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[ドイツ調査報告(半谷俊彦)]
フランス・ドイツ出張調査報告<ドイツ>
2004年1月12日
和光大学経済経営学部
半谷 俊彦
 
I. 地方税における企業課税の行方
1. 営業税の位置づけ
2. 営業税の概要
3. 営業税の変容
4. 国際競争力と営業税
5. 改革の動向
 
II. 地方環境関連税制の現状と可能性
1. 法的枠組み
2. 地方炭素税の可能性
3. ゴミ事務に関する負担配分の現状
 
I. 事業課税改革の動向<ドイツ>
1. 営業税の位置づけ
 
図表1: 地方自治体の歳入内訳(2003年・経常会計)
項目 歳入額(十億ユーロ) 比率(%)
租税収入 46.8 38.0%
 営業税(分担金拠出後) 15.1 12.6%
 不動産税 8.6 6.6%
 所得税分与 19.8 16.1%
 売上税分与 2.6 2.1%
 その他の租税 0.7 0.5%
州からの交付金 39.0 32.5%
 一般交付金 27.0 23.3%
 目的交付金 11.9 9.1%
手数料収入 16.2 12.9%
その他 20.5 16.8%
合計 122.5 100.0%
出所:Bundesministerium der Finanzen, Finanzbericht 2005, 2004年発行、P170より作成。
 
図表2: 共同税の分配比率(2004年度)
連邦 地方自治体
所得税 申告納税分 42.5% 42.5% 15%
所得税 利子源泉徴収分 44.0% 44.0% 12%
所得税 配当源泉徴収分 50.0% 50.0% -
法人税 50.0% 50.0% -
売上税1) 51.4% 46.5% 2.1%
営業税分担金2) 50.0% 50.0% 拠出
1)地方自治体へ分配は、法定年金補助金財源分である5.63%を連邦へ配分した残額の2.2%であるので、(100% - 5.63%)×2.2%で求めた。連邦と州の間の分配は連邦財政調整法の改変によって必要に応じて定められるが、現在は1999年より発効した改変に基づいている。連邦への分配は、地方自治体分配後の49.60%に法定年金補助金財源分を加えたものであるので、(100% - 5.63% - 2.1%)×49.60% + 5.63%で計算した。同様に、州への分配比率は、(100% - 5.63% - 2.1%)×50.40%で求めた。
2)営業税分担金は、営業税収のうち、賦課率120%に相当する額である(営業税は、課税べースに全国一律である課税基準率を乗じて課税基準額を算出し、これに各地方自治体が自由に定める賦課率を乗じて税額を算出する)。
 
2. 営業税の概要
 
図表3: 営業税の構成
 
図表4: 営業税の課税ベース
 
図表5: 収益の指標
予定収益の指標 実現収益の指標
自己資本 純資産 利潤
他人資本 債務 支払利子、支払賃借料
労働 従業員数 支払賃金総額
 
図表6: 営業税の税額算定方法
 
図表7: 営業税の賦課率(2000年)
以上(%) 1 100 151 201 251 301 351 401 451 501
以下(%) 99 150 200 250 300 350 400 450 500
自治体数 1 29 235 618 4,864 6,101 1,772 192 18 3
出所:Statistisches Bundesamt, Finanzen und Steuern; Realsteuervergleich 2000, 2001年発行、P.84より作成。
全国平均は389%。
 
⇒ 営業税(および不動産税)の特徴
(1)物税であり、収益を便益の指標とみなす応益課税(等価原則課税)であること。
(2)地方自治体に賦課率が与えられていること。
 
3. 営業税の変容
 
図表8: 地方税の変遷
1891年 プロイセン:ミーケルの租税改革により、地方税には物税が充てられ、等価原則に基づくことが示された。不動産税、営業税、住民税(邦税たる所得税への付加税)が地方税とされた。
1936年 物税改革により、不動産税、営業税、住民税が全国一律の法律に基づく地方税とされた。
1920年 住民税が廃止された。
1930年 「財政的・経済的・社会的緊急事態除去のための帝国大統領の通達」により、住民税として新たに人頭税が導入された。
1943年 住民税が廃止された(所得税に吸収)。
1945年 憲法の制定に伴い立法権が連邦政府へ移譲された。
1969年 営業税分担金制度と所得税分与制度が導入された。
1980年 営業税のうち賃金高税が廃止され、営業税分担金が引き下げられた。
1993年 営業税について、基礎控除が引き上げられ1、人的会社に対して累進課税が取り入れられた。営業税分担金が引き下げられた。
1998年 営業税のうち営業資本税が廃止され、売上税分与制度が導入された。
 
⇒1936年までに物税(不動産税と営業税)を中心とする地方税制度が作り上げられた。しかし営業税については、課税ベースが縮小され、担税能力が考慮されるようになるにつれ地方税収に占める割合が低下した。現在では「大企業税」であるといわれている2。また、不動産税についても、課税べースたる土地評価額が陳腐化し、相対的に低下したことによって税収が低下した。他方、共同税たる所得税と売上税からの分与は、地方税収に占める割合が増加傾向にある。地方税制は物税から乖離する傾向にあり、問題視されている。
 

1 営業税(営業収益税)の基礎控除は、現在、人的企業(個人事業者および合資会社や合名会社などの人的会社)については24,500ユーロ、資本会社(株式会社や有限会社など)については3,835ユーロとなっている。
2 デュッセルドルフ市には、課税対象とならない自由業者を除いて、1万2千ないし1万3千の事業者がいるが、そのうち8000人だけが営業税の課税対象となっており、その内の100社だけで営業税収入の60%を賄っているといわれている。フランクフルト市には、自由業を除き、5万1千の事業者がいるが、このうちの86%は収益が基礎控除額を下回っているため営業税を支払っておらず、営業税収の80%までがたった28社の事業者によって支払われているといわれている。


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