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5.3 IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)の試験
(1)試験目的
 「5.2 IMO基準対応システムの試験」では、注入オゾン濃度5.0mg/、スペシャルパイプのスリット部流速40m/sで、50μm以上の水生生物から全てのバクテリアまで、ほぼ完全に殺滅し、IMO排出基準を達成することができた。また、スペシャルパイプとオゾンを併用することで、両者単独の処理効果の和を上回り、相乗の効果が発揮されることが明らかになった。この結果は、スペシャルパイプとオゾンを併用する「5.2 IMO基準対応システムの試験」の有効性を示すものである。
 ただし、注入オゾン濃度5.0mg/を想定して実船での運用を考えた場合に、必要となるオゾン発生機は大型で高価なものになる可能性がある。また、使用オゾンの酸化力による船体腐食への影響及び乗組員への健康被害対策の必要性を考えた場合には、注入オゾン濃度はできるだけ低くすべきである。この課題に関して、「5.2 IMO基準対応システムの試験」では、注入オゾンの混合・溶解が不十分で、気相への散逸による損失が大きい結果が幾つか示された。この結果は、反対にオゾン注入方法を改良し、混合・溶解を促進し、なるべく気相への散逸を防ぐことができれば、より一層の水生生物殺滅効果向上と注入オゾン濃度を下げることが可能であることも示している。効率的に試験水中へ溶存させるには、オゾンの注入方法を改良する必要があると考えられた。
 そこで、「IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)」は、マイクロバブル発生装置(ミキサーパイプ)をシステムに組み入れ、オゾンの溶解度を高め、IMO排出基準を満足しつつ「5.2 IMO基準対応システム試験」以上の効率的なシステム条件の把握を目的とした。また、同時に、将来の実船搭載を想定して注入オゾンの挙動についても把握することも目的とした。
 
(2)試験・観測項目
 
 試験・観測項目は、次の通りである。
 
(1)流量(スリット部流速を算出)
(2)スリットの上流及び下流の管内圧力
(3)未処理原水の水質(水温、塩分、水素イオン濃度(pH)、溶存酸素量(DO)、濁度(NTU)、電気伝導率(EC)、密度、溶存有機炭素(DOC)、粒子状有機炭素(POC)、浮遊物質量(SS)
(4)水中オゾン
(5)水中オキシダント
(6)貯留タンク内の気相オゾン
(7)50μm以上の水生生物濃度(殺滅率算出)
(8)10μm以上50μm未満の水生生物濃度(殺滅率算出)
(9)バクテリア(大腸菌群数、従属栄養細菌数)の濃度(殺滅率算出)
 
(3)試験方法
 
1)試験時期
 2005年2月16日から3月4日
 
2)試験場所
 佐賀県伊万里市の臨海試験施設
 
3)試験方法
(1)試験システム・操作
 試験システムは、「2.3 IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)の企画・検討」で示したシステムである。なお、使用計器類は、「5.2 IMO基準対応システムの試験」と同じである。主な改良点は、オゾン注入部分を散気管からマイクロバブル発生装置のミキサーパイプへの変更、スペシャルパイプの下流にバラストラインを模擬する停留タンクの追加、及びオゾン注入位置(ミキサーパイプからスペシャルパイプまでの距離の短縮)である。
 システムの操作は、まず港湾内の自然海水を一旦タンクに貯めた(未処理原水)。次いで、未処理水をコントロール水として補助ポンプとバルブ操作で採水した。その次に、オゾンの注入とスペシャルパイプでの処理に取りかかった。まず、オゾン発生機を運転し発生オゾン量を安定させ注入を開始し、高圧ポンプとバルブ操作でスペシャルパイプに通水して処理作業を行った。スペシャルパイプを通過した処理水は、バラストラインを模擬する停留タンクに通水し、次いでバラストタンクを模擬する貯留タンクに通水した。この時のスペシャルパイプから貯留タンクまでの通過時間は約40秒に設定し、実船のバラスティングのほぼ最短を模擬している。
 貯留タンクの容積は500で、貯留量は最大容積の約500とした。水中のオゾン濃度の測定はスペシャルパイプの直後、停留タンクと貯留タンク、同じくオキシダント濃度の測定は貯留タンクで経時的に測定した。気相のオゾン濃度は、貯留タンクが満水になると同時に、検知管法で水面直上のオゾンガス濃度を測定し、その後の経時的な測定も行った。貯留タンクは、実際のバラストタンクを模擬するため暗所に保管した。また、各試験ケースの物理条件(管内圧力と流量)の観測及び注入オゾン量のモニターは、試験実施時に連続観測した。なお、流量計は機器の精度上、気泡混入前であるマイクロバブル発生装置の上流に設置し、スリット総面積で割ってスリット部流速を算出した。さらに、停留タンクでは気泡の上昇速度を目視で観察した。
 なお、上記操作は、下記の各試験ケースで各々4回繰り返した。
(2)試験ケース
 表II.5.3-1には、試験ケース及び水生生物のサンプリング時期を示した。
 試験は、全てスリット幅0.3mmのスリット板を用い、スリット部流速は40m/sで行った。注入オゾン濃度は「5.2 IMO基準対応システム試験」でIMO排出基準が達成できなかった1.0mg/、2.5mg/及び0.7mg/である。
 なお、水中オゾン濃度、オキシダント濃度、及び気相オゾン濃度の測定時間は、各項目ごとにそれらの想定される分解速度を考慮して別途定めた(後述)。
 
表II.5.3-1 IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)の試験ケース及び水生生物のサンプリング時期
試験ケース 注入時の
オゾン濃度
水生生物のサンプリング
スリット幅 流速 未処理原水 処理直後 処理5日後 処理8日後
0.3 mm 40m/s 0.7mg/
1.0mg/
2.5mg/
 未処理原水とは、オゾン注入及びスペシャルパイプでの処理をする前の港湾自然海水である。他のサンプリング時期は、オゾン注入及びスペシャルパイプでの処理からの経過日数である。
 
(3)観測分析項目及び方法
 表II.5.3-2には観測・分析項目及び概略方法を示した。
 本試験で追加した項目は、オゾン気泡の上昇速度計測、水中オキシダント濃度、浮遊物質量(SS)である。
 
表II.5.3-2 IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)の試験における観測・分析項目及び方法
分類 観測・分析項目 観測・分析方法
物理条件 システム運転時の管内流量 超音波式流量計による計測
システム運転時の管内圧力 ひずみゲージ式圧力計による計測
オゾン気泡の上昇速度 アクリル性停留タンクで目視計測
水質 水温
塩分
水素イオン濃度(pH)
溶存酸素量(DO)
濁度(NTU)
電気伝導率(EC)
密度
水質メーター(HORIBA、 U-21XD)による測定
水中オキシダント濃度(貯留タンク) ヨウ素滴定法
水中溶存オゾン濃度(停留タンク、貯留タンク) 吸光度計による測定
未処理原水の溶存有機炭素(DOC)
未処理原水の粒子状有機炭素(POC)
燃焼酸化−赤外線方式
浮遊物質量(SS) 環境庁告示第59号付表8
気相 気相オゾン(貯留タンク) 検知管法
生物分析
(IMO基準対象項目等)
50μm以上の水生生物数 顕微鏡下における計数(未固定)
50μm未満10μm以上の水生生物数 前出同様の顕微鏡下における計数(未固定)
大腸菌群数 平板培養法
従属栄養細菌 平板培養法


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