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VIII まとめ
 流出油事故対応のための一般資機材及び複合的な防除手法に関する調査研究の最終年度として、次の6分野に関して調査研究等を実施し、実海域における流出油防除実験計画(案)を策定した。
 なお、これまで行われた流出油防除に関する調査研究の成果を集大成としてとりまとめた「流出油事故対応防除マニュアル」については、本報告書には掲載せず、平成17年度日本財団助成事業「油流出事故対応のための防除技術等の研究成果に関する普及・啓発」における研究成果報告会の場で資料として配付を行うこととした。
 
1 円筒型簡易油水分離装置の試作及び実用化実験
 
 流出油事故現場で簡易な方法により回収した混合油水から油分を効率的に分離して回収するための手段を確立するため、円筒形簡易油水分離装置を試作し、大型実験水槽及び海上において実用化のための実験を実施した。
 円筒形簡易油水分離装置の試作に先立ち、15年度に作製した、開放型簡易油水分離装置模型を用いて貯油能力等の基礎調査を実施した。
 基礎調査の結果、次のことが分かった。
 
(1)比重の異なる試験油として灯油、FBK46のいずれを投入した場合も、静水中では模型スカートの深さに対して40数%の貯油能力がある。
(2)灯油の混合油水、FBK46の混合油水のいずれを投入した場合も、途中で模型スカート下部から白濁層が通過するのが見られ、この時のスカートの深さに対する油層の割合は灯油、FBK46とも14%であった。このことから、混合油水を投入した際には、静置分離を十分に行う必要がある。
(3)吐出水の高さ及び方向を変化させて、水中に生じた水流の状況を調査した結果、いずれの場合も水面からの吐出高さが高いほど水中に生じる水流が小さく(浅く)なることが分かった。
 また、斜め45度の向きで吐出した結果、水面に垂直に吐出した場合と比較して水流が小さく(浅く)なることが分かった。
 このことから、回収した混合油水を円筒形簡易油水分離装置等に投入する際には、ある程度の高さから斜め方向で投入すれば、水中に生じる水流が小さくなり、混合油水がスカートの下をくぐって装置外に出てくることを防ぐことができる。
 
 次に上記基礎調査の結果を踏まえ、円筒型簡易油水分離装置の試作を行い、実際の現場に近い環境で装置の実験を行うため、波浪をおこした訓練水槽や実海域に浮かべ、スキマーの吐出水を投入して装置の挙動等の調査を行った。
 調査の結果、装置スカート部は、水流や潮流の影響を受けて水平方向に捲れることもあったが、フロート部については、模型と比較して大きく設計しているために十分波浪に耐えることができ、装置全体は安定して水面(海面)上に浮かぶことが確認された。
 今後は、スカート部の捲れを抑えるために、スカート下部の錘の重量の調整を行う検討や、回収ホースの固定方法として装置フロートの上部に板を渡し、その上に回収ホースを固定する方法をとるなどの検討を行えば、海上で回収した混合油水の簡易分離装置として、十分実用化できるものと考えられる。
 
2 スキマー簡易洗浄システムの試作及び実用化実験
 
 流出油事故現場で簡易な方法によりスキマーの内外部を洗浄するための手段を確立するため、平成15年度に引き続いて、スキマー簡易洗浄システムを試作し、実用化のための実験を実施した。
 前年度の調査研究の結果、内部洗浄に関しては、洗浄ラインの途中にストレーナ(こし器)等の油塊を除去する装置や内部洗浄装置の手前に汚油分離槽を取り付けたシステムを検討する必要があり、外部洗浄に関しては、灯油が使用できるよう耐油性のある材質により洗浄機を試作する必要性が生じていた。
 
