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7.11 干潟 ―水質浄化と多様な生物のすみか―
 多くの人が潮の干いた(ひいた)砂泥地に出かけ、潮干狩りを楽しんだことがあるでしょう。また、潮干狩りをする場所は、潮が満ちると再び海水に覆われることを知っているでしょう。このように、1日に2回、干出(干上がること)と水没を繰り返す平らな砂泥地のことを「干潟(ひがた)」と呼びます。干潟は、波浪の影響を受けにくい穏やかな入り江や湾内で、砂泥を供給する河川が流入する場所に多く発達します。
 干潟は地形的な特色により、次の三つのタイプに分類されます。河川の放流路の両側に形成され、砂浜の前面に位置する「前浜(まえはま)干潟」、河川の河口部に形成される「河口(かこう)干潟」、河口や海から湾状に入りこんだ湖沼の岸に沿って形成される「潟湖(かたこ)干潟」です。瀬戸内海の干潟は、大部分が前浜干潟と河口干潟です。
 
 
 干潟の多くは河口付近に広がり、1日2回の潮汐の干満があります。そのため陸上からは河川によって栄養塩や有機物が、海からは潮汐によってプランクトンが供給されます。つまり干潟には、陸と海から定期的に栄養分が供給されるのです。栄養塩は付着藻類や植物プランクトンの餌となり、有機物はバクテリアの餌になります。豊富な栄養で増殖した付着藻類や植物プランクトン、バクテリアは、動物プランクトン、ゴカイ類、二枚貝等多くの底生性小動物の良い餌となります。そして小動物は、魚や鳥の餌となるのです。このように、干潟は餌を生み出し、生物の餌場として重要な役割を果たしています。
 
干潟の食物連鎖(せとうちネットより)
 
 海には、河川水が毎日大量に流れ込んできます。この河川水には、生活排水等の汚れ(大量の栄養塩や有機物)が含まれています。そのうちの栄養塩は、砂泥表面に付着する付着藻類や植物プランクトンによって消費されます。残りの有機物は、潮の干満によって砂泥中に堆積し、砂泥中のバクテリアによって分解されます。干潟での潮汐による干出と水没の繰り返しは、海水中に大量の酸素を供給し、バクテリアを活性化させ、有機物の分解を促進します。このように干潟の砂泥は、海に流れ込む大量の汚れを浄化しているのです。
 また、干潟に生息する底生動物(ゴカイ類、貝類、カニ類等)の多くは、バクテリアの付着した有機物を好んで食べます。そして有機物を食べた底生動物を、魚や鳥が食べます。このような生物の食べる−食べられるという一連の流れの中で、有機物は生物へとその姿を変えていくのです。そして、貝に姿を変えた有機物は、人間に採集されることで海から取り除かれます。鳥に姿を変えた有機物は、干潟の外へ飛び立っていくことで海から取り除かれます。このように干潟に生息する生物の働きも、海の浄化に役立っているのです。
 ある干潟では、その海域へ一日に流入する窒素2.4トンのうちの1.3トンが干潟で取り除かれているという報告があります。つまり、海に流入する汚れの約半分をこの干潟が浄化していることになります。以上のように干潟は、海を浄化する様々な機能を持ち、海の浄化を担っています。すなわち、干潟は「巨大な浄化槽(じょうかそう)」と言えるのです。
 
干潟の生き物たち(せとうちネットより)
 
 干潟には、背後に広がるアシ原、河川水や海水が流れるミオ筋、砂地、泥地、潮溜まり等、様々な環境が存在します。そして、それらの環境に適応した様々な生物が生息しています。
 
 
 干潟に近づくと、満潮時でも海中に没しない高さの場所にアシ原が広がっています。アシ原の地面には直径5cm程のアシハラガニの巣穴が開いています。このカニは、一見大きくてこわそうに見えますが、普段はアシの葉や土中の有機物等を食べているおとなしいカニです。他にも真っ赤なハサミが特徴的なアカテガニなどがいます。
 
 
 アシ原を越えて干潟に近づくにつれ、次第に地面の水分が多くなってきます。満潮時には海水がここまで満ちてきます。足元に広がる泥っぽい地面には、黒くて細長い巻貝がたくさんいます。ウミニナやフトヘナタリガイです。この巻貝は、干潮時に砂の上をはい回って砂の中の有機物を食べています。付近の潮溜りでは、水面に2本の目がまるで潜望鏡のように飛び出しています。ヤマトオサガニの目です。このカニは、淡水の影響のある泥っぽい干潟が好きなようです。また、干潟に転がる流木や岩石には、フジツボの仲間やマガキが付着しています。
 


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