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I 研究概要
1. 実施目的
 当協会は日本財団の財政支援のもと、バラスト水管理条約の審議動静に即した形で、船舶バラスト水等処理システムの開発を進めてきた。平成15年度には、アジア地域でははじめて、一般商船への実船搭載及び実用試験を成功させるに至った。このような事例は、世界にも数例しか存在しない画期的なものである。
 当システムは、他の装置と比較して有効性、経済性、簡便性等に優れ、かつ、環境にやさしい原理を利用している。よって、今後、本事業に係る協力メーカー等を通じ、世界の商船隊への広域普及等が大いに期待されているところである。
 こうした中、2004年2月9日〜13日に、IMO本部で開催された外交会議においてバラスト水管理条約が採択された。また、2004年3月のMEPC51では、本条約の実施に必要な、各種ガイドラインを2005年7月のMEPC53で最終化することが合意され、現在作成作業中である。一方、アメリカ合衆国(沿岸警備隊)は、2004年4月からバラスト水船上処理システムの評価プログラム(Shipboard Technology Evaluation Program: 以下、STEP)を開始するなど処理装置の実用化に向けて独自の動きも見られるようになった。このように船舶のバラスト水規制は、いよいよ現実的なものとなった。
 しかしながら、現時点ではバラスト水管理条約のバラスト水処理基準(IMO排出基準)を満足する処理装置は存在せず、実用的なシステム開発は緊急の課題となっている。
 本調査研究では、このような状況を鑑み、開発中の処理システムの性能を条約の基準に含まれている病原菌等も処理可能で、STEPの処理基準(以下、STEP基準)にも適合するように向上する。また、赤潮対策等にも活用することを念頭に置き、もって、国際世論のニーズにいち早く応え、ひいては、海洋環境の保全に資することを目的とする。
 
2. 研究の内容及び経過
2.1 研究内容
 本調査研究は、平成15年度「船舶バラスト水等処理技術調査研究」事業で、一般商船に搭載して試験を行ったバラスト水中の水生生物を殺滅するスペシャルパイプのプロトタイプ実機の基本構造等を活かし、性能を向上させて、IMO排出基準及びSTEP基準に適合するシステム(以下、性能向上システム)に改良することを目標とした。また、開発中の本システムを国内外に周知することも目標に含めて、以下の項目について実施した。
 
(1)「性能向上システム」の企画・検討
(2)「性能向上システム」検証機の設計
(3)「性能向上システム」検証機の製作
(4)「性能向上システム」検証機による陸上効果試験
(5)「性能向上システム」に係る国内外における周知・情報交換活動と資料作成
 
