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船絵馬入門

 事業名 海事科学知識の普及啓蒙活動
 団体名 日本海事科学振興財団 注目度注目度5


二 第二期(天明期〜享和期)の船絵馬
 第二期に当たる天明期から寛政期にかけての二〇年余りは、船舶画としての船絵馬の完成期というべき時期である。たとえば、天明三年(一七八三)の寺泊町(新潟県三島郡)の白山媛神社の千歳丸の絵馬(図13)や寛政初期(一七九〇年代前期)の尻海(しりみ)(岡山県邑久郡邑久町)の若宮八幡宮の載栄丸の絵馬(図14)をはじめとする約四〇面は、ほとんどが第一期と同じ標準形式ながら、船体の面でも艤装の面でもかつてないほどの写実性をもって実感的な表現に成功している。なかでも千歳丸系の八面と載栄丸系の五面は、そうした観点からも第一級の出来といってよいばかりでなく、リアルに過ぎて絵画性を失う欠点を出すまでに至っていないので、美術的な観賞にも耐え得る秀作と評することができよう。
 他の船絵馬もそれぞれ写実性に立脚しながらも個性的な特徴があり、いずれも捨てがたい味わいをもっている。なかには多少様式化の目につく絵馬もあるにしても、ごく少数にすぎないので、絵画的には最もよき時代かもしれない。
 大坂の絵馬屋の手になる船絵馬は、当該期にすでに全国的に需要があったらしい。これらの絵馬のほとんどの背景に住吉神社が描かれているのは、大坂出来だからだろう。
 住吉神社に関連して一言つけ加えておきたいのは、千歳丸系の絵馬の住吉神社の四本社の描き方には独特のものがあることである。寺泊の白山媛神社の六面をはじめとする同系の絵馬九面はすべて新潟県下にあって、瀬戸内海や紀州など他の地域ではまったく見かけないうえ、年代も安永七年(一七七八)から寛政二年(一七九〇)までの一三年間に集中し、その前後に同系の作風もあまりない。新潟地方に限られた作とするには、船体表現のうまさは当時でも群を抜いており、大坂出来以外には考えられないので、偶然の偏在とみるよりほかなかろう。
 ここで第二期の特殊な絵馬を二、三あげておこう。
 最初は天明五年(一七八九)の尻海の若宮八幡宮の絵馬(図15)である。これは尻海の港と若宮八幡宮を背景にして菱垣廻船ともう一艘の廻船が併走する当該期としては珍らしい構図をとっており、船の描写に多少のくずれがあるのは惜しいけれども、絵画的には高く評価したい作品であるし、当該期の代表作の一つに数えてよい。
 次は江刺市(岩手県)の愛宕神社に奉納された四面の絵馬(図16)である。うち三面が菱垣廻船で、三面が艫に仙台藩の御用船であることを示す赤九曜の幟を立てている。これら四面の絵馬は秀作の部類に属するが、瑞雲(ずいうん)に太陽を配した背景は他に類例がないところからして、おそらく江戸の絵馬屋の作ではないかという気がする。
 最後は明和三年(一七六六)に能生(のう)町(新潟県三島郡)の白山神社に奉納された羽ケ瀬(はがせ)船の絵馬(図17)である。羽ケ瀬船は、弁才船とは造船技術の系譜を異にする日本海独特の面木造り(おもきづくり)の商船で、一八世紀中期以降の弁才船の普及により丹後・若狭・越前など一部の地域を除いて衰退した。羽ケ瀬船の絵としては、他に『和漢船用集』の挿絵と南部藩の定めた船税徴収のための測度法の図解があるにすぎない。
 船体・艤装(ぎそう)・乗組のいずれをとってもこの絵馬の表現は申し分ない。たとえば、羽ケ瀬船では轆轤(ろくろ)舵といって舵が後方に流れるのを防止するため船内の下車船梁(したくるまふなばり)に仕掛けた轆轤から綱を舵にとって前方に引張っているが、絵師は船内から舵板に水平にのびる綱をぬかりなく描いている。また帆の裾(すそ)と下の帆桁の間を大きくあける羽ケ瀬船独特の帆装も的確に描かれているし、横風・逆風時の操帆法が基本的に弁才船と同じであったこともよくわかる。この絵馬は、造船技術史の資料として貴重であるばかりでなく、日本の船舶画の優品といっても過言ではない。ただ、これほどの作なのに、なぜか落款がない。
 
図13 天明3年(1783)の千歳丸の絵馬 
寺泊町の白山媛神社蔵
 
図14 載栄丸の絵馬 尻海の若宮八幡宮蔵
 
図15 天明5年(1785)の弁才船の絵馬 
尻海の若宮八幡宮蔵
 
図16 天明3年(1783)の菱垣廻船の絵馬 
江刺市の愛宕神社蔵
 
図17 明和3年(1766)の羽ケ瀬船の絵馬 
能生町の白山神社蔵







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