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平成15年広審第98号
件名

貨物船サンライズ乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年2月26日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、供田仁男、西田克史)

理事官
岩渕三穂

指定海難関係人
A 職名:サンライズ船長

損害
船底外板に4箇所の亀裂、バラストタンクに浸水

原因
舵角の指示不十分

主文

 本件乗揚は、来島海峡を東行中、西水道に向け右転する際、舵角の指示が不十分で、転針時機を失して馬島東岸に接航したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月11日01時20分
 来島海峡 馬島東岸
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船サンライズ
総トン数 1,662トン
登録長 81.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,030キロワット

3 事実の経過
 サンライズは、2機2軸を有する船尾船橋型貨物船で、A指定海難関係人ほか35人が乗り組み、木材約2,245立方メートルを積載し、船首3.1メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成14年1月7日07時00分ロシア連邦ボストーチヌイ港を発し、徳島県徳島小松島港に向かった。
 A指定海難関係人は、船橋当直を、自らと操舵手、一等航海士と操舵手及び二等航海士と操舵手による2人体制で4時間交替の3直制とし、日本海を南下して関門海峡を経由し、瀬戸内海を東行して来島海峡に至った。
 ところで、来島海峡航路は、潮流が強く、潮流の流向によって一方通航の方向が変わり、順潮時には中水道を逆潮時には西水道を通航するという特殊な航法が海上交通安全法によって定められており、強い逆潮時に同航路を東行する船舶は小島東灯標北東方の航路屈曲部で西水道に向け右転する際、転針時機を失することのないよう、的確な舵角をとり右舷側から受ける強潮流に抗して確実に転針する慎重な操船が求められるところであった。
 また、A指定海難関係人は、これまで航海士として来島海峡航路を通航した経験が2回あったものの、船長として同航路通航の操船指揮をとるのは初めてであった。
 越えて11日00時30分A指定海難関係人は、当直中の二等航海士から来島海峡航路に近づいた旨の連絡を受け、同航路西口まで約1.3海里の地点で昇橋し、右舷船首方の来島大角鼻潮流信号所の電光板を見て、中水道の潮流が北流5ノットで西水道を航行しなければならないことを知り、同時41分来島海峡航路第2号灯浮標を右舷側180メートルばかりに航過して同航路に入り、自らは操舵室左舷側窓際に立って操船指揮をとり、二等航海士を操舵室右舷側に配して見張りと船位測定に、また操舵手を手動操舵にあたらせ、来島海峡航路の南側境界線寄りに東行を続けた。
 01時00分A指定海難関係人は、小島東灯標から312度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を123度に定め、左舷機関を回転数毎分250の全速力前進にかけ、右舷機関を機関当直者からの要請で全速力前進より少し減じた回転数毎分210にかけ、折からの潮流に抗して8.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
 A指定海難関係人は、やがて小島東灯標を右舷正横方420メートルに見て通過したころ、二等航海士から西水道に向ける転針点に差し掛かっており次の針路が205度である旨の報告を受けたので、01時10分同灯標から052度440メートルの地点で、右転することとしたが、右舷側からの強潮流に抗して確実に転針できるよう、操舵手がとるべき舵角を十分に指示することなく、これまで転針にあたっては次の針路を指示するだけであったことから、操舵手に対して針路205度を指示しただけで、操舵室右舷側のカーテンで遮蔽された海図台に赴き西水道などの状況を再確認していて舵角が右舵5度しかとられていないことに気付かなかった。
 こうして、A指定海難関係人は、舵効が現れないばかりか次第に強くなった右舷側と前方からの強潮流に圧流されて速力が5.8ノットに落ち、実効進路116度となって続航し、操舵手の転針しないという声を聞いて海図台を離れ、操舵スタンド前方の舵角指示器を見て右舵5度であることに初めて気付き、操舵手に代わって自ら舵輪を持ち右舵30度をとって保持した。
 01時13分A指定海難関係人は、小島東灯標から088度830メートルの地点で、徐々に右転を始めたものの、次第に迫り来る右舷船首方の馬島の島影を見て、右転時機を失して同島北岸への乗揚の危険を感じ、西水道通航を諦めて舵を中央に戻したとき、船首方近距離に2隻の中水道北上船の灯火を視認し、狭い来島海峡航路内の同北上船の前面で左転して西水道への転針を改めて行うことが困難な状況であることを認めた。
 01時14分A指定海難関係人は、小島東灯標から098度950メートルの地点で、中水道北上船と左舷を対して航過しようと針路を馬島東岸に接航する166度として、潮流に抗して4.5ノットの速力で進行し、間もなく先頭の北上船と左舷を対して航過して引き続き続航中、01時20分ナガセ鼻灯台から003度260メートルの地点において、サンライズは、原針路、原速力のまま、ムクリと称する浅瀬に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、中水道には4.9ノットの北流があった。
 乗揚の結果、船底外板に4箇所の亀裂を生じ、バラストタンクに浸水したが、タグボートの来援を得て離礁した。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、強潮流に抗して来島海峡を東行中、西水道に向け右転する際、舵角の指示が不十分で、転針時機を失して馬島東岸に接航したことによって発生したものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、夜間、強潮流に抗して来島海峡を東行中、西水道に向け右転する際、右舷側からの強潮流に抗して確実に転針できるよう、操舵手がとるべき舵角を十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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