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5.4 性能向上システム検証機による陸上効果試験のまとめ
 以上、本年度では、「スペシャルパイプ基本性能向上システム(STEP基準対応)」、「IMO排出基準対応システム」、さらに「IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)」について、水生生物の処理効果等の改良を進め順次試験を行った。それら試験結果は、次のようにまとめられる。
 
(1)スペシャルパイプ基本性能向上システム(STEP基準対応)
 スペシャルパイプ基本性能向上システムは、スリット部流速を平成15年度に実船に搭載したプロトタイプ実機の30m/secから40m/secに速くしたことで、全てのスリット幅で、漲水時に処理した場合で7日後、また未処理で漲水した場合でも7日間貯蔵した後で排水時に処理すると、STEP基準を達成するまでの性能に向上したことを確認した。
 また、処理効果及びエネルギー効率の両面で検討すると、スリット部流速40m/secの場合には、スリット幅0.3mmが最適であると考えられた。
 
(2)IMO排出基準対応システム
 IMO排出基準対応システムでは、オゾン濃度5.0mg/、スリット部流速40m/sで完全にIMO排出基準を達成できることを確認した。
 ただし、本システムによる注入オゾンの溶解は不十分であると考えられた。よって、オゾンの注入方式を改良し溶解を効率的に行えれば、さらに処理効果が上昇し必要オゾン量も少なくすることが可能であると考えられた。
 
(3)IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)
 本システムは、IMO排出基準対応システムのオゾン注入方式等を改良したものである。改良の結果IMO排出基準を達成するのに必要なオゾン注入量を5.0mg/から2.5mg/に半減することが出来た。ただし、この性能を完全に証明するには、水生生物やバクテリアが多い温暖な時期での試験を実施する課題が残った。
 また、本システムにおいても、スペシャルパイプ通過直後のオゾン濃度はかなり低く、オゾン注入部のさらなる改良の余地は充分にあると考えられる。
 なお、同時に実施した注入オゾンの分解に関する試験結果では、IMOの排出基準を達成する可能性がある注入オゾン量2.5mg/は、バラストタンクを想定した貯留タンク注水直後で0.03mg/となった。また、オゾンが海水中の臭素等と反応して生成されるオキシダントは、貯留タンク内で1時間の間に急速に減少し、最終的に5日後には未処理原水と同レベルに分解された。さらに、貯留タンクでの気相のオゾン濃度は、30秒間で急激に減衰し、1時間後にはほとんど検出されないまでに低下した。このように、オゾンの分解速度は極めて速いが、これら濃度が船体腐食、乗組員の作業環境、及び排出後の環境影響に関して、どの程度の影響があるかは今後の研究・検討が必要である。
 
6. 今後の課題
 当協会が本事業で進めてきた船舶のバラスト水処理システムの開発は、現在、仮称スペシャルパイプシステムという機械的殺滅法を中心に進めている。その理由は、構造がシンプルなため小型で、操作性、経済性の面ですぐれ、かつ一定の処理効果を持っているためである。このスペシャルパイプシステムを本年度の調査研究では、米国沿岸警備隊のバラスト水船上処理システムの評価プログラム(略称:STEP)承認基準に適合するまでの性能に向上することができた。また、バラスト水管理条約におけるバラスト水排出基準に対応できるように、バクテリア等に対する処理効果が高く、かつ分解が速いことから環境面等への安全性も高いと考えられるオゾンと組み合わせるシステムを開発することにも成功した。
 しかし、現在IMOおいて作成作業中のバラスト水管理条約に付随するバラスト水管理システム承認試験のためのガイドライン、及び米国沿岸警備隊の承認システムでは、船上での運航に則した状況での水生生物に対する効果試験が必須になる状況にある。このような状況を鑑みると、本年度事業で作成したスペシャルパイプを中心とするシステムのさらなる効率化及び船体腐食等の安全性の面に関する検討を追加し、実船への搭載が可能なレベルまで進化させることが今後の課題となる。
 
7. 性能向上システムに係る国内外における周知・情報交換活動と資料作成
 周知・情報交換活動と資料作成は、資料を作成してシンポジウム、雑誌等で発表するとともにテレビで紹介された。
 
<シンポジウム、雑誌等での発表:公表論文等は次ページ以降に収録>
(1)日本船長協会の機関誌「Captain」(4月号)への掲載
(2)日本造船学会・日本マリンエンジニアリング学会・日本航海学会合同企画として、福代康夫東京大学アジア生物資源環境研究センター教授による講演題目「生物の分布広域化防止のためのバラスト水条約」の特別講演会及び木原洸海上技術安全研究所顧問の司会、福原教授(東京大学)、中村靖氏(日本海事協会)及び当協会の菊池武晃 海洋汚染防止研究部長をパネラーとした「船舶のバラスト水処理技術の現状」についてのパネルセッション(5月12日)
(3)2nd International Conference & Exhibition on Ballast Water Management(シンガポール)におけるポスター発表(5月18〜22日)
(4)平成16年度基準研究成果報告会(主催:日本造船研究協会)において、東京及び大阪での発表(6月10日及び17日)
(5)当協会機関誌「海と安全」での掲載(8月25日)
(6)IMO(MEPC52)でのポスター発表(10月4日〜15日)
(3)のポスターを100部製作し配布した。
(7)第4回バラスト水処理装置承認基準検討会(主催:日本舶用品検定協会)での発表(11月1日)
(8)米国環境保護庁及び米国コーストガードに対する当協会実施バラスト水関連調査研究事業プレゼンテーション(11月15日〜19日)
(9)フジテレビ報道番組「スピーク」での放映(11月18日)


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