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V 民間防除勢力に関する調査
V-1 概要
 ロシアタンカー・ナホトカ号の油流出事故時には、民間非営利団体(NPO: Non-Profit Organization)やボランティア団体などの民間防除勢力が油防除活動等に参加を行っていた。本章では、民間防除勢力に関する調査として、油流出事故によって汚染された海鳥類の救護活動における、ボランティア等の民間防除勢力の役割について、(財)日本鳥類保護連盟が発行する、「野生等の油汚染救護マニュアル」を参考にして調査を行った。
 また、あわせて海上災害防止センターと防除措置の契約を行っている海上防災事業者である、契約防災措置実施者に登録されている各団体の概要と資機材保有状況について調査を行った。
 
V-2 油流出事故における各組織の役割分担
 油流出事故が発生した際には、野生生物に関しては、少なくとも被害を受けた野生生物の救護、被害規模の把握に関する調査といった2つの活動を実施する必要がある。
 この活動は、事故時には被害が一時に広範囲で生ずるおそれがあることから、行政、民間非営利団体、ボランティアなどが適切に役割分担を行いながら進めていく必要がある。
 油流出事故における行政、民間非営利団体、ボランティアの各組織の役割分担について以下に示す。
 
V-2-1 行政の役割
 油流出事故が発生した際の野生生物の救護、被害規模の把握調査に関し、行政は専門的組織の能力や私的ボランティアの労働力などを円滑に役立て、その全体を統括する役割を担う。
 特に事故時に現場で中心となるボランティアに対しては、役割分担を決定し、ボランティアの健康面での安全を考慮し、責任限界を明確にしておかなければならない。
 具体的な役割としては、次のとおりである。
(1)事故発生時の連絡網の確立
(2)野生生物被害対策に利用可能な施設等の整備と収納能力の把握
(3)資機材の準備と手配
(4)ボランティア受け入れ態勢の整備
(5)情報の記録と発信
(6)事態の収拾
(7)活動費用の船主賠償保険及び国際油濁補償基金への請求
(8)報告書の作成
 
V-2-2 民間非営利団体(NPO)の役割
 民間非営利団体の存在基盤は、科学的知識に裏付けられた専門性と世代や地域・国益にとらわれない行動様式にある。その特性から、地域や国を越えたネットワークを通じた専門的知識、情報を提供することができる。
 具体的な役割としては、次のとおりである。
(1)油汚染被害発生時の初期システム立ち上げに関するアドバイス
(2)救護施設におけるボランティアのマネージメント
(3)流出海域の野生生物生息情報の提供
(4)野生生物の繁殖地や希少な生態系の保全に関する専門的情報の提供
(5)野生生物の死体の病理解剖や生物試料から得られた原因油分析などの専門的分析
(6)生態系被害評価(NRDA: Natural Resources Damage Assessment)の調査方法に関するアドバイス
(7)NRDAのために集められた調査結果の分析に関するアドバイス
(8)野生生物救護や生態系保全活動の費用補償請求に関するアドバイス
(9)地域における油汚染への対応計画策定に関するアドバイス
(10)技術的な講習会やボランティア養成講座などへの講師の派遣
 
 ナホトカ号事故の際にNPOによって組織された油汚染海鳥被害委員会(OBIC: Oiled Bird Information Committee)の参加団体と役割を図V-2.1に示す。
 
図V-2.1 油汚染海鳥被害委員会(OBIC)の参加団体と役割
 
 
V-2-3 ボランティアの役割
 ボランティアとして油汚染野生生物の救護や被害調査に参加するのは、個人の自発的意思で、その人の時間と労働を無償で提供する人々である。鳥類の保護団体や自然保護団体の会員、動物愛護団体の会員、動物園や水族館の職員、生物系の学会の会員、地域の奉仕団体の会員、学生、主婦などその参加の動機や背景は様々となっている。
 実際の活動は数ヶ月に及ぶことがあるため、ボランティアで参加する人々は自ずと時間的制約があり、全体の作業の一部分を交代で担うこととなる。地方公共団体職員とNPOスタッフによって調整されたスケジュールに従って、無理のない作業を選択するとともに、自己の健康管理・ケガや施設内外での事故発生防止を最優先し、自発的に作業に参加することが求められる。ボランティアとして参加した時点から、自己のバックグラウンドより、救護活動全体の目的や役割分担が優先される。
 具体的な役割としては、次のとおりである。
(1)海岸線の調査
(2)被害生物や資機材の搬送
(3)汚染生物の洗浄
(4)保護・収容中の個体の給餌
(5)保護・収容中の個体の観察
(6)リハビリテーションに必要な材料などの工作
(7)収容施設の清掃
(8)回復訓練用資機材の洗浄
(9)記録の整理
(10)救護活動参加者の食事の世話
 
 油流出事故によって汚染された野鳥等の野生生物を発見した際には、それぞれの都道府県の野生生物保護(鳥獣保護)担当部署に連絡を行い、指示を受ける。
 汚染された野鳥等が文化財保護法上の特別天然記念物及び天然記念物に指定されている場合や、種の保存法上の国内希少種に指定されている場合、国や地方自治体毎のレッドデータブックに記載されている場合には、特に注意が必要であるため、専門家にアドバイスを求めた方がよい。
 専門家のアドバイスを求める場合の連絡先を、以下に示す。
 
 日本環境災害情報センター(JEDIC)
野生動物救護獣医師協会
東京都立川市富士見町1-23-16
TEL 042-529-1279 FAX 042-526-2556


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