 さらに、調査研究は将来の実船搭載を念頭に置きつつ、赤潮対策、水質改善等への応用にも考慮しながら行った。
 
2.2 研究経過
平成16年
 
4月20日
 (社)日本船長協会誌「月報Captain第362号」に本事業の内容を紹介した。
5月6日
 昨年度製作したプロトタイプ実機の性能向上を目的とした、病原菌対策等、国際バラスト水管理条約下の高度化基準(IMO排出基準)を満足する「性能向上システム」の企画・検討を行った。
5月12日
 日本造船学会・日本マリンエンジニアリング学会・日本航海学会合同企画として、福代康夫東京大学アジア生物資源環境研究センター教授による講演題目「生物の分布広域化防止のためのバラスト水条約」の特別講演会及び木原洸海上技術安全研究所顧問の司会の下、福原教授(東京大学)、中村靖氏(日本海事協会)、当協会の菊地武晃 海洋汚染防止研究部長をパネラーとした「船舶のバラスト水処理技術の現状」についてのパネルセッションが開催され、活発な質疑応答が続き盛況であった。
5月18〜22日
 2nd International Conference & Exhibition on Ballast Water Managementに参加し、他の処理装置に関する情報収集及び本調査研究事業の周知活動(ポスター・セッション)を行った(於:シンガポール)。
5月31日〜6月4日
 スペシャルパイプ基本構造部の性能向上要素に関する陸上効果試験を行い、基本性能向上要素を確定した(於:伊万里)。
6月10日
 平成16年度基準研究成果報告会(主催:日本造船研究協会)において、船舶バラスト水処理技術の開発状況として本事業の内容を紹介した(於:東京(日本財団ビル2階大会議室))。
6月17日
 平成16年度基準研究成果報告会(主催:日本造船研究協会)において、船舶バラスト水処理技術の開発状況として本事業の内容を紹介した(於:大阪)。
6月30日〜7月30日
 「スペシャルパイプ基本性能向上システム」による陸上効果試験を行い、プロトタイプ実機以上の性能を確認した(於:伊万里)。
8月25日
 本協会情報誌「海と安全No.522」に本事業の内容等を紹介した。
8月30日
 「スペシャルパイプ基本性能向上システム」の性能を、病原菌等に対する効果も要求するIMO排出基準にも適合するように向上する方法を、国内外の情報を基に企画・検討し、化学的な殺滅方法との組合せが最適であると判断した。また、この組合せによる「IMO基準対応システム」検証機による陸上効果試験内容を検討した。
9月15日
 化学的な殺滅方法との組合せによる「IMO基準対応システム」検証機の試験内容を協議し、確認した。
10月4日〜15日
 第3回バラスト水作業部会中間会合及びMEPC52において、「平成15年度船舶バラスト水等処理技術調査研究」の実船試験結果に関するポスターを展示するとともに周知活動及び情報収集(特に、型式承認ガイドライン(G8)及び活性物質承認のためのガイドライン(G9))を行った。
10月5日
 化学的な殺滅方法との組合せによる「IMO基準対応システム」検証機の製作を完了した。
10月11日〜10月29日
 化学的な殺滅方法との組合せによる「IMO基準対応システム」検証機による陸上効果試験を実施した
11月1日
 (財)日本舶用品検定協会で開催された検討会において本事業内容を発表した。
11月15日〜19日
 交通分野における環境問題に関する国土交通省(MLIT)と米国環境保護庁(EPA)との政策対話(第1回会合、於:米国 ワシントンDC)において、当協会が実施しているバラスト水関連調査研究事業プレゼンテーションを行った。
11月18日
 フジテレビ報道番組「スピーク」において、バラスト水問題に取組んでいる本事業が紹介された。
12月2〜3日
 バラスト水処理技術試験について、今後の試験方法及び国際動向について関係者と協議した。
 
平成17年
 
1月18日〜19日
 バラスト水処理技術試験について、今年度の最終試験方法について関係者と協議した。
2月10日
 使用する化学物質量を減らし、より現実性の高い「IMO基準対応改良システム」検証機の製作を完了した。
2月16日〜3月4日
 使用する化学物質量を減らし、より現実性の高い「IMO基準対応改良システム」検証機による陸上効果試験を実施し、性能向上を確認した(於:伊万里)。
3月24日〜25日
 バラスト水処理技術試験について、今年度の試験結果及び国内外の動向、並びに今後の調査研究等について関係者と協議した。
4月5日〜6日
 平成16年度バラスト水調査研究結果考察会を行った。
 
3. 本事業の成果
 2004年2月にIMO本部ロンドンで開催された外交会議において「船舶のバラスト水及び沈殿物の管制及び管理のための国際条約」(バラスト水管理条約)が採択された。
 現在は2009年の発効を目指し、本条約の実施に必要なガイドラインの作成が進められている。バラスト水処理装置の型式承認に関しては、ガイドライン作成の最終段階に入っており、その要件は概ね明確になっている。
 昨年度事業では、プロトタイプ実機を一般商船に搭載し、通常運航に即した形での実証試験を行い、多くの貴重なデータを蓄積するとともに、運航に支障をきたすことなくシステム運用ができることを確認した。
 本年度事業では、このプロトタイプ実機をアメリカ合衆国(沿岸警備隊)によるバラスト水船上処理システムの評価プログラム(Shipboard Technology Evaluation Program:STEP)の承認基準(STEP基準)及び国際バラスト水管理条約の附属書D-2規則バラスト水性能(排出)基準(IMO排出基準)の達成を目標とした改良システムの企画・検討、設計・製作、性能等に関する陸上試験を行った。その成果として、STEP基準及びIMO排出基準の両方に適合する改良処理システムを開発するに至った。また、さらなる性能向上と効率化につながる改良点も見いだしている。
 これら成果は、IMO/MEPCで公表するとともに国内外のシンポジウムや各種会議でも多数発表した。また、昨年度に引き続きテレビ、新聞等のマスメディアによって広く一般に紹介され、バラスト水管理に係る日本独自の新技術として大きな社会的反響を得た。この新技術の開発は、今後のバラスト水問題の解決、及び類似する環境問題の対応策の検討に役立つものであり、事業の目的を達成するものである。


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