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平成15年横審第83号
件名

貨物船興洋丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年1月16日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(大本直宏、吉川 進、西山烝一)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:興洋丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)

損害
全損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月17日22時40分
 静岡県須崎半島南東沿岸
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船興洋丸
総トン数 499トン
全長 69.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 興洋丸は、船首部に旋回式クレーンを装備し、専ら土砂・砕石の運搬に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、土砂1,500トンを載せ、船首3.55メートル船尾4.90メートルの喫水をもって、平成15年2月17日17時15分横須賀港を発し、愛知県常滑港西方沖の中部国際空港埋立土砂専用揚地に向った。
 ところで、船橋当直体制は、時間帯のうち00-04(12-16)時を船長、04-08(16-20)時を甲板長、08-12(20-00)時をA受審人がそれぞれ担当する単独3直4時間であり、また、A受審人は、喫煙しても飲酒皆無の習慣で、船務のほか自主的に昼食と夕食の調理等をこなしており、同月16日が日曜日で横須賀港に係岸中、08時ごろから積地への転係開始日時である翌17日07時までの間に休息をとり、09時から17時までの積荷作業中、特に船務はなかった。
 次いで、A受審人は、12時30分から13時30分まで、係岸地点近くの商店で米と野菜等の食材を調達し、15時30分から16時00分まで、夕食の調理と配膳を行い、17時45分出港配置を解かれて18時00分入浴し、18時30分から夕食をとった後に自室で休息した。
 かくして、A受審人は、特に睡眠不足気味でも体調不良でもない状況下、相模灘を南下中の19時45分ごろチューインガムを携えて昇橋し、前直者から引き継いで船橋当直に就き、21時00分門脇埼灯台から086度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点に達したとき、針路を217度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 A受審人は、21時30分ごろ昇橋した機関長と立直姿勢で談話を交わしているうち、右舷側1海里以内の同航船を追い越して間もなく、機関長は降橋して機関室に赴いた。
 そのころ、A受審人は、同航船の追越し体勢が終わり、右舷ウイングへの出入口扉を閉じて船橋内を閉め切り、暖房の効いている状況下、22時00分ラジオの時報を聞いて間もなく、2海里ほど前方に同航船1隻があるのみで、気にかかる反航船もない周囲の状況を確かめた。
 A受審人は、タバコを一服して一息つき、操舵輪後方の椅子に腰を掛けて続航したが、まさか居眠りに陥ることはないものと思い、緊張感の薄れやすい周囲の状況と暖房の効いた船橋内にいて、腰を掛けた姿勢を続けると、居眠りに陥りやすくなるから、椅子から離れて風下側のウイング出入口扉を開け冷気に当たるなり、チューインガムを噛むなりして、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった。
 こうして、A受審人は、眠気を感じないまま睡魔に襲われ、いつしか居眠りに陥り、ふと目覚めて目前に迫った爪木崎沿岸の黒影と白波を認め、とっさに左舵一杯としたとき、興洋丸は、22時40分爪木埼灯台から071度500メートル地点の岩場に、原針路原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船首の一部及びマストを水面上に現した状態で水没して、全損となり、のち船骸は撤去された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、伊豆半島東岸に沿って南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、居眠りに陥り、爪木崎付近の沿岸へ向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、伊豆半島東岸に沿って南下中、単独で船橋当直に当たる場合、緊張感の薄れやすい周囲の状況と暖房の効いた船橋内にいて、腰を掛けた姿勢を続けると、居眠りに陥りやすくなるから、椅子から離れて風下側のウイング出入口扉を開け冷気に当たるなり、チューインガムを噛むなりして、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし、同人は、まさか居眠りに陥ることはないものと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ったまま進行して、爪木崎付近の沿岸への乗揚を招き、全損と船骸撤去の事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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