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はじめに
 本書は、平成16年度に日本財団の助成を受け実施した海上防災訓練の充実強化事業の報告書である。
 
 独立行政法人海上災害防止センター(以下「センター」という。)は、その設立目的を達成するため、平成17年3月現在、全国の主要港湾に所在する145の業者及び外洋対応の11業者を契約防災措置実施者(以下「契防者」という。)として契約を結び、油等の流出事故が発生した際は、センターの指令により直ちに防除活動が実施できるように体制を整備しているが、契防者には、港湾運送、港湾曳船、港湾土木を本業とする業者が多く、防災事業を専業とする業者は極めて少ないのが現状である。
 このような状況に対し、平成11年度までセンターとしては契防者等が、防除作業を迅速、的確に実施する能力を保持するために、各現地において実際に即した流出油事故を想定して海上防災訓練を実施し、排出油等の防除に必要な知識及び技術の習得並びにその錬磨向上を図ってきたところである。
 しかしながら、このような各地で実施してきた訓練においては参加船艇及び人員の連携に重点が置かれていたことから、高度な技能の修得には時間的、設備的に制約があり、大規模災害現場において指揮ができるエキスパートを育成するには至っていなかった。
 特に、平成9年に発生したナホトカ号事故では、冬季の日本海で防除措置の極めて困難な高粘度化した流出油が大量に沿岸に接近・漂着し、さらに被災現場が広域に及んだことから、防除措置現場において高度な技能が求められながら、これらを習得した者の不足により被害の拡大を招き、人材育成の必要性が痛感されたところである。
 このようなことからセンターにおいても防除措置体制の主体である契防者において高度な技能を有する人材を育成することが急務となってきたところである。
 横須賀のセンター研修所では平成8年度から新設の油防除訓練施設において実際に油を使用し、実経験を取り入れた実践的な油防除訓練を実施しており、この施設を活用し契防者を対象とした高度な防除技術の習得を目的とした訓練を実施することが可能となってきたことから、平成15年度に引き続き平成16年度においても各契防者から選抜された者を横須賀に招聘し、同研修所で集中的に訓練を行うことで人材育成が効率的に実施できることとなり、これにより大規模災害へ対応できる人的体制の整備を図ることとした。
 また、実際に現地で油防除に従事する多数の者を対象とする、地域に即した防除措置の指導は、今後とも欠かせないものであり、センター派遣講師による油防除技術等に関する研修会を開催し、地域における海上防災能力の向上を図ることとした。
 
I. 事業の目的
 大規模な排出油防除措置作業の際に核となるべき高度な技能を有する人材を育成するため、当センター横須賀研修所において排出油防除訓練を行い、大規模災害へ対応できる人的体制の整備を図ることを目的とする。また、地域に即した防除措置の指導のため、当センター派遣講師による油防除技術等に関する巡回研修会を開催し、地域における海上防災能力の向上を図ることを目的とする。
 
II. 事業の実施経過
平成16年 4月1日 NF第2003009496号により助成金交付決定知書受理
4月13日 海防防第39・40・41号により関係海上保安本部及び同部署長並びに関係契約防災措置実施者に対し巡回研修会実施の協力依頼書送付
4月19日 海防防第42・43号により関係契約防災措置実施者に対し排出油防除訓練の参加協力依頼書送付
5月26日 富山地区巡回研修会
5月31日〜6月4日 排出油防除訓練
6月25日 熊本地区巡回研修会
6月28日 徳島地区巡回研修会
7月7日 三重地区巡回研修会
平成17年 2月7日 福島地区巡回研修会
3月11日 全ての支払いを完了
 
同日 同事業の完了
 
III. 事業の実施内容
〔1〕排出油防除訓練
1. 実施期間
 平成16年5月31日〜6月4日 5日間
 
2. 訓練参加者
 契約防災措置実施者から選出した27名
 
訓練参加者集合写真
 
3. 実施内容(別添2 日程表のとおり)
 大規模な排出油防除措置作業の際に核となるべき高度な技能を有する人材を育成するため、横須賀研修所において排出油防除訓練を行い、大規模災害へ対応できる人的体制の整備を図ることを目的として次の内容による訓練・研修を実施した。
(1)排出油事故対応措置の検討・評価
(2)洋上浮流油及び沿岸漂着油への対応措置
(3)排出油防除資機材の使用方法及び使用限界
(4)排出油防除資機材を使用した洋上訓練及び実油を使った海岸清掃実習
(5)排出油事故対応における戦略と戦術
 
