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終わりに
 団員拡充モデル事業を終えて、やり遂げたというほっとした気持ちと同時に、福山団と一般参加者(子どもを含む)との間に、極めて薄い透明な膜が張られ仕切られているような感覚が残った。確かに我々の話しに良く耳を傾け、展示訓練では時には拍手さえ起こりもしたが、双方の間には違和感・異質感とは違う、何と表現したら良いか判らないものが薄い透明の膜のように覚えたのである。
 そして1回・2回・3回と事業を重ねてゆく内に、感じてきたもの。それは、拠って立つ所の物の考え方のずれに有るように思えた。
「集合!」「二列横隊。右へーならえ」「番号!」「1. 2. 3. 4. 5. 6. 満」「声が小さい! 番号もとへ!」「1. 2. 3. 4. 5. 6. 満」
 これは、モデル事業の中で行われた展示訓練の一例である。
 「戦後民主主義」が当然の趨勢よとして育った親に育てられた子どもを、私達は募集している。親にして見れば、自分が経験しなかった状況が眼前に展開している。
 全ての展示訓練は、めりはりの効いた指導者の号令と、団員達のきびきびとした動作によって構成され、其処には秩序と規律の黙契がある。
 一般の参加者は、このような事が出来る少年団体は稀有だと認知し肯定しこそすれ、さて、わが子の入団となると二の足を踏む多くの親が居るような気がしてならない。良い事だと知りながら、一歩踏み込めない心理状態は理解し得る。人は皆、自分の経験と知識により夫々の考え方を創っているからである。戦後60年間、海洋少年団のような名誉を重んじる事をモットーとする教育を経験していない者が大半だからであろう。
 自ら経験していない事を、子どもに積極的に推める気持ちは十々あっても、「戦後民主主義」的考え方の“自主性の尊重”ゆえに、親としての尊厳を持って子どもに一つの方向を与えてやるのをはばかるからであろうか。一般参加者の多くは「素晴らしい団体だ」と称揚してくれはしたが、子どもを入団させる「いざ!」の一歩が出ない。この一歩の踏み出しの無さが「極めて薄い透明な膜」だったのだろう。しかし、一般参加者の大方から肯定的意見と激励の言葉を頂いたのは嬉しかった。
 さあ!これからである。団員拡充モデル事業を実行した実績を突破口として、団員獲得に一層精励しなければならない。少子化だから団員が集まらないのは当然と云えばそれ迄であるが、少子化で苦労しているのは、ひとり海洋少年団だけではない。全国の青少年団体全てが人集めに苦労しているのだ。少子化を当然のこととして素直に受け止め団活動を遂行しなければならない。そして「海洋少年団員になって良かったなあ」と言うOB会員を一人でも多く増やすことを大目的としなければならない。
 将来する日本のために。


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