(1)スキマー簡易洗浄システムの試作
 スキマー内部洗浄装置は、15年度に作製したスキマー内部洗浄装置の形状を参考にして新たに作製した。装置上面を蓋付きの開口可能な構造とし、装置内部にこし網を新設することにより、内部洗浄後の灯油及び油塊(ごみ)の後処理を簡易に行うことが可能となった。また、キャスター付のスキマー積載台を使用することにより、現場でのスキマー本体の移動が可能となったほか、内部洗浄後の油の抜き取りの作業性が向上した。
 また、スキマー外部洗浄装置として、耐油性の材料により灯油散布装置を新たに作製した。
(2)実用化実験
 実用化実験として、スキマー内外部の洗浄効果を確認した。
 スキマーの内部洗浄については、スキマーヘッドの集油ホッパー内部に試験油を塗布し、スキマー内部に灯油を5分間循環させた結果、試験油の表面は若干柔らかくなったが、外気温が低く試験油の動粘度が非常に高かったため、短時間の運転では十分な効果を確認できなかった。
 スキマーの外部洗浄については、試験油をスキマー本体表面に塗布し、高圧温水等を吹き付けて調査を行った結果、灯油を表面に散布して高圧温水を吹き付けた洗浄方法が最も洗浄効果が高かったことが分かったが、高圧温水の洗浄のみでも十分な洗浄効果があることが確認された。
 このため、流出油回収現場で使用する場合は、高圧温水洗浄機と併用して使用する方法が効果的であると思われる。
 以上から、今回作製した試作品は、若干の修正を行えば十分実用化して使用できるものと考えられる。
 今後は、海上災害防止センター防災訓練所において、更なる実証実験を続けていくこととしたい。
 
3 国内の油防除訓練の調査
 
 国内の油防除訓練の調査として、鹿児島県串木野新港で行われた「平成16年度海上防災訓練」に参加し、実海域実験の計画の立案に必要な事項についての情報を収集した。
 訓練においては、起重機船にバキュームカーを搭載してオイルフェンス内の油の回収を行い、台船に集油する内容を想定した訓練も行われた(手続きのみ)が、このように一般資機材であるバキュームカーを油回収資機材として複合的に使用することは、非常に有効的な手段であると思われる。
 
4 民間防除勢力に関する調査
 
 民間防除勢力に関する調査として、油流出事故によって汚染された海鳥類の救護活動における、ボランティア等の民間防除勢力の役割について調査を行った。
 また、あわせて海上災害防止センターと防除措置の契約を行っている海上防災事業者である、契約防災措置実施者に登録されている各団体の概要と資機材保有状況について調査を行った。
 
5 シミュレータによる海上流出油の模擬油防除訓練
 
 平成15年度に引き続いて、流出油防除訓練用シミュレータを用いて、実海域実験で用いる油種、流出油量等のデータ及び具体的な防除手法を用いて拡散及び防除シミュレーションを実施し、実海域における流出油防除実験計画の策定を行うために必要な資料を得た。
 シミュレーション計算の結果は、次のとおりであった。
(1)スキマーによる回収防除シミュレーション
 50klの海上流出油量に対し、スキマー2基で物理的回収を行った場合は、流出8時間後である第1日目の夕方までに98.0%の油を回収し、この時の海上の残存油量は0.7klとなり、100klの海上流出油量に対しては、第1日目の夕方までに95.4%の油を回収し、この時の海上の残存油量は3.3klとなるといった結果が得られた。
 以上から、50kl及び100klの海上流出油量に対し、夕方までの防除作業でスキマー2基により十分に回収が可能であることが分かった。
(2)分散剤による分散防除シミュレーション
 10klの海上流出油量に対し、回転翼航空機2機で自己かく拌型油分散剤S-7による分散防除を行った場合は、流出9時間後である第1日目の夕方までに94.7%の油を分散させ、この時の海上の残存油量は0.4klとなるといった結果が得られた。
 以上から、10klの海上流出油量に対し、回転翼航空機2機により夕方までの作業で十分に分散処理が可能であることが分かった。
 
6 実海域における流出油防除実験計画
 
 本調査研究の最終目標の一つとして、これまでの個々の調査研究の結果を総合して、海上に油を流す複合的防除訓練と実験研究の実施を目標とした、実海域における流出油防除実験計画(案)の策定について検討を行った。
 実施内容については、スキマーによる海上流出油の回収実験と回転翼航空機を用いた自己かく拌型油分散剤(S-7)の散布による流出油分散処理実験の2種類の実験とした。
 スキマーによる海上流出油の回収実験については、ノルウェーの油濁防除機関NOFO(Norwegian Clean Seas Association For Operating Companies)が過去実施した洋上における海上流出油の回収訓練の内容を参考として検討を行った。
 S-7の散布による流出油分散処理実験については、15年度に回転翼航空機による油分散剤散布に関する調査研究で使用した、民間機のAS350Bの機体及び航空機用S-7散布装置による防除手段を用いて検討を行った。
 また、事前に防除シミュレーションを実施することにより、当日の夕方までに十分な回収または分散防除が可能となることを確認した。
 以上より、実海域における流出油防除実験計画(案)を策定した。


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