(1)講義
a. 試験
 本研修を受講することによる排出油防除活動に関する知識・技術等の習得状況を評価するため、研修初日及び最終日に、同一の想定問題による現場対応に関する試験を行った。
 本評価方法については、研修生を4グループに分け、それぞれ条件の異なった想定(風向・風速・潮流等)問題について、その具体的な戦略と戦術等を作図・回答させた。この研修生の作図と回答について、予め作成した「想定問題評価基準」(別添3-2参照)等に従って、客観的に評価した。この結果、研修初日に実施した試験では平均点20点であったものが、最終日の試験においては平均点71点の成果を上げ、格段の向上が認められた。
 
b. 防除活動記録
 実際の防除活動の際に実施した業務の記録は、適切な防除活動が行われたという証拠の記録となるとともに、油防除活動に要した費用の請求の際の基礎資料となる重要な記録となることから、本研修全体をひとつの防除活動と捉え、これを日々記録することで実際の防除活動記録の作成方法を習得させることとした。
 
c. 流出油の種類及び性状
 油の成分と性質、種類、経時変化(拡散、蒸発、分散等)、自然浄化作用等を中心に、石油類が海上に流出した場合に、石油類の精製過程あるいはその成分により、また、気象海象により、油類が変化し流出油防除活動にどのような影響を及ぼすかを中心に講義を行った。更に、石油類が流出した際に発生する可燃性ガスや有毒性ガスと風速との関係等に関する基礎知識について講義した。
 
講義風景1
 
講義風景2
 
d. オイルフェンスの種類、性能及び展張理論
 流出油事故の被害を最小限に食い止めるためには、流出油事故発生直後から1時間以内にどのような措置を講ずるかが非常に重要とされている。なぜなら、流出油は急速に拡散するからである。このため、流出油源付近では、オイルフェンスは油を閉じ込める、つまり拡散防止の目的で使用される。
 しかしながら、気象・海象や水深の状況によっては拡散防止の目的が機能しない場合もあり、効率的な回収のための展張や、特定の場所を保護する目的の展張があることを理解させ、それぞれの目的のためのオイルフェンス展張計画等について講義した。
 また、具体的対処方法としてオイルフェンスの種類、性能、展張方法及び係止方法等について講義した。
 
e. 流出油の回収
 機械的回収の代表である油回収船及び油回収装置(スキマー)等の種類、使用方法を教授し、海上浮流油を効果的に回収する方法、使用限界等について講義した。
 また、物理的回収としての油ゲル化剤、油吸着材等の種類、性能限界及び使用条件等について講義した。
 海上浮流油の機械的回収は、タグボート等の作業船とオイルフェンス及び可搬式油回収装置等を組み合わせた油回収システムが世界の主流であることを理解させ、さらに当該油回収システムは、海上における油の回収に効果的であるばかりでなく、海岸漂着油や港内における流出油防除活動においても、オイルフェンスや油回収装置を転用することが可能であることについて理解させた。
 
f. 油分散剤(油処理剤)
 流出油事故初期において、油分散剤を適切に使用することは、沿岸域への浮流油の漂着を阻止し、汚染被害を極小化する有効な方法である。油分散剤の毒性、機械的回収との防除効率の比較、油分散剤の費用対効果、油分散剤に関わる条件、油分散剤を散布することが可能な海域、流出油量に対する油分散剤散布量の総量規制等について講義した。
 
g. 海岸清掃・保管・処分
 浮流油が海岸に漂着した場合、その経済的社会的ダメージは大きく、また、適切な防除活動を実施しなければ、かえって被害を拡大してしまうこともある。機械的清掃方法、人的清掃方法について講義すると共に、回収油や油性塵芥の一時貯蔵及び最終処分等について、わが国及び世界の事例を踏まえて講義した。
 
h. 事故事例
 我が国及び世界のこれまでの油流出事故の概要及び対応について、これらの事故対応から得た教訓を交えて講義した。
 
i. 事前計画・現場の安全
 地区の流出油対応組織における流出油事故の各段階に応じた対応手順及び危機管理について講義した。
 
j. 海上における防除手法の選択
 海上浮流油に対処する油回収船・油回収装置を駆使した機械的回収及び油分散剤散布による防除方法の2つの代表的防除手法に関して、回収効率及び分散処理効率を、気象条件、油膜条件の変化によっていかに勘案し、最適防除手法を選択すべきかを講義した。
 
k. 現場判断
 流出油事故の現場は、時々刻々とその状況が変化し、これに対応するにはその変化に応じた適時的確な判断が要求される。現場監督者等は、この変化する事実を積極的に認識し、認識した事実に基づくあらゆる可能性を探り、自らが使用可能な人的・物的資源の能力を把握した上で、対応のための戦略をたて、戦略を具体化するための戦術を展開し、さらにこの過程を継続的に再調査し、再評価し、新たに戦術・戦略を改訂する。このような判断の過程は防除活動が終了するまで繰り返されなければならない。
 流出油事故に関して、その事故情報の入手、分析、評価、対応の決定、動員、防除活動、進捗状況の再評価、対応手段の変更、終結の決定といった、流出油事故への対応の全過程についての判断のための考え方について講義した。
 
l. 2号業務への対応
 平成14年7月に発生した志布志湾での流出油事故の事例を交え、流出油事故に対しセンターの2号業務が発動された場合の対応について講義した。
 
m. グループディスカッション(試験)
 初日に実施した事故想定(試験)について、研修生を4グループに分け、それぞれの想定に対する対応についてグループ内で討議し、各グループ毎に発表させた。討議中は活発な意見交換があり、また、発表中は他のグループから鋭い質問や指摘が飛び出し、発表者が返答に窮するような場面も見受けられた。
 発表終了後は、研修生毎に再度想定問題に対する対応についてまとめさせた。
 
グループディスカッション1
 
グループディスカッション2


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