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平成15年神審第102号
件名

遊漁船秀丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年2月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(相田尚武、田邉行夫、小金沢重充)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:秀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
正船首部に亀裂及び破口
釣客8人が下顎骨骨折、中足骨骨折及び肋骨骨折など、船長が頭部打撲の負傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月17日01時00分
 紀伊水道
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船秀丸
総トン数 8.5トン
登録長 11.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 294キロワット

3 事実の経過
 秀丸は、船体中央部から船尾寄りにかけてキャビン及び操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で、平成12年1月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、釣客8人を乗せ、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同15年7月16日17時30分和歌山県大引漁港を発し、同県白浜町西方沖合10海里ばかりの釣り場に至って釣客に魚釣りを行わせたのち、翌17日00時15分同釣り場を発進して帰途に就いた。
 A受審人は、発進時、前部甲板に2人、キャビンに5人及び後部甲板に1人の釣客をそれぞれ乗せ、自らは上着を脱いで操舵室の舵輪後方の背もたれ付いすに敷き、それに腰掛けて手動操舵で進行した。
 A受審人は、00時53分半紀伊日ノ御埼灯台から174度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に至り、針路をレーダー画面に現れた日ノ御埼西端の大倉碆(ばえ)に向く342度に定め、自動操舵に切り換え、同碆に接近したらいつものように転針して300ないし500メートル離すつもりでいた。
 定針後、A受審人は、キャビンに赴いて釣客の様子を見回ったのち、操舵室に戻り、いすに腰掛けて喫煙を始め、機関を回転数毎分1,600の全速力前進にかけ、13.8ノットの対地速力で続航した。
 A受審人は、00時58分少し前紀伊日ノ御埼灯台から193度1,120メートルの地点に達したころ、くわえたばこのまま後部甲板にいる釣客の様子を見ようと振り向いたとき、たばこの火を股間(こかん)のいす座面に落とし、その付近の上着を手で払い消火したつもりでいたところ、程なく焦げるにおいがしたので、その火の後始末をすることにしたが、中腰となって下方を向き、たばこの火を手ではたいて消火することに気を奪われ、作動中のレーダーにより大倉碆への接近状況を確かめるなど船位の確認を十分に行うことなく、北上を続けた。
 こうして、秀丸は、A受審人が大倉碆に著しく接近していることに気付かないで進行中、01時00分紀伊日ノ御埼灯台から252度570メートルの地点において、原針路、原速力のまま、大倉碆西端の岩礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
 乗揚の結果、正船首部に亀裂及び破口を生じたが、自力で帰航し、のち修理され、釣客8人が下顎骨骨折、中足骨骨折及び肋骨骨折などを負ったほか、A受審人も頭部打撲を負った。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、紀伊水道日ノ御埼南方沖合を北上中、船位の確認が不十分で、大倉碆に著しく接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、紀伊水道日ノ御埼南方沖合において、大倉碆に向かう針路で北上中、たばこの火をいすに落とし、その火の後始末をする場合、作動中のレーダーにより大倉碆への接近状況を確かめるなど船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、たばこの火を手ではたいて消火することに気を奪われ、レーダーにより大倉碆への接近状況を確かめるなど船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同碆に著しく接近したことに気付かないまま進行し、同碆西端の岩礁への乗揚を招き、正船首部に亀裂及び破口を生じさせ、釣客8人に下顎骨骨折、中足骨骨折及び肋骨骨折などを負わせ、自らも頭部打撲を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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