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昭和15年2月15日、長崎港外三重沖にて竣工前に行われた公試運転中の“新田丸” 大和ミュージアム
 
3. 旅客設備
 旅客は一等127名、二等88名、三等70名、三等が少ないのは欧州航路では移民の輸送がないためです。
 各等とも定員は大差ないのに、居住区域の大部分は一等で占められていて、サン・デッキから航海船橋甲板まで5層にわたり、エレベーター(Lift)が通じています。二等と三等は、AデッキとBデッキの後部にあるだけです。
 
一等(First class)
 Aデッキのほぼ中央にあるエントランス・ホールは本船の玄関で、案内所(Enquiry office)もあります。そこから階段を昇るとプロムナード・デッキ(Promenade-Deck)で、一等の主な公室が集中しています。甲板間の高さは全体的に3.5メートルと通常よりも1メートル近く高いので、各公室とも広々と明るい感じです。同デッキの公室は前から、
一等ラウンジ(Lounge):グランドピアノ付、周囲は展望デッキとなっています。
前部エントランス・ホール(Entrance Hall):階段の配置も面白く、下のデッキを含めて3層吹抜けと本船の見せ場であり、壁画や立像で飾られています。
一等読書室(Reading & Writing Room):大きな書棚や書机があります。
一等喫煙室(Smoking Room):バーが付属しており、遊びの中心になります。
中央エントランス・ホール(Entrance Hall):右舷(うげん)にエレベーターが見えます。
一等食堂(Dining Saloon):前部の特別食堂を含めて124席あり、ほとんど全員が着席できます。後部に映写室があり、料理は配膳(はいぜん)室(Saloon Pantry)より運ばれます。
子供室(Children's Room):子供の食事はここでとります。後部のオープンデッキは遊び場で、好天時にはブランコやすべり台が出されます。
プロムナード(Promenade):公室群をとり囲む幅の広い廊下。前半部は大きなガラス窓で風を防ぎ、一周200メートルあります。
 1つ上のボート・デッキは、大半が客室で占められており、公室は後部にあります。
一等娯楽室(Card Room):左舷(さげん)の小部屋で、トランプなどが楽しめます。
一等舞踏(ぶとう)室(Verandah):椅子をサイドに寄せるとダンスホールに変身し、バーカウンターもあります。
一等スポーツ・デッキ(Sports Deck):何物にも邪魔されない広々とした空間で、デッキゴルフなどスポーツが楽しめます。
一等プロムナード(Promenade):ライフボートの下で、ジョギングもできます。前部にある「あずまや」で一休み。
 さらに上がるとサン・デッキで、スポーツ関係の設備がまとめられています。
水泳場(Swimming Pool):長さ8.5メートル、幅5メートルで前部に観覧席があり、ボートが風除けになっています。
一等体育室(Gymnasium):右舷にあり各種の運道具を備え、入口には冷水飲み場もあります。
更衣室(Dressing Room):脱衣室、シャワー、トイレなどがあります。
一等スポーツ・デッキ(Sports Deck):舞踏室の上で、最も(もっとも)高い場所です。
 
 一等客室は、ボート・デッキ、Aデッキ、Bデッキと3層にまたがり、1人室の9室を除いてバス(またはシャワー)トイレ付きと、現在のホテル並みの設備です。
 Aデッキには両舷に特別室(Suite De Luxe)があり、居間・寝室・洗面所・バス・手荷物室が揃っています。
 また、ボート・デッキ前部にある3人室には小さな居間があり、ソファー(S)に1人寝ることができます。
 
二等(Second class)
 二等の設備は、AデッキとBデッキのいずれも後部にまとめられています。公室は前から、
二等食堂:62席用意されています。
二等エントランス・ホール:案内所があります。
二等ラウンジ(右舷):アップライト・ピアノ、書棚が付いています。
二等体育室(左舷):入口に冷水飲場があります。
二等喫煙室:バーが付属。マストの付け根を利用した遊具入れがあります。
二等ベランダ:プールが望めます。
水泳場(臨時):ハッチの開口部にキャンバスを吊るすポータブルなものです。
※このハッチカバーは凹凸(おうとつ)が無く、プールのない時にはスポーツができます。
 二等にも水泳場や体育室を設けたのは、昭和15年(1940)に開催予定の東京オリンピック(実際には開催されませんでした)のためで、選手は二等に乗るのが通例となっていたからでした。
 二等客室はAデッキに8室、Bデッキに22室、いずれも右舷にあり、内側の部屋も外側へ食い込んでいて外光が取りこめるようになっています。2人室から4人室まであり、寝台記号のP、Qは上段のベッドで、不要の時は壁側に格納します。3人室でも2人で悠々(ゆうゆう)と使えるのです。
 以上のように二等でも、狭いながらも一等に準じる設備となっています。
 
三等(Third class)
 三等の設備はBデッキの後部、主に左舷側にあります。公室は、
三等食堂:46席、入口に案内所があります。
三等喫煙室:丸窓で狭い部屋です。
三等プロムナード:木製のベンチと椅子があり、暑さに対する配慮が見られます。中央のハッチ上にはプールタンクがきますが、時には舞台にもなり演芸も楽しめます。
 
 三等客室は食堂の後部にあり、2・4・6人室が計18あります。窓の無い内側室が多く、2段ボンク(箱型寝台)と長椅子だけの粗末(そまつ)なものです。寝台番号の奇数は上段、偶数は下段を示します。
 以上、一等から三等までの格差の大きさが分かりますが、運賃の比率はほぼ5:3:1で、食事は一・二等が洋食、三等は家庭料理並みの和食でした。一等は、運賃以上に優遇(ゆうぐう)されていたのです。
 
横浜港新港埠頭(ふとう)に停泊中の“新田丸”。向かい側の大桟橋に停泊する“浅間丸”船上より撮影したもの 藤田操
 
横浜港新港埠頭を出港する“新田丸”、同じく“浅間丸”船上より。左の人物は日本郵船の大谷登社長 藤田操
 
多数の人々に見送られ横浜港を出帆する“新田丸”、ブリッジの上に“新田丸”を現す国際信号旗JPGNがひるがえっている 日本郵船歴史博物館
 
微速で前進する就航直後の“新田丸”。この角度から見ると近代的で均整の取れた船容が誠に美しい 船の科学館(上野文庫)
 
停泊中の“新田丸”を後方より捉えた写真。この角度から見ると、荷役に使うデリックが目立って貨客船との印象が強くなる 野間恒


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