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平成15年仙審第50号
件名

漁船新海丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年2月16日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(吉澤和彦)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:新海丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船底に破口等の損傷、のち修理の都合上廃船処理、
船長が約3週間の治療を要する肋骨骨折

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月6日07時00分
 新潟県柿崎漁港北東沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船新海丸
総トン数 1.75トン
登録長 7.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 45

3 事実の経過
 新海丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、ひらめ漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年5月6日05時30分新潟県柏崎港を発し、同港南西約13海里沖合の同県中頸城郡柿崎町上下浜付近の漁場に向かった。
 A受審人は、陸岸に沿って南下するうち、聖ケ鼻沖を航過したあたりから次第に視界が不良となり、小尺度として柏崎から直江津間の海岸を表示させていたGPSプロッターの画面と魚群探知器の水深約15メートルの情報から、陸影が見えなかったものの、06時30分ころ目的地付近に至ったことを知り、操業に取り掛かった。
 A受審人は、潜航板の先に毛針をつけた漁具を投入したところ、付近にボンデンを認め、敷設された漁網の近くにいることに気付き、絡まることを恐れて急いで漁具を回収し、更に陸岸に寄せて見えてくる地形から船位を知ろうとして、魚群探知器を注視しながら陸側に寄せたが、水深が約3メートルとなっても濃霧のため陸岸が見えなかったので、これ以上の接近は危険と判断し、反転していったん沖出しした。
 A受審人は、視界の回復が見込めそうになかったことから漁を止めて帰港することとし、磁気コンパスにより柏崎港方面とおぼしき針路としてゆっくりと北上したところ、突然船首方間近に見覚えのある柿崎漁港の防波堤を認めたので、転舵してこれを避け、再び沖出しした。
 06時54分A受審人は、自船が柿崎漁港の間近に存在することが分ったものの、柏崎港に向け針路を設定するにあたり、GPSプロッターの地形図を大尺度表示にするなどして詳細な船位を確認することなく、米山埼灯台から227度(真方位、以下同じ。)4.2海里のところで、おおよその見当で針路を059度に定め、機関を微速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 A受審人は、定めた針路が、柿崎漁港の防波堤北端からほぼ北東方1,500メートルの地点を南端として、そこから北東方に約90メートルにわたって消波ブロックを積み上げて構築した離岸堤に向首していることに気付かないまま続航中、07時00分わずか前船首至近に離岸堤を認め、驚いて機関を後進にかけたが及ばず、07時00分米山埼灯台から224度3.5海里の地点において、船体がほぼ原針路、原速力のまま離岸堤の南端に乗り揚げた。
 当時、天候は霧で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視程は約10メートルであった。
 乗揚の結果、新海丸は船底に破口等の損傷を生じ、のちクレーン船により陸揚げされたが、修理の都合上廃船処理され、A受審人は乗揚の衝撃で海中に投げ出され、約3週間の治療を要する肋骨骨折を負ったが、船体に這い上がっていたところを通りかかった漁船に救助された。 

(原因)
 本件乗揚は、霧により視界が制限された柿崎漁港沖合において、操業を中止して柏崎港に帰港するにあたり、船位の確認が不十分で、柿崎漁港の北東方にある離岸堤に向首して進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、柿崎漁港沖合において、操業を中止して柏崎港に帰港する場合、針路を設定するにあたって、濃霧のため陸岸の地形から船位を確認することが困難な状態であったのであるから、GPSプロッターの地形図を大尺度表示にするなどして詳細な船位を確認すべき注意義務があった。しかるに同人は、GPSプロッターの地形図を大尺度表示にするなどして詳細な船位を確認しなかった職務上の過失により、おおよその見当で針路を決め、柿崎漁港の北東方にある離岸堤に向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、新海丸の船底に破口等の損傷を生じさせたうえ、自らも肋骨骨折を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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