器及び舵板などに曲損を生じたが、引船の援助を得て離礁し、のち修理された。

(原因等の考察)
 本件乗揚は、冬季、茨城県鹿島港において錨泊中、強風とうねりとにより走錨し、北海浜埋立地護岸の消波ブロックに向け圧流されたことによって発生したものであるが、以下、その原因などについて考察する。
 錨泊したときA受審人は、風速毎秒12メートルの北寄りの強風と、波高約3メートルの北東方からのうねりを認めていたが、いつものように左舷錨鎖4節を水際まで伸出した。
 安全に錨泊するには、走錨を防止するため、あらかじめ一般配置図などにより船体の風圧面積を求め、錨及び錨鎖のは駐力が風圧力に対抗できるよう、風速に対する錨鎖の伸出量を算出した守錨基準を定めておく必要がある。
 本件の場合、錨地の水深が17メートルであり、突風率を考慮すると、水深の3倍の長さに90メートルを加えた約6節の錨鎖を伸出する必要があったものと推定でき、走錨の防止措置が不十分であったといえる。
 さらに、錨鎖を適切に伸出した場合でも、高波高のうねりがあったから、余分に錨鎖を伸ばしたり、必要により、守錨当直を維持するなど、走錨の防止措置を十分にとることが望ましい。 

(原因)
 本件乗揚は、茨城県鹿島港において錨泊する際、走錨の防止措置が不十分で、強風とうねりとにより走錨し、北海浜埋立地護岸の消波ブロックに向け圧流されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、茨城県鹿島港において錨泊するにあたり、北寄りの強風とうねりを認めた場合、港口を北に向けた同港が北寄りの強風や波浪に対し好錨地でないことを認識していたのであるから、走錨して乗り揚げないよう、錨鎖を適切に伸出するなど、走錨の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまでの経験から走錨することはないものと思い、走錨の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、清海丸が強風とうねりとにより走錨し、圧流されて北海浜埋立地護岸の消波ブロックに乗り揚げる事態を招き、船底外板、推進器及び舵板などに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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